スコアで評価される貴族界で、ぶっちぎりの最低点の私は
「ねぇ、エリス様。アナタ、いつまで殿下の婚約者として居座るつもり?」
――そんな爆弾発言が落とされたのは、クーベル公爵家の愛娘、ミランダの生誕パーティーでのことであった。
本日の主役であるミランダはあくまで上品に微笑みながら、眼前のエリスに蔑むような視線を向ける。決して大きくはないが凛とした響きの彼女の声は、パーティー会場をひとときの間静まり返らせ、参加者の注目を集めた。
周囲の視線を浴びながら、ミランダはあくまで淑やかに佇む。その頭上には、「12080」という白い数字が薄く浮かび上がっていた。
「そうよそうよ! いつまでも婚約者の座にしがみついちゃって、本当に図太いんだから!」
ミランダの後ろに控えた令嬢の一人が、彼女に同調するように甲高い声を上げる。金切り声に近いその声を上げた瞬間、そんな彼女の頭上から「-3」という表示が飛び出した。そして、彼女の上に示されていた「10094」という数字は「10091」に減じられる。
減点に気がついた令嬢はサァッと青ざめて、慌てて言葉を切った。そんなあからさまな彼女の反応に、糾弾されているはずのエリスが白けた顔を向ける。
「10862」、「11035」、「10589」……美しいミランダを取り巻く令嬢たちの頭上に表示されるのは、いずれもミランダには及ばないものの一万を超える値だ。
そういった数字は、貴賤を問わず会場内にいる老若男女すべての人間の頭上に表示されている。さらに言えば、この評定はこの国にいる限りすべての人間の頭上に示されるようになった『神の奇跡』であった。
この奇跡がもたらされてから、三十年余り。評定はこの国の文化、物の考え方にしっかりと根ざした存在となっていた。
「貴女が婚約者に相応しくない理由なんて、私がわざわざ言うまでもないでしょう?」
「私の評定が低いから……でしょうか」
大勢の令嬢に冷たい視線を向けられながらも、渦中にあるエリスは動じることなく淡々と彼女の言葉に答える。
彼女の頭上の数字は、「357」。それは周囲と比べても、あまりにも少ない数字だ。気の所為か評定の色も薄汚れて、煤けているように見える。……正直エリスにとってはそんなこと、どうでも良いことだったけれど。
疎ましそうにそんなエリスの低い評定に目をやり、ミランダは鼻を鳴らす。
「えぇ、その通りよ。そもそも伯爵家であるアナタが殿下と婚約を結べたのは、当時のアナタの評定が非常に高かったから。それなのに日々の怠慢が積み重なって評定が見る影もなくなったのだから、アナタに婚約者の資格なんてあるワケないでしょう」
図太いエリスの態度に苛立たしそうにしながらも、ミランダは幼子に道理を説くように辛抱強く言葉を重ねる。それはこの国の貴族からしてみれば至って理に適った言い分であった。
カシャン、と微かな音がしてミランダの頭上に「+8」という加点が表示される。これで彼女の評定は「12088」となった。年若い令嬢たちの間では、ダントツで一番高い数字だ。
当然、三桁の評定しか持たないエリスとは、比べるべくもない。
それなのに、エリスはそんな評定の差を気にすることなく、おっとりと首を傾げる。
「それではミランダ様、評定が求める人物像をあらためて伺ってもよろしいですか?」
「っ、バカにしているの? 評定において重要なのは、所作が優美で美しく、そして上品であることよ。私たち貴族はどんな時でもエレガントでなければならない。そして文化に精通し、深い教養を持たなければならない……常識じゃない」
「実際の政務に使える実学を学ぶのは、いかがでしょう?」
「そんな下品なこと、ダメに決まっているでしょう! 手を動かすような仕事は、使用人に采配するものよ。貴族のすることじゃないわ」
「では、貴族しか使えない魔術を学ぶのは?」
「本当に何も知らないのね……魔術を学ぶこと自体は、悪いことではないわ。ただし、先人の技をなぞるような創造性のない学習は減点対象よ。今までにない新規性を持つ魔術を編み出した者のみが、評定をもたらされる」
――それは、この国では誰もが知っている常識的な話。
