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蒼き叡智の魔導書 ~エロゲの嫁キャラたちに転生した悪友どもがいる限り、俺がヒロインと結ばれるのは難しい~  作者: 二上圭@じたこよ発売中
7 佐藤はカス

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68 佐藤はカス

最終話です。

 かくして鈴木は喚き散らす代わりに、泣き始めたのだった。


 ダダをこねる子供みたいに、その場でへたれこみ、顔を覆って泣きわめく。佐藤が悪いの、佐藤が悪いの、と泣き言を漏らしながら、もう会話は成立しなくなってしまった。


 人の愛情とは、こうも独りよがりに狂いに狂って、歪みに歪むものなのか。


 まさか渡辺の愛が純粋なものだと思える日が来ようとは。


 この四人グループに出会ってから、初めてだらけの毎日だ。いい意味以上に、悪い意味を知る機会が多すぎる。


 そんな無様な姿な鈴木を見て、男二人も呆れているようだ。


「俺たちもただ鈴木への恩だけで肩入れしていたわけでないんだ。鈴木とくっつくことこそが、佐藤の一番の幸せだと思いやっていた」


「だけどとうの鈴木はこの始末。鈴木の想いを佐藤に伝えるのが、一番円満なのはわかっていたけど……わたしたちも鈴木の恨みだけは買いたくなかった」


 今日まで鈴木を野放しにするどころか、手先にすらなっていた二人。


 佐藤を女からシャットアウトするためにやってきたその悪行。それを一番側で見てきたのだから、この男たちが恐れ慄くのも当然か。


 私が許そう。貴方たち二人は悪くない、と。


「今思えば、佐藤とやることをやったら、かつての女神に戻って許してくれたはずなのにな。一時は恨まれても、佐藤にそのことを伝え背中を押すべきだった」


「わたしたちが今更実はこうだったと言っても、またハメる気かと言われてもう無理。鈴木から頭を下げて誠心誠意謝り、ようやく五分五分。でも本人は折れたくないという始末。意固地になって引くに引けなくなった。素直になれば簡単に幸せになれたはずなのに、今となっては後の祭り」


「典型的な逆切れ負け犬ヒロインムーブだな。やっていることが悪役令嬢キャラそのものだ」


「鈴木の病気はもう手遅れ。狂気を孕んだヤンデレそのもの。それに振り回されて、あの聖人も女をキープする処女厨にまで堕落し、品性を堕としてしまった」


 今日まで私は、我がお父様と遜色のない人間性として、佐藤をカスだと評してきた。こうして全ての真実が明かされた今、少しは彼の見る目は変わった。


 例えどうであれ、彼は自らの意思でソフィアをキープしている。それは間違いなくカスだ。それでも佐藤には佐藤になりの、女をキープする男に堕ちるまでの原因があった。


 悪魔に取り憑かれていたのだ。


 そういう意味では佐藤は被害者かもしれないし、ソフィアもまたそんな悪魔の被害者の一人だろう。


 もしかすると渡辺と田中がいたから、被害はこの程度なのでは、と思えすらしてきた。彼らこそが唯一の、愛に狂った女の良心なのかもしれない。


「今回台覧戦でハメたのは、そんな鈴木のガス抜きのためだったんだ」


「ガス抜き?」


 不意に、そんなことを渡辺が言い出した。


「佐藤が学園で毎日のようにしているソフィアへのセクハラ。あれを血の涙が出そうなほどに羨み妬んでいる。それこそソフィアを手にかけるんじゃないかって剣幕だ」


 そういえばそうであった。


 あの男は毎日のように、それこそ恋人のようにソフィアに触れ合っている。ソフィアに期待させるだけ期待させてキープする、実にカスのような所業であった。


 田中風に言うのなら、ソフィアを性的搾取しているといったところか。


「だからしばらく佐藤を家で大人しくさせれば、少しは鈴木の気も収まるだろうってな」


「ああ、そういうことだったの。でも、いくら鈴木のガス抜きとはいえ、学園追放はやりすぎじゃないの?」


 佐藤は学園を満喫し楽しんでいるように見えた。


 いくら鈴木のガス抜きとはいえ、それを全て取り上げるのは酷である。佐藤のことを大切な友人だと思っているのならなおさらだ。


「流石の俺も、佐藤をそこまで陥れるほど人非人じゃない。誓約には穴がある。いつでも学園復帰はできるように手は打っていた」


 と思えば、渡辺がとんでもないことをさらっと口にした。


「誓約の穴? 佐藤が交わした誓約を見させてもらったけど、抜け穴になるような文言なんて見つからなかったわよ」


 誓約。一度発動したら最後、決して放棄の適わぬ契約魔法。


 今回の台覧戦で賭けられたエステルの身。泣きをみないためにも、お兄様はそれこそ穴が空くまで読み込んだはずだ。


 どこかに抜け穴になるような文言がないか、と。


 そしてあれにはなかったと確信して言い切れる。


「確かに、一見不備がないように見える。だがどれだけの誓約を立てようと、それに当てはまることがなければ、誓約が執行されることはない。それを踏まえて、もう一度あの誓約を思い出してくれ」


