第9話「花嫁の友人~ブーケが運ぶ、幸せのバトン~」
第9話「花嫁の友人」
椿花の親友である神楽詩音の結婚式の日がやってきた。椿花はブライズメイドとして、朝早くから式場に向かった。
「詩音、おめでとう! 本当に綺麗だよ」
椿花は純白のウェディングドレス姿の詩音を見て、思わず声を弾ませた。
「ありがとう、椿花。あなたがいてくれて本当に心強いわ」
詩音は緊張した面持ちで微笑んだ。
式が始まり、椿花は友人の晴れ姿を見つめながら、自分の将来についても考えていた。
「いつか私も……」
そんな椿花の姿を、会場に招待されていた律、千紘、陽斗、蓮の4人が遠巻きに見つめていた。
「椿花さん、ブライズメイド姿が本当に似合ってますね」
千紘が感嘆の声を上げると、他の3人も無言で頷いた。
披露宴が始まり、椿花はテーブルを回りながら、詩音の手伝いをしていた。彼女の笑顔と気遣いに、多くの参列者が心を奪われていく。
「あの子、誰? 新婦の妹?」
「いいえ、親友だそうよ。でも、新婦より目立ってない?」
そんなささやきが会場のあちこちで聞こえ始めた。しかし、椿花本人は気づく様子もなく、ただ純粋に友人の幸せを喜んでいた。
披露宴も中盤に差し掛かったころ、突然のハプニングが起きた。詩音のブーケトスの際、椿花は人混みに押されて転びそうになってしまったのだ。
「危ない!」
咄嗟に4人の男性が椿花を支えようと駆け寄った。結果、椿花は無事だったものの、ブーケは彼女の手に収まってしまった。
会場が静まり返る中、椿花は困惑した表情でブーケを見つめていた。
「あ、ごめんなさい! 詩音、これ、返すね」
椿花が慌てて言うと、詩音は優しく微笑んだ。
「いいのよ、椿花。それはあなたに縁があったってことじゃない」
詩音の言葉に、会場からは温かい拍手が沸き起こった。椿花は照れくさそうに頬を染め、ブーケを大切そうに抱きしめた。
その光景を見ていた4人の男性たちは、それぞれの思いを胸に秘めていた。
「椿花さん、次は……」
千紘が呟いた言葉を、他の3人も心の中で繰り返していた。
披露宴が終わり、椿花は詩音と最後の挨拶を交わしていた。
「本当におめでとう、詩音。幸せになってね」
「ありがとう、椿花。あなたも幸せになるのよ。きっとすぐに」
詩音は意味深な笑みを浮かべながら、椿花の手を握った。しかし、椿花はその真意を理解できずにいた。
「え? 私? まだまだ先の話だよ。それに、私なんてモテないし……」
椿花の言葉に、詩音は思わず苦笑いを浮かべた。
「ふふ、椿花らしいわ。でも、周りをよく見てごらん。きっと素敵な出会いがあるはずよ」
その言葉を聞いても、椿花は首を傾げるだけだった。
帰り際、4人の男性たちは椿花を囲むように立っていた。
「お疲れ様、椿花」
「楽しい結婚式だったね」
「帰りは送ろうか?」
「ブーケ、大切にするんだぞ」
それぞれの言葉に、椿花は無邪気に笑顔で応えた。
「みんな、ありがとう! 私、本当に幸せ者だな」
椿花の言葉に、4人は思わず顔を見合わせた。彼女の無自覚さは、むしろ彼らの想いをより一層強くしていった。