目に見える形で評定が表示されるこの国において評定はすなわちその人の価値そのものであり、自身の価値を高めるために貴族たちはその評価基準を満たすべく邁進していた。
しかし、エリスはそこでもまた首を捻る。
「でも、不思議には感じませんか? 実務を経験したこともなく、体系的に魔術を学んだこともない、文化活動に傾倒しているだけの貴族……そんな何の役にも立たない者たちばかりが集まって、果たして国は発展するのでしょうか。確かに文化の洗練は大事なことではありますが、それだけでは物質的な豊かさも国力の増強も叶わないのでは?」
「ア……アナタ、何てことを……」
貴族社会の拠り所である評定を蔑ろにする発言に、わなわなとミランダの唇が震える。しかし、エリスはじっと彼女の目を見つめて視線を逸さなかった。
今の発言が貴族たちにとってこの世界の根底をひっくり返すようなものだということくらい、彼女も自覚している。異質なその考え方に同調する者が少ないことも。
けれど、少しでも想いが伝わることを祈って。エリスは真摯な表情でミランダに向き合う。
しかし評定至上主義の彼女は、エリスの言葉に取り乱した様子を見せないことに注力するだけであった。
しばらく唇を噛んで黙り込んでから、ミランダはゆっくりと溜め息を吐き出す。頭上の数字が小さく震え、加算も減算もされないままに評定を点滅させる。
「ス、評定が振るわないからといって、制度の所為にするのはやめなさい。アナタのその疑問は、価値を認められない者の単なる負け惜しみよ。耳を傾ける価値もないわ」
彼女の反応は、エリスとの議論を拒むもの。だがその反応さえも、エリスにとっては十分に想定の範疇のものであった。
「なるほど。では、私の評定がミランダ様よりも高ければ、話を聞いていただけるのですね?」
「え?」
あっさりとそう言い放つと、エリスは優美な手つきで右手を上げる。
途端、蔦が伸びるように何本もの虹が彼女の右腕をシュルシュルと駆け上っていった。右腕から勢いよく飛び出した虹はそのまま天井へと到達し、波打つように広がってシャンデリアを七色に輝かせる。その輝きはやがて雪のような優しい光となって、静かに会場に降り積もりだした。
その美しい光景はミランダだけでなく、パーティーの参加者すべての目を否応なしに惹きつけていく。そんな彼らの耳に、天上の調べのような心地好い音楽が届き始める。
光と音のハーモニー。幻想的な世界に誘われ、人々は時間も忘れてその二つが織りなす芸術に酔いしれる……。
それが余韻を残しつつ静かに消えていったのは、どれほどの時間が経ってからだろうか。夢から醒めたように人々は目を瞬かせ、不思議そうに自分の身体をあらためる。
「何だ? まるで若返ったみたいにすごく良い気分だ!」「長年悩まされていた節々の痛みが消えた」「今のはもしかして奇跡の業……?」「身体が軽く感じられる!」
ざわつく周囲の反応は、どれも喜びや感動の篭ったものだ。効果がしっかり行き渡ったことを確認し、エリスは唖然としたままのミランダに向かって優雅な礼をする。
「いかがでしょう、ミランダ様。私の回復魔術……お楽しみいただけましたか?」
その言葉が終わると同時に、エリスは自身の評定の加点が始まったことを感じる。頭上の数字は見えなくとも、己の評定はいつでもわかる。
目まぐるしく増える数字が最終的に表したのは、「12089」――計算通り、ミランダよりも一点だけ高い数字。
「そんな……そんな……!」
目の前の光景が信じられないと言わんばかりに目を見開いたまま、ミランダは苦しそうに喘いだ。
「おかしい……評定はそんな簡単に増えるようなものじゃないのよ! たった357点だった女が、一瞬で私の評定に並び立つなんて……!」
ぐらりと倒れかけて、ミランダは周囲の令嬢に慌てて支えられる。そのままぐったりと項垂れていた彼女はしかし、突然グワっと目を見開くとエリスに向かって人差し指を突きつけた。
「こんなこと、あるわけない……詐欺よ! この女、評定を不当に操作しているに違いないわ! 評定を偽るなんて、大罪よ……警備兵! とっととこの女を逮捕しなさい!」
