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蒼き叡智の魔導書 ~エロゲの嫁キャラたちに転生した悪友どもがいる限り、俺がヒロインと結ばれるのは難しい~  作者: 二上圭@じたこよ発売中
5 水ニー

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39 生の喜び、その幸福

「あ、やっと終わったのか。長かったな」


「渡辺のオタク話の相手をするとか、ユーリアも付き合いがいいわね」


「オタクのキモい早口を聞き届けるとか、ユーリアは聖女すぎる」


 退屈な話が終わったとばかりに三人の様子に、渡辺はとても不快そうにしている。最初からこいつらには期待していないとばかりの顔だ。


 私もそんな三人の態度が信じられなかった。その反応に驚きを通り越して呆れてしまう。 


「あのね、貴方たち……煌宮蒼一が蒼の賢者の転生体だったとか、私たちの一族がただの盗人の血とか、そして魔神大戦と黒の賢者の真実とか。今日の話を全て公にしてみなさい。歴史ごと全部ひっくり返って、セレスティアは大騒ぎになるわよ。これだけの話をされながら、よくそこまで無関心な態度でいられるわね」


「まあ、そんな設定だったのかくらいには聞いてたぞ」


「成人向けゲームの設定に関心を持てと言われてもね」


「設定がガバってるクソゲーのネタバレに興味はない」


 などと言う始末だ。


 私と彼らの価値観の違いをつくづく実感した。


 かつて渡辺が指南してやろうかという世界を、私は子供の娯楽と切り捨てた。彼らにとってこの世界は、そういうものにすぎないのだ。それが淫猥を楽しむための物語だというなら、なおさらだろう。


 三人の反応は、そういう意味では真っ当な反応なのだ。


 成人向けゲームといったか。その物語を楽しむのはきっと、一部の者たちだけなのだろう。


「ぐっ、ほっ!」


「リョナは最高だな」


 女の頭を踏みにじりっているあの男が、その一部の者だったというだけだ。


 渡辺は幸せものだ。かつてはなんの役にも立たない知識が、この世界では宝の山。カノン・リーゼンフェルトよりも貴重な存在だ。


 一度は失い、新たに得たこの人生。きっと楽しくて仕方ないだろう。


「あの男、女相手に容赦ないわね」


 躊躇なき綺麗なボデイブローだった。


 女が腹部を抑え苦しみ悶ているというのに、渡辺は恍惚とした表情すら浮かべている。


「皮が嫁キャラでも、中身はただのネカマにすぎんからな」


「ネカマ?」


 知らない単語を聞かされ、佐藤に向かってそのまま問い返す。


「女を装って、男を騙すことを生業とするカスの総称だ」


「女を、装って? 待って……田中って、もしかして男なの?」


「そう。あれの中身は『俺のキャラには女が宿る』とかほざき、男を地獄に叩き落とすのを趣味とする愉快犯。セクハラ顔のモテないカスだ。流石の渡辺も女には手はあげんが、中身がカスなら容赦はない」


 佐藤は鼻で笑いながら、酷い言いようで田中をそう称した。


 未だ頭を踏みにじられている田中に目を移す。


 よく考えれば人間は男か女しかいない。生前と同じ性別を得られるのは、二分の一だ。転生した際に、男の魂が女の身体に宿っても不思議はない。


「生前の性別と違うなんて。苦労してそうね」


「いや、今のあいつは水を得た魚。女の身体を得たネカマだ。苦労するどころかサクラの身体を満喫している。なにせ女の身体は凄い。貴方は負け組と煽ってくるくらいだからな」


 女の身体は、凄い……?


 その意味に気づいた瞬間、ぶるりと身体が震え、つい自らの身体を抱きしめるほどに慄いた。


 いくら命に執着はないとはいえ、田中にこの身体を奪われたかもしれないと思うと恐ろしかった。それこそ全身が粟立ちを覚えるほどに。


 そこで思い至った。


 学園では諍い罵り合いながらも、縁を切り決別することなく彼らは共にいる。こうして同じ屋根の下で過ごしているほどに。


 彼らが旧知の仲であるのは最早言うに及ばず。そこで田中は男であることが発覚した。


 自らの飲み物を取りに立った女の背中を見た。


 学園では誰よりも憧れと羨望を集めたその美貌。彼女は自慢げにそれを振りまくことはなかったが、あれだけ美しいのだ。自負と自信と誇りは持っていただろう。


 それが今や他人のもの。あれだけ極上の肉体を手にしたのだ。手つかずなんてわけがないだろう。


 いくら面倒な女だったとはいえ、手に渡ってしまった先を考えると同情を禁じえない。


「……ん、どうしたのよ?」


 佐藤にビールを手渡すと、じっと見る私の視線に気づいた鈴木は首を傾げる。


「可哀想なお姫様。同じ女として、貴女には同情するわ」


「はあ? いきなりなんで私は同情されているのよ」


「気にしないで、貴方に言ったわけじゃないから」


 かつて面倒だった女のために憐れみの息をつき、己の身の無事に安堵する。


 意味がわからないと顔をしかめる彼を無視しながら、グラスの中身を空にした。


「とても美味しいわ」


 ああ、なんという美酒か。同じ物のはずなのに、先程とはまるで味が違う。


 生の喜び、その幸福。それがいつの間にか、この胸に初めて満たされているのを知った。


 今まで手に入らなかったものが、こんな形で手に入ることとなるとは。それも手にした理由がよりにもよって、己の身の無事を喜ぶ、自分可愛さだったなんて。


 複雑なことこの上ないが、幸福の器の底に、穴が空いてはいなかったとわかったのだ。上々である。


 とんでもない形で生まれたこの世界だが、その未来に、もう少しだけ期待してみようと思えたのだった。

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自殺を止めてきたオタク青年の話。そのまま隣人にオタクへ染められた話。そんな彼が死んだ話。(仮)
一巻完結ものの新作で、女子高生に蒼グリをやらせたりする話です。
某キャラも出てきますので、こちらのほうも応援頂きたく願います。
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