61. 黒幕
カーテンの隙間から白い日の光が差し込み、眩しさに目を薄らと開ける。
そうだ。レオポルド様の魔力が尽きかけて、鉱石に残ってた魔力で生き残ったんだ……。
よかった……。
安心してまた目を閉じようとして、はたと気づく。
「もう朝!?」
「あ、グリーゼル。起きた? おはよう」
ガバッと体を起こすと、カーテンを開けるミーナから暢気な声が聞こえてきた。
「ミーナ、レオポルド様は?」
「レオポルド様ならもう起きていらしたわよ」
それを聞いて私は急いで身支度を整えた。
廊下にパタパタと足音が響く。
はしたないとか、侯爵令嬢としての気品とか、そんなの気にしていられなかった。
レオポルド様のお顔を見るまでは、安心できない。
執務室の扉を開くと、開けた窓から外を眺めていたレオポルド様がいた。
急いでここまで来た私は息が切れている。
「もう、お加減は、宜しいのですか……?」
「うん。グリーゼルも顔色がよくなったね」
そこにはいつものレオポルド様の優しい笑顔があった。
一歩……二歩……と近づいても、もう二度と呪いの風は出ない。
そばまで行くと、爽やかな風の魔力が、吹き抜けるように私の周りを包んだ。
もう闇の魔力はどこにもない。
レオポルド様が窓を閉める後ろ姿にさえ、幸せを感じる。
呪文は全て消したのだと。
ふと最後の呪文を思い出して、表情が陰る。
「どうしたの?」
「レオポルド様にお伝えしなければならないことがあります」
「なんだい?」
「レオポルド様にかけられていた呪文には、見覚えがある癖がありました」
「癖?」
「はい。あの発動呪文を三つ用意して、一つを隠すところも。その隠した呪文に意味のない文字を入れるところも……」
見覚えがあるのも当然だ。
あの呪文を書くところを、何度も見て覚えたんだから。
「ニクラウス先生の癖と同じです」
レオポルド様は驚くそぶりもなく、納得したように頷いた。
「それは間違いないね?」
私は確信を持って、こくんと頷いた。
「はい。あんなに綺麗な呪文に、あの文字を入れられるのは先生しかいません」
先生の綺麗な呪文に憧れた。
私も先生のようになりたいと、努力して身につけた呪術。
「教えてくれてありがとう。辛いことを言わせてしまったね。それにもっと辛いことをお願いしなければならない」
レオポルド様に呪いをかけ、五年も苦しめたんだ。
その罪を償わなくてはいけない。
到底許されることではない。
しかしそれには証拠がいる。
「いいえ。弟子としてわたくしが師の過ちを証言いたします」