平静を失ったミランダの評定は大幅に減点されていくが、それに気を回す余裕もない。目の前の現実から無理矢理目を背け、ミランダは己の心の安寧を取り戻すために喚き立てる。
おずおずと遠慮がちに警備兵がエリスへと歩み寄った。もちろん、個人の家に雇われた一介の警備兵が、逮捕権など持ち合わせているわけもない。それでも雇い主の意向を無視することもできない彼らは、ひとまず元凶となるエリスにこの場から退場してもらおうと気乗りしないながらも彼女の元へと歩み寄る。
――そこで。
「彼女に手を出すのはやめてもらおうか」
第三の人物が、エリスを守るように立ちはだかったのであった。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「ナッシュ殿下……! どうして、その女を庇うのです!」
王族を相手しているというのに取り乱したままのミランダの態度に、彼女の評定は再び大きく減点される。
その様子を面白そうに見ながら、ナッシュはわざとらしく背後に庇っていたエリスを抱き寄せた。彼の頭に浮かぶ「20165」という数字がキラリと光る。
「どうしても何も……愛しの婚約者が不当に責められていたら護るのが当然だろう」
「この女は評定を弄るとんでもない悪女なんですよ……!?」
「やれやれ。何の根拠も持たず、またエリスの魔術を目の当たりにしておきながらそんなことを口にするとは、驚きの胆力だ」
美しい金色の髪をかきあげ、ナッシュはすぅ、と大きく息を吸った。それだけで、会場中の注目が彼に集まる。その視線を受けて、ナッシュはよく通る声で凛と宣言した。
「さて、我が美しき婚約者エリスが類稀なる魔術の才能を持ち合わせているのはご覧の通りだ。彼女こそ、魔術だけでなく教養も含めた様々な分野に長けた才媛。彼女がその気になれば、誰も成し得たことのない10万点以上の評定を得ることですら容易いだろう」
だが、とそこで一旦言葉を切って、ナッシュは会場中を見回す。
「彼女はそれだけの実力を持ちながら、評定に重きを置いていない。評定がその人の価値だとは、考えていないからだ。そしてそれは、王家も同じ考えである」
ざわ、と空気がどよめいた。信じられない、と会場のあちこちから声が上がる。評定以外に相手の価値を推し量る方法が、一体何処にあるというのだろう。
「そんな、ナッシュ殿下……王家がそのような姿勢を示されたことなど、今まで一度も……!」
彼らの想いを代弁するようにミランダが悲痛な声で叫ぶ。その悲鳴のような反駁に、ナッシュは柳眉をかすかにしかめた。
「何を言っているんだ。直近で言えば、今年の新年の勅語でも『評定に偏重せず様々な能力を評価した人材登用を』という方針を伝えている。こうした言葉は、折に触れ何度も諸君らに伝えているはずだが」
「そ……それは、高い評定に加えて秀でた何かを身につけろという意味だと……」
しどろもどろなミランダの言い訳に大袈裟なジェスチャーで肩を竦めてみせてから、ナッシュはニヒルに唇を吊り上げた。
「ああ、そうか。君の家は代々教会の司教を輩出しているのだから、そう思うのも仕方ないのかもしれないね。教会はこれまた、狂信的なまでの評定至上主義だから。――まぁ人智の及ばぬ評定を神の御業と捉えること自体は仕方ないのかもしれない……ただね」
厳しい瞳で彼はミランダを見る。
「エリスも言っていた通り評定が高い人間だけを集めたら、国は滅びるんだよ。政治は、綺麗事だけじゃない。たとえばもしこの国で戦争が起きた時、評定の影響を気にするような者たちが果たして国のために戦うことができるだろうか?」
「そんなのは、平民に任せておけば……!」
「血みどろで国のために戦っても評定でしか成果を評価しない、実践経験のひとつもない……そんな貴族たちの下で、優れた兵士が育つわけがないだろう。――実務だって同じだ。君は使用人に采配するのが貴族のあるべき姿と言ったが、実務も知らずに一体どうやって彼らを統括するつもりだ? 仕事の内容も知らないくせに、采配した者の働きに責任が持てるのか?」
