迷い込んだ世界
俺は仕事を適当に済ませ、家路を急いでいた。
外まわりを済ませ会社に戻っても面倒な書類作業。
今日一日の進捗をできるだけ簡単に、かつ大変そうに見せるレポート、
そういうのをサクッと終わらせて、やっと家に帰れる。
家に帰っても可愛らしい奥さんが待ってるわけでもない。
奥さんどころか、生まれて35年間、ちゃんとした彼女がいたことすらない。
マンションのドアを開けても、電気のついていない
寂しい部屋が待っているだけである。
一応リーマン生活も10年以上続けていると
ある程度人並みのことをしてみようと思い、というか、
彼女ができたときにマンションを持ってると言うことが
すこしでも有利に立つかもしれないという思いから、3年前に
小さめではあるが2LDKのマンションを購入した。
リビングには少し大きめのテレビとソファ、
キッチンもあり、風呂とトイレだって別になっている。
ただ、ほとんどの時間をPC部屋で過ごしており
リビングのソファに腰かけると、いまだになんとなく自分の部屋ではないような
新鮮な気持ちになるほどである。
家に着き、部屋の電気をつけ、もう何日も着続けているスウェットの上下に着替えると
すぐにPC部屋に移り、VRグラスを装着する。
6畳ほどの広さのPC部屋は、身体全体の動きをトラックするための
装置が、天井の4隅に設置されており、
それ以外の物は小さな机とPCのみである。
どういう理屈で身体全体をトラックしてるかはよくわからん。
VRグラスを装着した俺は
目の前に並んでいる数万もあるいろんなワールドの中から
飲み屋の並ぶワールドを選んだ。
小さな路地の両側に、スナックのような飲み屋がずらりと並び
路地は右へ左へと、各所で分岐し、複雑な街並みを構成している。
それぞれのスナックのカウンターの中には、ママさんやマスターが立っており、
開けっ放しのドアからは、スナックごとの音楽と、
がやがやと酔っ払いたちの会話が漏れてきている。
さ~て、今日はどの店に入って飲むかな
バーチャル世界の中では、いろんな奴がいる。
もちろんおかしなクリーチャーもいるが、
なんといっても美しい女性が多い。
まあ、それぞれ好き勝手にアバターを作ってるわけなので
当然と言えば当然である。
街の飲み屋に行かずに、なんでこんなバーチャルの飲み屋に来るのかって?
街の飲み屋に行って、となりに美人が座って
すぐに話しかけてお友達になれたり、、、なんてことはまずない。
でも、ここでは、どの店に座っても
美人なママさんを前に、かわい子ちゃんが隣に座り
す~ぐに声を掛け合ってお友達になれたりする、、、
もうこれはリア充と言っていい。
ただし、相手はかわい子ちゃんでも、実際に男なのか女なのかはわからない。
そこがリア充とは、ほ~んのちょっと違うところである。
でも、まあ見た目かわい子ちゃんで声もしぐさもかわい子ちゃんなのだから
良しとしないといけないだろう。うん。
路地にあふれて出てきている酔っ払いをかき分けながら
飲み屋街をぶらぶらと歩いていると
店の建物と建物の間に、人ひとりがぎりぎり入れるくらいの路地を見つけた。
あれ?こんなところに路地が。。。
ここって入れるんだろうか?
バーチャルと言えど、街を作る時には
建物と建物をくっつけて建てるわけではなく、
そんな設計時にたまたまできたんだろうなあ、と。
奥に何かあるという期待も何もなく、
な~んとなく身体を横にして、なんとかその路地に入ってみる。
結構長い路地。。。
やっとのことで路地を抜けると
そこには小さな広場があった。
広場の先には、小さな川が流れている。
街を作る時、先に川を作って、その後、店を建てていったんだろうなあ。
ただ、とくになんもない5m四方ほどの広場である。
広場は川沿いに、何件もの店の裏側をつなげている。
俺は、なんとなく、どんどん先に歩いて行った。
次に出てきた広場には、小さな掘立小屋のような建物がある。
ん?これは、どういった経緯で、こんな建物ができたんだ?
こんなところまで、入り込んでくる奴はいないだろうなあ、と思いつつ
なんとなく、その掘立小屋に入ってみると、
世界が一変した。
強制的に、次のワールドへ転移させられたのである。
どこのどいつだ?こんなところに転移ゲートなんか置いた奴は。。。
そう思いつつ、転移中の亜空間をさまよいながら、
暫くするとふっと、背丈ほどの草が風になびく
広大な丘の上に立っていた。
あれ、なんだここは?
いろんなワールドを徘徊している俺も着たことのない世界であった。
後ろを振り返っても、転移ゲートはなく
緑の丘がずっと続いている。
おいおい、一方通行かよ
そんなことを思いながら、周りを見渡してみると、
空はどこまでも青く、気持ちのいい風が顔に当たる、気がする。
丘の先には、遠くに小さな集落らしきものが見える。
おおお!これは、また、誰だか知らんが、凝った世界をつくったものだ!
初めてくる新しい世界と言うのは、いつでもわくわくするものである。
周囲音も凝っていて、空気の音、風の音、遠くでさえずる鳥の声、
すばらしい!
まあ、時間は朝までたっぷりあるわけだし、
このほとんど芸術とでもいえる世界を堪能しながら、
ゆっくり集落にでも行ってみるか!
俺はゆっくりと緑の草の生い茂る丘を歩きだすことにした。