 なのにこの世界の生き字引は、抜け穴があると言い出すのだ。


 一体どんな抜け穴なのかと文言を思い出す。


「えっと……自分、煌宮蒼一はもし台覧戦で――待って、それってありなの?」


 すぐにそれに思い至った。


 でも信じられなかった。


 そんなの本当にありなのか、と。


「ありだ。なにも知らん鈴木と田中にも試したが、誓約は無効だった」


「まさか自分は煌宮蒼一じゃなくて佐藤だから、その誓約は無効だなんてね……」


 まさしく、この男たちにだけ許されたインチキだ。


「なにせ煌宮蒼一の名は、佐藤にとって魂や精神に根付いた名前じゃないからな。誓約でなにより大事なのは自認であり自己だ。煌宮蒼一に化けた小太郎が『自分、煌宮蒼一は』と誓約を交わすのとなにも変わらない。実際、ゲーム内でも小太郎が他人に化けて同じことをやっていた」


「呆れたわ……誓約にそんな抜け穴があったなんてね」


 つくづく、この男には呆れるし驚かされた。


 勝っても負けても佐藤には失うものはない。こんなペテンにかけられたお兄様に同情……いや、それはない。あれは渡辺の道具として切り捨てられても、可哀想でもなんでもない男だ。むしろ利用価値を見いだされたことで、少しは人間レベルが上がったのではないか。


 そして今更思い出した。この男は本当に私のことが大好きなことを。


「それによく考えたら貴方が、私を佐藤と心中させるわけなかったわね」


「当然だ」


 得意げにメガネを正す渡辺。


 誓約が執行されたら、最大限の自助努力を持って、佐藤は私に同じことを遂行させようとする。そんなことはこの男が許すわけがない。


 そういう意味では、私もまた渡辺に一杯食わされた。


 まあ、このくらいの食わされ方はなんともなく、次から次へと新しい玩具を見せられるようで、それはそれで愉快である。


「さて、全部はご破産になってしまったけど、鈴木は放っておいて大丈夫なの? ソフィアに手をかけるとか言っていなかった?」


「あくまで今回の目的はガス抜き。生前なら手を汚したかもしれないけど……この世界では、絶対敵に回してはいけない男がいる。第四とはいえソフィアは嫁キャラ。流石の鈴木も、そこまで愚かじゃない」


「それもそうね」


 田中より視線を逸らし、再び渡辺の顔を見る。


 この世界を誰よりも愛してきた男。


 全てを知り抜き、その頂点へ至る力と身体も手にしている。その気になれば、カノンよりも効率的に世界を終わらせられるに違いない。


 いくら愛の狂気に飲まれているとはいえ、渡辺を敵に回すような真似などしまい。そういう意味で渡辺は、一種の秩序とすらなっている。


「狂気にはより強大な狂気、毒にはをより強力な毒。常軌を逸した愛対決、どちらに軍配が上がるのはわかりきっている。やはり人間、一度は死んでみるもの。まさか渡辺のクソゲー愛が、鈴木の狂気を抑え人間性を繋ぎ止める日が来る――ぐほっ!」


「まさか俺も、貴様に新たな性癖を目覚めさせられ、それを満たして貰える日が来るとは思わなかったな」


 世界を侮辱することを許さぬ秩序の鉄槌は、今日も田中の腹部を貫いた。その様はまるで、昼間突き刺せなかった神剣の代わりみたいだ。




 ――ああ、本当に。


   ここに広がる景色は、今日も滑稽で笑えてくる。



     ◆



 買い出しから戻ったら、庭に広がっていたその光景。


 縁側で鈴木が子供みたいに大泣きし、


 腹を抱えて田中はリョナ顔を浮かべ、


 頭を踏みにじってる渡辺は恍惚とし、


 そんなカス共を肴にユーリアがおかしそうに一杯やっている。


 この地獄絵図、一体今度はなにが起きたのか。


 田中と渡辺はいつものことだが、なぜ鈴木があんなにも大泣きしているのか。どうせカス共のことだから、原因がろくでもないのはよくわかっている。


 しょうがないから礼儀として、


「なにやってんだおまえら」


 とだけ聞いてやる。


 そうして俺の帰宅に気づいたカス共からもたらされたのは、


「貴方がカスになるのを止められず、ごめんなさい佐藤(カス)


「正直、貴様がカスになってしまった罪悪感はある。すまんな佐藤(カス)


「ま、過去はどうあれ、私にとっては初めから貴方はカスだったわよ、佐藤(カス)


 罵声であった。


 帰ってきて早々、なぜ罵られなければならないのか。


 心当たりがなさすぎて、大義を持ってこれにはブチ切れても許されるだろう。


「おい、カス共! 買い出しの大役を終えた俺を、いきなりカス呼ばわりとかどういうことだ!?」


「うるさい!」


 そして鈴木は、ただただいつものごとく、理不尽にこう叫ぶのだ。


「全部あんたが悪いのよ、この佐藤(カス)!」

これにて当作品は完結となります。

最期まで当作品にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

ブクマ、評価、感想、レビューなどありましたら、心よりお待ちしております。

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自殺を止めてきたオタク青年の話。そのまま隣人にオタクへ染められた話。そんな彼が死んだ話。(仮)
一巻完結ものの新作で、女子高生に蒼グリをやらせたりする話です。
某キャラも出てきますので、こちらのほうも応援頂きたく願います。
― 新着の感想 ―
[一言] コロナに感染したかと勘違いするほど、呼吸困難に陥りました。笑い過ぎで……。 大変おもしろかったです。
[良い点] 何周もしてしまった、続きが読みたいよぉ。
[一言] 要は盛大なトムジェリだよなぁこれ……(なお腐れ縁が発酵されて糸引いてるのは見なかったものとする)
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