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蒼き叡智の魔導書 ~エロゲの嫁キャラたちに転生した悪友どもがいる限り、俺がヒロインと結ばれるのは難しい~  作者: 二上圭@じたこよ発売中
6 内ゲバ合戦

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62 ポッ

 俺は震えていた。


 リョナられ続けること幾星霜。


 ついに田中は渡辺の首を断ち切ったのだ。


 まさに歴史に残る戦いであった。きっと学園中がこの結果に沸いているだろう。


 だが、俺が震えているのはそんな戦いを見届けたからではない。


「ついに離の境地へと到ったようだな、サクラ」


 ジジイが屋上にポッと湧いてきたからだ。


 屋上の入り口はたった一つ。小太郎がそれに背中を預けている。


 誰にも気づかれずに出入りなど不可能だ。


 小太郎も忍びであり、その誇りもある。どこからともなく現れるジジイに、今度こそは出し抜かれまいとする意気込みもあった。


 登ってくる気配があったら、すぐに合図を出すよう頼んでいた。


 それなのにジジイは今、この屋上にポッと湧いてきた。


 塔屋の上に湧いてきたのなら、まだわからないことでもない。


 だがそんな甘い湧き方をしたわけではないのだ。


 中空に映し出されるその試合中継。


 見上げるように観戦し、ついに決着がついたと息を飲んで、下ろした視界の先にジジイが湧いていた。それこそ最初から儂はここにいたとばかりに、手すり際で一人語りを始めたのだ。


「あのおまえが、切らねばならぬものをついに見つけたということか」


 小太郎は今にも、嘘だろ、と叫ばんばかりに仰天している。


 あのユーリアも目を見開き、ジジイの湧きに狼狽していた。


「あの自分に無頓着なサクラのことだ。それを見つけたのはきっと、自分のためではあるまい。……あのサクラが誰かのために、か。ふっ、一体、誰のためなのやら」


 横顔を見せてくるジジイ。決してこちらを見ているわけではないが、なにを意識しているのかは伝わってくる。


 その顔は、儂には全部わかっているぞ、とばかりに得意げだった。


「今のサクラは全てを断ち切る刀と成った」


 ジジイがこちらを振り返る。


 その節穴は誰の姿を捉えることなく、真っ直ぐと出入り口へと歩みを進めた。


「どれほどの力を隠しているか知らぬが、今のサクラに切れぬものはない」


 俺と横並んだとき、ちらっとこちらを見る気配。


 かくしてジジイは、語りたいことを一方的に語り尽くし、この屋上から去っていったのだ。


「ローゼンハイムの御老公に、随分と気に入られているようね、佐藤」


「美少女ならともかく、あんなジジイに粘着されても嬉しくねぇよ。一方的に語りたいことを語りに湧いてくるとか、完全に渡辺の上位互換だろ」


 あのジジイ、マジでどうなっているのか。


 カメラワークを切り替えた瞬間ポッと湧く。


 ホラー映画の悪霊や化け物並に、湧き方が理不尽すぎる。


「それとして蒼一。昨日までならともかく、今のサクラちゃんを動けなくしろとか、流石の俺もきついぞ。膝をつかせるどころか、一歩間違えたらこっちの首が飛ぶ」


 気を取り直した小太郎は、決勝の話を取り上げた。忍びの誇りの観点からも、あれの湧き方を考えるのは無駄だと悟ったのかもしれない。


 それはそれとして、小太郎にここまで言わせる田中の活躍、そして成長。


「クソッ、ネカマの分際で無駄な力に覚醒しやがって。戦いの中で成長していく系の主人公かおまえは……!」


 小太郎に小突かせ膝を着いたところでいたぶるつもりだったが、どうやらそれも難しそうだ。


 モニターに時折映る鈴木は、敵チームの奴らと手拍子を繰り返していた。おそらくしりとりに飽きて、山手線ゲームでも始めたのだろう。


 どうやらあのチームの穴は、今や鈴木だけとなった。


 決勝戦、どうしたものかと頭を抱えたい気分だ。


 だが、


「ま、でも。正直あのサクラちゃんを相手にするのは、それはそれで楽しみだ。忍びと剣豪。その頂上決戦ってやつだな。そこに男も女も関係ない。絶対に負けるつもりはないぞ」


「安心なさい佐藤。私のやる気も十分あるわよ。人の恥部を暴露したあの男は、必ず八つ裂きにしてやるわ」


 あれだけの激闘を見た後にも関わらず、二人はやる気満々のようだ。


 戦意は充分以上。


 ユーリアも小太郎も、間違いなくあの二人に負けない器がある。その気概があるなら、俺もいつまでも頭を抱えているわけにはいかない。


「ああ。人をハメたカス共には、決勝で鉄槌を下してやる。あいつらカス共を、絶対に血祭りにあげてるぞ!」


 拳を握りしめ、そう熱く誓った。


 ここまできたら意地である。


 興味もない台覧戦の栄光だったが、カス共相手には負けられないという闘志を、俺たちは今燃やしていた。


「あの、ソーイチ……」


 そこにおずおずと、申し訳無さそうにソフィアは声を挟んできた。


「ん、どうしたソフィア?」


「やる気になっているところを水を差しちゃうけど……」


 なんでも言ってみろとばかりに、優しく微笑んでみせた。


 そして俺たち三人は、ソフィアよりすっかり忘れていた事実をもたらされた。


「今の試合、サクラさんが勝っちゃったから……カノン様チームは準決勝落ち、だよ?」


「「「あ……」」」

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自殺を止めてきたオタク青年の話。そのまま隣人にオタクへ染められた話。そんな彼が死んだ話。(仮)
一巻完結ものの新作で、女子高生に蒼グリをやらせたりする話です。
某キャラも出てきますので、こちらのほうも応援頂きたく願います。
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