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「心を読む魔法」

コミック第1巻が発売しました!

詳しくは活動報告をご覧ください~!


アカルディ王国初代女王アレッサ・アカルディの小話。

 

 アカルディ王国初代女王、アレッサ・アカルディ。

 勇者と共に悪しき魔王を打ち払い、"神に愛されし聖女"であったと語り継がれる彼女は、優れた固有魔法をいくつも使うことが出来た。

 

 それもその筈。アレッサは、魔王らによって滅ぼされそうな人類を救う為に遣わされた創造神の娘──いわば女神なのだから。

 

「アレッサ。ここにいたのか」

「勇者」

 

 建築されてまだ2年も経っていない城壁の上からぼんやりと街を眺めていると、後ろから声がかけられて。

 聞き慣れた声にアレッサが振り返れば、声をかけた男は少し残念そうに肩をすくめた。

 

「勇者と呼ぶのはやめてくれと何度も言っただろう。もう俺は君の夫なのだから」

「あぁ、すまないファウスト。貴方を見ると一番にその言葉が浮かんでくるんだ」

 

 ファウスト。魔王によって滅ぼされた国の田舎に住む普通の青年であったが、たまたま人より魔力を溜める器が広く、それによりアレッサの父たる神に勇者として選ばれた男。

 剣などまともに握ったことのない、戦いとは無縁だった彼が、それでも宿命を受け入れ何度も傷を負いながらも立ち向かう姿に、アレッサが愛という感情を覚えるのに時間はかからなかった。


 魔王を打ち倒したと言っても、魔物全てがいなくなったわけではない。魔界では土地から瘴気が絶えず湧き、それが魔物となる。

 それ故、多くの人々は愛し合う勇者と聖女が魔界に隣接する国の守護者となることを願い、今の女王と王配という立場に落ち着いた。 

 

「誰も傍につけていなかったのか?」

「少し、一人になりたくて」

「その気持ちも尊重してあげたいけれど……聖女(きみ)の力を狙う者は五万といる。俺が傍にいることを許してくれるか?」

 

 ファウストが申し訳なさそうに言うから、そしてただただ心配してくれているのだと分かるから、アレッサはこくりと頷いた。

 

「貴方ならいい。貴方には裏表がないから」

「褒めてくれてる?」 

「勿論。私はファウストのそういうところが好きだよ」

「……単純で馬鹿だと言われたことはあるが、そう言って貰えたのは初めてだな」

 

 今度は照れたように頭をかく彼に、隣に来るよう手招きをする。

 ファウストは、変わらない。(彼自身)も、(コル)も。だが、皆がそうとは限らない。

 

「この間、心の声と姿を可視化する魔法を作ったと言っただろう」

「ああ」

 

 人間という生き物は、お世辞だの建前だの……何を考えているのかよく分からなかった。 

 だから、本当の気持ちを可視化すればいいと思った。創造神にある程度の権限を与えられているアレッサには、造作もないことだった。

 神の娘だということはファウストにも伏せているから、神の力ではなく、聖女の固有魔法だということにしていたが。

 

「結論から言えば、この魔法を作ったことは正解だった。不正を暴くことも、謀反を企てる者を見つけることも簡単に出来る。女王には必要な力だ」

 

 一度は魔王軍に踏み荒らされた土地を何とか復興し、漸く国として回るようになってきたのがつい最近のこと。そして平和になり、共通の敵を失うと出てくるのが悪巧みをする者で。

 そういう奴らを一掃するのに、コルという存在は大いに役に立った。

 ただ──。

 

「でも……友人だと思っていた旅の仲間達が、今でさえ友人のように接してくれる彼らが、私に対して抱いていたのが友愛ではなく信仰心だと分かって、少し落ち込んでいたんだ」

 

 女王となった今でも、アレッサへ気軽に声をかけてくれる旅の仲間達。友人として大切に思っている彼らが、権力に媚びている可能性があることなら覚悟していた。けれど──。

 

 ──神の愛を受けた我らの光。我が希望。このような軽口をきくなど、本当は心苦しいのですが……。

 ──ああ、聖女様。聖女様のお言葉で明日も生きていけます。友人など恐れ多い……。

 

 まさかそんな、信仰の対象のように思われているとは想像もしていなかったのだ。

 友人らのコルの姿を思い出して、小さく溜息をついたアレッサの頭をファウストの大きな手が撫でた。

 

「無理しなくてもいい」 

「……いや、平気さ。もう2度と同じ事が起きないよう、この国を人類の砦にしなければならないのだから。その為には人間同士で争ってる場合じゃない」

 

 そもそも魔王が生まれてしまったのは、邪神の介入によるものだ。だからこそ、もし再び魔王が生まれても立ち向かえるように、アレッサにはアカルディを強くする必要があった。

 ただ、責任の重さに彼女が無自覚にギュッと握った手を、ファウストは見逃さなくて。

 

「それなら、俺がその魔法を使えるようになればいいじゃないか。俺が君の目になればいいだろう」

 

 そう言ってアレッサの方をまっすぐに見つめてくる。

 結論から言えばそれは可能だ。可能だが──ファウストは知らなくていい。知って欲しくない。

 彼がアレッサに……王配の地位に相応しくないと思っている者達がいること。所詮は田舎の出だと、学がないと嘲笑う者がいること。あんなのは全て戯言だ。彼の耳に届くべき言葉ではない。

 

「これは聖女の魔法だ。ファウストには使えない」

「そうか……残念だ」

 

 性別の問題ではどうにも出来ないと早々に諦めがついたのか、ファウストはそう言って苦笑した。

 

「大丈夫。子孫が苦労しないよう、この地位を確固たるものにしてみせるさ」

「それならせめて俺にも手伝えることはないか?」 

「ふむ、では貴方に書類仕事をいくつか頼んでも?」

 

 ファウストが傍にいるだけで、どれ程アレッサの心の支えになっていることか。少しも理解していないだろう彼に意地悪で苦手な分野を振ってみた。

 すると一歩後ずさって、眉を顰めたかと思えば。

 

「そ、そうきたか。だが……君が望むなら何だって」

 

 そう言って笑うものだから。

 

「冗談だよ。貴方にはペンより剣を握らせた方が良い。そして、いつでも傍にいて」

 

 アレッサは彼の頬に手を伸ばした。目を見開いたファウストの肩から思わずといった様子で飛び降りたコルが、私に口づけた。

 


 心を読む魔法は、この国を守る為には必要な力だ。とはいえ知らない方が幸せな事もあるだろう。苦しい思いをすることもあるだろう。

 けれど──愛する人がいれば、きっと大丈夫。

 だからこの魔法を得る貴方が、心から愛せる人に出会えますように。

 創造神にある程度の権限を与えられている私の願いは、きっと叶うから。

神に愛された聖女と語り継がれるアレッサは神の娘…つまりアカルディの王族は神の血が流れてるという話でした。

魔法が使えない場所で聖女の魔法が使えるのは、そもそも魔法じゃなくて神様権限だからという補足。


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