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僕が天使に出会った話  作者: ダイフク
5/10

5.タイマン勝負をしよう


賭場の主らしい人物はガリアンと言うらしい。

今後、付き合いがあるとは思えないので、名前を覚える必要は無いだろう。


「勝負の条件はさっき言った通り。それで構わないな?」

「あぁ、構わない。」

「じゃあ、やってくれ。」


彼の部下がゆっくりとした動きでサイコロをカップに入れ、台にカップを伏せた。


「さあ、お前に先に選ばせてやるよ。」


男が余裕で僕に選べと言っていた。それでいいならそうさせて貰おう。サイコロが1と1なのは見えているのだから。


「ありがとう。長で。」

「じゃあ、俺は半だ。」


男と部下の間で目配せしている。わかり易すぎるだろう。

僕の耳元で精霊が笑っている。

部下の男がカップに手を伸ばし、開けると見せて、サイコロを転がそうとした。しかし、精霊がそのサイコロをほんの少しだけ動かす。それだけで、男の指は空振りだ。


部下の顔に焦りの表情が浮かんだ。

男も気がついたのだろう。苦々しい顔で部下を見ている。

しかし、今更カップを伏せる事もできまい。さあ、どうする?


「一一の長。」


おや、良い覚悟だ。意外にも正直者じゃないだろうか。

悪く思って申し訳なかった。


「に、兄さん、あんたの勝ちだ。約束を守ろう。」

「ありがとう。」


僕はゆっくりと、場を立ち、借用書を返してもらって部屋を出た。良かった。これで借金は終わりだ。キリエは喜んでくれるだろうか?


「兄さん。」


後ろから、男に声をかけられた。振り返ってみた男の顔は意外にもさっぱりしていた。


「兄さん、俺の下で働く気はないか?」

「ない。」

「即答だな。」


男は苦笑いしながら、それでも僕をじっと見て来た。


「兄さんに目をつけるのは俺だけじゃない。これから色んな奴に目をつけられるだろう。気をつけるんだな。」

「僕は興味が無い。」

「いつまでそう言っていられるかな。」


もう興味はない。帰ろう。


僕はキリエの待つ家に向かった。

そういえば、僕の着替えが無かった。もう少し稼げば良かった。考えが足りなかったな。

もう同じ方法では稼げないだろう。またマースに考えてもらおう。


「戻りました。」

「シャフール。」


キリエはあのまま立って僕を待っていてくれたのだろうか?

目に涙を浮かべ、細かく震える唇に笑顔を浮かべ、一歩2歩近づいて来る。

僕は小走りに駆け寄って彼女を抱きしめた。


「シャフール、おかえりなさい。」

「ただいま。キリエ。」



それからの毎日は、とても幸せなものだった。僕がかけらも想像した事のない。現実だと思えないほど、僕は幸せを噛み締めていた。


キリエと手を繋いで買い物に行き、毎食三人で会話しながら食事をする。

朝起きれば、温かい朝食があり、キリエの笑顔が眩しい。


キリエとマースは畑を耕して暮らしていた。そのささやかな畑はかろうじて食べていける程度のもので、これまで借金の利息を良く払い続けてこれたと思えるものだった。

僕はキリエが無事であったことを、生まれて初めて神に感謝したほどだ。


キリエの家は町外れの森のそばにあり、森との間には荒れた土地が広がっていた。


「キリエ、この土地は誰のものだ?」

「こんな荒地、持ち主はいないわ。」

「では、耕せば、キリエのものになるか?」

「え?こんな岩ばかりの土地、耕せないわ!」

「大丈夫だ。それで、キリエの土地にできるのか?」

「シャフール。無理しないで。もう借金も返してもらったから、生活には困らないのよ。あなたを家に帰してあげたいのに、ごめんなさい。」

「いや、僕はキリエといたい。」


荒地は開墾したものが権利を得ると聞くや、僕は土地の開墾に乗り出した。

僕が来た事で、この地の精霊は十倍にも増えていて、僕を手伝うことが楽しくて仕方がないらしい。

岩を砕き、土を柔らかく肥えたものに変え、荒地が広大な畑に変わるまでに一ヶ月もかからなかった。


町の人々がそれを見て、更なる開墾に乗り出し、僕は精霊に岩を砕く手伝いを頼んだ。見る見る豊かになる町で、僕はキリエと共に満ち足りていた。


時々、町の人が僕とキリエの事について聞いてくるようだが、マースが返事をしてくれているので、任せておいた。

偶に、隣町から人相の悪い男達が来るが、少し相手をしてやると二度と同じ男はやって来なかった。

賭場の主が別れ際に目をつけられると言っていたが、特に気になる事も起きず、日々平和だ。


そういえば、あの男は、賭場を閉めて、今では運送と用心棒の仕事を始めた。町が大きくなるにつれ、なかなか順調なようだ。

今では不思議なことに悪くない付き合いをしていて、頼まれれば用心棒の指導もしている。

付き合ってみれば、気のいい男で、苦しめられたキリエやマースですらあの男の事を嫌っていないほどだ。


「もう、シャフール、その笑顔は反則。」

真っ赤になって僕の胸に可愛い手をぶつけてくるキリエ。

ん?笑顔?僕が?

窓ガラスに映る僕はキリエの髪を指で梳きながら、笑顔を浮かべていた。


あぁ、やはり、キリエ、君は天使だ。




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