3.博打に精霊魔法はズルなのか?
マースと共に歩きながら、僕は精霊にこっそり挨拶しながら、契約を結んだ。
この辺りの精霊は使用者がいないらしくて、面白がって簡単に契約してくれた。
今から行く博打なるものの手伝いもしてくれると、随分と楽しそうだ。
僕には精霊魔法以外にも、空間把握が使えるので、サイコロの目を読むことなど、容易い。
しかし、精霊が楽しそうなので、困った時には彼らに任せてみよう。
「なぁ、ごめんな。こんな目に合わせちまって。」
「いや、構わない。」
「俺、姉ちゃんに止めようって言ったんだ。占いのババアに騙されてるだけだって。でも、姉ちゃん、他に方法が無いって・・・。」
「そうか。」
「兄ちゃん、もう戻れないかもしれないのに・・・。ごめんなさい。」
「いや、構わない。ところでマース、博打で勝てば、借金を返せるほどの金額を稼ぐことができるのか?」
「ええーっ、そんなに勝てるわけないよ。お試しだけだろ?」
「勝ってはいけないのか?」
「それは、良いけど。」
「そうか。ではキリエが喜ぶほど勝って稼ぐことにしよう。」
マースは何を言っているのかと言わんばかりに顔を顰めているが、まぁ、良いだろう。
マースに案内されて来た場所は、また驚く程に汚かった。その板の間に直接座り、博打をすると言う。
ここまで来てしまったので、今更引くこともできず、仕方なく腰を下ろした。
マースが渡してくれた札?と言うものを自分の前に置く。その間に周りの様子を見ていたので、一応作法は理解した。
「さぁ、はったはった!」
「長」
「半」
「そこのご新規さんはなんにかけるんだ?」
「ご新規さん、ふむ、僕のことか?では長に全部。」
「に、兄ちゃん、全部かけて、外れたら終わりだよ。もう買えないから。」
「そうだな。」
「そうだなって・・・」
「兄さん、良いかけっぷりだ。長で良いんだな?」
「構わない。」
「じゃあ、開けるぜ。・・・・・・四六の長。」
「あ、当たった。兄ちゃん当たったよ!」
「そうだな。」
「兄さん、運が良いね。次も行くかい?」
「もちろんだ。」
「さぁさぁ、はったはった。」
僕はまた全ての札を出して、半にかけた。
「兄ちゃん、全部って・・・!」
「構わない。」
「兄さん、本当に思い切りがいいな。本当に初めてかい?」
「そうだ。」
「まぁ、いいや。その運、どこまで通用するかな?」
その後も僕は全てかけ、全て勝った。途中、サイコロを転がす人が変わって、カップを開ける直前にサイコロを転がすようになったが、精霊が更に転がしてくれるので、結果は僕の勝ちのまま変わることがない。
短時間で僕の前の札は置ききれないほどの山となった。
問題はサイコロを振っている側の顔色が悪くなった事、ぐらいだろうか?
あぁ、そういえば、マースの顔色も悪くなっている。
どこか具合が悪いのだろうか?帰った方が良いようだ。
「マース、この札を金に変えてくれ。」
「待ちな兄さん。舐めたまねしてくれるじゃないか!」
「? 舐めたまね?すまない。言っている意味が分からない。知らない言葉だ。」
「勝ち逃げされちゃ困るって言ってんだよ!」
「駄目なのか?それは知らずに申し訳ない。しかし、連れが具合が悪くもう帰らせて欲しい。それにこのまま続けても僕が勝つだけだと思うので、良い頃合ではないだろうか?」
「勝つだけって、お前、イカサマをしたのか!?」
また、聞いたことのない言葉が出てきた。イカサマ?なんの事だろう?
「兄ちゃんはそんな事しないぞ!」
困った。騒ぎになってしまいそうだ。ここは、僕の精神魔法の出番だろうか。
僕は相手の目をじっと見て、ゆっくり話しかけた。
「怒らず、僕達を帰して欲しい。頼む。」
「・・・・・・あぁ、そうだな、おい、札を金に変えてやれ。」
「ありがとう。」
突然物分りの良くなった男にマースが驚いているが、差し出された貨幣の多さにどうでも良くなったらしい。
僕達は大金を持ってキリエの元に帰った。
今日、僕が稼いだ金額は彼らの借金のほぼ半分にもなり、意外にもここで稼ぐことが簡単な事がわかった。
キリエは喜んでくれるだろうか?
僕達の稼いだ金を見て、キリエは驚きはしたが、喜んではくれなかった。
魔法でバババッと金を出すのは良くて、博打は駄目なのは何故だろう?どちらも魔法なのだが。
この世界は分からない事ばかりだ。