「……っ!」
淡々と重ねられるナッシュの言葉に、ミランダは顔面蒼白で黙り込む。気圧されたように、周囲もその静寂に呑み込まれていった。
「今の私の想いを聞いて我こそはと思った者は、近い内に開かれる側近登用試験に是非とも挑戦してほしい。君たちの強みを存分に見せてくれたまえ。もちろん、評定の値はいかなる意味でも影響しないから、そのつもりで。……さて、ミランダ嬢の生誕パーティーだというのに随分としゃしゃり出てしまって申し訳なかった。皆に心からパーティーを楽しんでもらうために我々はもう帰るとしよう、……エリス」
「えぇ、そうですわね。――それでは皆様、ご機嫌よう」
仲睦まじく身を寄せ合い、取り残された群衆を尻目にナッシュとエリスは美しい礼をする。そして振り返ることもなく、あっさりとその場を辞去していった。
そんな彼らの頭上には、この場にいる誰よりも高い評定が輝いていた……。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「さて、予定とは違う場での発表となってしまったけれど、概ね計画通りの運びとなったかな」
パーティー会場を後にしてエリスと二人きりになった途端、待ちかねたようにナッシュは声を上げた。その囁くような声には、抑えきれない楽しげな響きがこめられている。
「ミランダ嬢の……いや、クーベル公爵家のパーティーであれば幅広い貴族が参加しているし、情報交換も活発だ。今回の件も、僕らが去った後に思う存分に意見交換がされていることだろう」
「ええ、そう思いますわ。けれど……、よろしかったのですか? 本来の計画通りであれば効果はもっと見込めたのに、今日決行をしてしまって……」
心配そうなエリスの言葉を、ナッシュは明るく笑い飛ばす。
「そんなことより、僕の大事な人を傷つけないことの方がよっぽど重要さ。全然問題にならないよ」
「あら。あれくらいのコト、私は全然傷ついたりしませんわ」
わざとらしくツンと澄ましたエリスに、ナッシュの笑みはよりいっそう深まった。優しく彼女の手を握り、自身の胸へと引き寄せる。
「ああ、わかっているさ。君がそんなコトでへこたれるような弱い女性じゃないってことくらい。そんなところも、僕が惚れている君の魅力のひとつなんだから。でも、自分の恋人が周囲に軽んじられ、蔑まれるのをただ黙って見ているのは嫌だったんだ。……うん、ごめん。これは僕の我が儘だね」
「いぇ……嬉しいです」
少しだけ。ほんの少しだけ、エリスの声が詰まった。
そのわずかな感情の発露をしっかりと見極めて、ナッシュはさらに力強く彼女の手を握り締める。
――十年前。
高い評定と確かな血筋を手にしていたナッシュは、周囲の人間をごく自然に見下していた。彼の評定は子供達の中でも頭ひとつ抜きん出たもので、城内で働く大人たちすら彼に及ばない者も数多くいたからだ。
その結果、彼は自分が神に選ばれた至高の存在であると思い、周囲はそのために動く道具に過ぎないとまで認識を進めていた。
今思い返すと恥ずかしくて冷や汗が出る。しかし、当時の彼を諌められる人間は少なく、どこまでも膨れ上がった自尊心は傲慢な性格を助長する。
――そんな思い上がりを粉々に砕かれたのが、エリスとの出会いだったのだ。
美しい仕草で自分の前に伏せる可憐な少女、その頭上で輝く自分よりも高い評定……初めて出会った時のその衝撃を、ナッシュは今でも忘れられない。
エリスに庭園を案内してあげなさい、と二人きりにされた場でナッシュはさっそく彼女に話しかけた。
「お前の評定……なかなか頑張っているようだな」
悔しさを押し隠して、なんとか口にした褒め言葉。評定を褒められて喜ばない人間は居ない――そう思っての言葉だったのに、目の前の少女はああ、と関心なさそうに頭上を見上げる。
「こんなモノ、何の意味もありませんのに」
その言葉に、思わずカッとなった。
「何の意味もない、だと……っ!? 終わりない努力と常に張り詰めた緊張感……そうして努力した結果が、我々の高い評定だ。それなのに、何の意味もない……!? 見栄を張るな! わざと評定を減らすこともできないくせに!」
