右出奈帆② 私にとっては
私は中学の時、バドミントンをやっていた。
その時、友達に言われたことがある。
「あんた、なんかうざいんだけど。もう少しおとなしくやってくんない?」
その時部活では女子のグループのようなものが作られていて、私は、そのグループのリーダー的な人とペアを組んでいた。
「あんた、菜月にミスをなすりつけてるでしょ」
「そ、そんなつもりないよ」
「でもそう見えんの」
「ごめん……」
内心納得してないのに謝った。
「あの時の思い出があるから、かもしれません」
「なるほど」
先輩はうなずいた。
部活体験で、私が失礼な質問をした時と、同じ表情をしていた。
「今は、そういう嫌なことは、ある?」
そしてそう訊いてきた。
「いえ……でも、内心そう思ってたりする人がいたら嫌だなって」
「仮にそういう人がいたとしても、それはその人にとっての話でしょ」
「はい」
初めて会った時と同じようなことを先輩は言う。けど、今、私の鼓動は、その時よりも早い。
「右出には気を遣わずにテニスしてほしいな」
「そうですか」
「きっとみんな、そう思ってるよ」
「先輩にそう言ってもらえると、ほっとするし、嬉しいです」
私は少しだけ、先輩を見つめてみた。
たしかに、そんなに小さくなっていても、しょうがない。
私は……うん。大丈夫。邪魔だなんて思われてない。
そういうことをはっきりと言ってくれる先輩が、私は好きだ。
「そういや、右出と紅葉香の一回戦、暇だから見に行ってもいい? 涼成も連れてくからさ」
「もちろん来てくれると嬉しいです。けど、先輩」
「?」
「好きな人に見られると少し緊張しちゃうかもしれないので、その時は……静かに去ってください」
「ああ。うんうんそうだね……ごめん。その時は涼成追い返しとくわ」
のんきに笑って言う先輩を見て、私は少し吹き出した。
「先輩、私はその時は、先輩に去ってほしいです」
「……え? なんで? ていうか、好きな人って僕?」
「そうです」
「えええだって背が高くてかっこいい人じゃなかったの?」
「そうですよ。私にとっては」
私は精一杯可愛く笑った。
部活帰りで、髪も乱れてるけど、今は、先輩にとって、世界一可愛い女の子でいたかった。
先輩の瞳に、素直に流れる川と、私が映る。
「とっては、か。そうか……ありがとう」
先輩はそう小さく呟いた。
私は先輩に近づいて言った。
「先輩は、私から見たら背が高いし、かっこいいのです。否定してほしくないです。だって、先輩のことが好きな女の子が、ここにいるんですよ?」
私たちの周りに、川の流れる音が心地よく広がった。