「第二王女 アンジェリカ」
本日コミカライズが連載開始しました!
とっても素敵な漫画になっているので、是非是非見てください~!
SSは主人公エステリーゼの妹で、動物と会話する魔法を使える第二王女アンジェリカの話です。
時系列は本編1話で、エステリーゼの執務室に突撃してきた前後。
私の姉、エステリーゼ・アレッサ・アカルディは自己評価が低い。そのくせ責任感が強いものだから、放っておくとすぐに無理をしてしまうのだ。
だから今日も、休憩時間をなかなか取らないお姉様をお茶会に誘っていたのに。
約束の時間にやって来たのは──遠征任務に行っていた筈のセオドア兄様で。
「セオドア兄様……本当にごめんなさい。またお姉様がつれない態度をとったんでしょう?」
なんでも、明日までに終わらせなければならない仕事が立て込んでおり時間がとれなかった、申し訳ない──とのこと。折角お姉様の為にリラックス効果の高いお茶とか、お姉様が好きそうな焼き菓子を用意していたのに……。
とはいえ、それ自体はそこまで気にしていない。第二王女の私と次期女王であるお姉様とでは、仕事量も責任の重さも違う。忙しいのであれば仕方ない、それが素直な感想だった。
問題は、そこではない。
「いえ、決してそんなことは」
「でも……少し元気が無いように見えるわ」
「そ、そうですか? 今朝戻って来たばかりなので、少し疲労が溜まっているのかもしれませんね」
そうやって誤魔化すセオドア兄様は、いつも通りの笑みを浮かべているつもりなのかもしれないが……。やはりどこか落ち込んだような彼の様子に、二人の間でどんなやりとりがあったのか大体予想がついた。
きっとあの姉はまた、セオドア兄様を邪険にするようなことを言ったのだろう。
セオドア兄様はお姉様のことを深く愛している。それは周知の事実だ。誰にでも優しいセオドア兄様だけれど、やっぱりお姉様に向けるものは表情も言葉も全て特別だもの。
なのにお姉様は、そんな彼に対してそっけない言動ばかりとるのだ。
まるで──セオドア兄様との婚約は不本意で、結婚する気はないとでも言うかのように。
「お姉様はその……素直じゃないのよ。本当はセオドア兄様のこと大好きなんだから、あまり気を落とさないでね」
「アンジェリカ殿下は、お優しいですね」
本心からの言葉だったのだが……慰めだと受け取ったのか、セオドア兄様はそう言って苦笑した。
「慰めなんかじゃないわ。だって私……」
私、覚えているもの。
お姉様がセオドア兄様を避け始める前まで、本当に幸せそうだったこと。幼い私でも分かるくらい、お姉様はセオドア兄様のことを凄くすっごく好きだったってこと。
普段は私が誘ったら二つ返事で了承してくれるのに、セオドア兄様との約束がある日は「その日はセオドアに会える日だから、ごめんなさいね」って断られていたし。
……セオドア兄様に相応しい相手になりたいって、いっつも頑張っていた。
けれど今のお姉様の態度では、心変わりしたと思われても仕方ない。何を言っても、きっと慰めにしかならないから──。
「私は、お兄様になるのはセオドア兄様がいいって思っているわ」
結局彼に与えられる真実はそれしかみつからなかった。無力さを感じながらもそう言うと、セオドア兄様はありがとうございます、と柔らかく笑ってくれた。
◇
「ほんっと、どうしてお姉様はあんなに頑ななのかしら」
セオドア兄様とのお茶会のあと。もやもやとした気持ちを抑えられなくて、先ぶれも出さずにお姉様の執務室へと突撃した……が。上手くはぐらかされて、何の成果も得られないまま退室した。
結局消化しきれなかったもやもやを、自室で愛犬のウーゴに話すことで解消を試みる。
『何かあったの~?』
「お姉様ってばセオドア兄様のこと絶対好きなのに、突き放すような態度をとるのよ」
『ええ、またその話?』
心配して損したとでも言うかのように、ベッドに寝転ぶ彼の隣に腰かけ長いため息をついた。
「そうよっ。だって本当にお可哀想なんだもの、しょうがないじゃない……」
『可哀想だと思うなら、アンジェリカがあのオスと結婚したら?』
「そういう問題じゃないわ。セオドア兄様はお姉様じゃなきゃダメなんだから」
大好きなお姉様と大好きなセオドア兄様が、ただ素直になって結ばれて欲しいだけなのだ。
それに私だって、義兄になるのはセオドア兄様がいいけれど……夫婦になるなら誰にでも優しい人より私にだけ優しい人じゃないと嫌だ。特別扱いされたいもの、なんて。
「なんとかしたいけれど、あれだけ拗らせていると荒療治じゃなければ難しそうよね。私に出来ることって何なのかしら……」
『まぁまぁ。きっと大丈夫だよ。あのオス、僕らみたいなとこあるし』
「ええ?」
『犬っていうのは、愛され動物だからね! アンジェリカだって僕を愛さずにはいられないでしょ? だからアンジェリカに出来ることは、僕をなでなですること~』
呑気なウーゴの反応に肩を落としつつも要求通りに顎の下を撫でれば、ゴロンとお腹を見せてきて。そういう問題かしら……と思いつつも、なんだか毒気を抜かれてしまった。
セオドア兄様が犬みたいかどうかは一旦置いておいて、お姉様がセオドア兄様を愛さずにはいられないだろうっていうのは、同意だ。
だから今の私に出来るのは祈ることくらいなのかもしれない。一応聖女の血を引いているし、ちょっとくらいは効果があったらいいな……と思う。
──想い合う二人が、無事に結ばれますように。
漫画はComic Walkerさんとニコニコ静画さんに掲載されています!
最新話が無料で読めるタイプのやつなので、一緒に追いかけて下さると嬉しいです(⁎ᵕᴗᵕ⁎)