右出奈帆① 私の好きな人は…
川内先輩と帰った次の日の朝。
私は登校中に、紅葉香先輩に会った。
「おはようございます」
「おはよう〜」
紅葉香先輩との関係は良好だ。
ただ問題として、仲が悪いという噂が流れてしまっているというのがある。
どうやら、この前ロッカーの前でいい合いをしているのを見られてしまったようだ。
なんのいい合いをしてたかというと、ダブルスの戦略について。
関係は良好とは言ったけど、ダブルスの戦略の意見が私と紅葉香先輩は全然違う。
だから思わず強く意見を言ってしまったのだ。
けれど、紅葉香先輩が私の意見に一部納得してくれたので、今はもうその話はしない。
けど、今度は別のことが少し気になっていた。
私と紅葉香先輩が、同じ人を好きである可能性があるということ。
別にだから何かが起こるわけではないし、今は試合のことを中心に考える生活を送りたい。
けど気になっているのは事実なのである。
「川内先輩は今日はもう行ってしまったのですか?」
紅葉香先輩と川内先輩は幼馴染だし、一緒に学校に行っていることが多い気がするけど、今日は紅葉香先輩しかいなかったので、私は訊いた。
「あ、流斗はね、寝坊よ寝坊。まあ猛ダッシュして遅刻はしないようにするよとか言ってたけどね」
「あ、そうなんですか」
「ほんと、だらしなーいのね。涼成くんが心配だわ」
「ま、まあそうですね。で、でも、川内先輩も疲れてたのかもしれないって考えると……」
「昨日部活終わった後も家でゲームしてたの私知ってるからね」
「え、なんで知ってるんですか?」
「そりゃあ、今朝行ったらテレビの前で寝てたからだよ」
紅葉香先輩は、「テレビの前にどーんといたの流斗が」と、ジェスチャーする。
「そうなんですね」
私は想像して、少し笑って、幼馴染だなあって思った。
朝からそんなにお互いの家に行けるほど仲いいんだなあ、と。
「ま、そんな感じなのねほんと。猛ダッシュするって言っても間に合わないだろうし、涼成くん今日女子の方練習に混じったりしてくれないかなあ」
紅葉香先輩がそう言った。
「……紅葉香先輩、好きなんですか? 片野涼成先輩のこと」
だとしたら、私が思ってる人と違う人を、紅葉香先輩は好きだってことなのか。
「え? まあね、そういうの隠さない方がいいかなって思ったから言うけど好きだよ。ていうかあれでしょ、奈帆ちゃんも好きなんでしょ、涼成くんのこと」
「え?」
「あれ? 違う感じ……誤魔化してるようにもみえない……あれ?」
困ってる紅葉香先輩に私は言った。
「私、川内先輩が、好きです」
「え、まじ⁈」
近くの地面で仲良くしていたスズメが息を合わせて逃げるくらい、大きな声を紅葉香先輩は出した。