……その言葉は、評定に傷がつくことを恐れて挑戦を避けてきた自分自身にも刺さるもの。己の口にした言葉に、自身の胸が痛むのを感じる。
今まで覚えたこともない感情に、ナッシュはそこで初めて自分自身の本音を知った。
しかし、エリスの方は冷静なままであった。
「構いませんよ」
できるはずがないと口にしたナッシュの提案に、彼女は涼しい顔で頷いてみせる。
「へ?」
「殿下は木登りをされたことはありますか? 木に登って高所から景色を見下ろすととても綺麗で気持ちが良いのですが、何故か評定は大きく下がるのです。王宮の庭園でドレスを着て木登りなんて、減点は一体どれくらいになるのかしら」
「っ、オイ、ちょっと待て……!」
ハッとなったナッシュが止めようとした頃には、もう遅い。
躊躇いなく、そして何処か慣れた動作でエリスはスルスルと枝を登っていく。……そして。
「ああ、やっぱり。とても良い眺め。風も気持ち良いし、本当に素敵な気分」
無邪気な笑みを満面に浮かべ、太い枝に腰掛けたエリスは木漏れ日に目を細めながら彼を見下ろし、尋ねた。
「どうですか、殿下? 私の評価は下がりましたか?」
――ああ、その時の彼女の姿は本当に妖精のようで。 その時になって初めて、ナッシュは数字ではなくエリスと向き合ったのであった。
そしてそれからずっと、彼はエリスに心奪われたままだ。いつも、いつまでも彼女に心を囚われて目を離せずにいる。
「評定は呪いかもしれない……初めてエリスに言われた時のことを思い出すよ」
「そんな荒唐無稽な話を取り合ってくれるのなんて、殿下だけですわ」
軽やかな笑い声をあげるエリスに、ナッシュは愛おしげな視線を向ける。
「君の言うことは確かにわが国では受け入れがたいものかもしれないが、的を射ているともさ。実際、評定が表示されるまでは人材の評価制度は場面に合わせて多種多様なものがあったんだ。それなのに、今では何もかもが評定の数字ありきだ。……求められている能力は、それぞれ異なるのに」
「えぇ」
今更エリスに言うことでもないことはわかっているが、徐々にナッシュの口調は熱を帯びていく。
「相手の、そして自分の価値すら自分で測れなくなってしまったこの状態は、確かに呪われているといっても過言ではない。僕は……王家は、評定に頼らない国づくりを目指すよ。そして」
あらたまった仕草でその場に跪くと、ナッシュは眩しそうにエリスの顔を眺めた。
そこには彼女が常に晒されている評定を値踏みするような視線はなく、ただ一心に彼女自身と向き合う真摯な瞳が輝いている。
「その国づくりの横には、君が居てほしい。あらためて申し込ませてくれ……エリス。僕と共に、これからの人生を歩んでほしい。僕と結婚して、僕の人生の伴侶になってはもらえないだろうか」
「ナッシュ様……、はい、喜んで。これからもよろしくお願いします」
言葉少なに、エリスはナッシュの手を取った。その返事自体は素っ気なかったけれど、照れ屋な彼女の本音は真っ赤に染まった頬が雄弁に語っている。
それに堪えられずふふっと笑みを漏らすと、ジト目で睨みながらもエリスは身体を起こしたナッシュに寄り添ってそっと指を絡ませた。
「ねぇエリス」
隣に感じる温かな体温を感じながら、ナッシュは嬉しそうに告げる。
「君と出会ってから評定の数字に目がいかなくなった僕だけれど、君を表わす数字だけはきっとこのままだよ――僕の唯一にして、絶対のナンバーワン。この国の呪いが解けたとしても、僕にとっての君の数字だけは変わることは決してない」
きっと、とナッシュは空を見上げて何気なくつぶやく。
「皆、この唯一さえ確信できれば、評定なんて必要なくなるんじゃないかな」
――評定なんか見えなくても、人によってその人の評価が違っていても。そんな未来を思い描いて、エリスとナッシュはいつまでも美しい蒼穹を見つめていた……。
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こちらの作品とは打って変わった両片想いの静かな恋物語です。