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57. 風を切り裂く剣

 私たちが到着すると、すでにいくつもの風の攻撃魔法がレオポルド殿下を囲っていた。

 

「お嬢様をお守りしろ、クルト!」

 

 渦巻く風魔法に気後れしていた私は、名前を呼ばれて顔を跳ね上げる。

 お嬢様は傷付くのも躊躇わず、すでに殿下の元に歩き出していた。

 私は跳ねるように駆け出し、お嬢様に立ち塞がる風に剣を振り下ろす。


(くっ、一撃じゃ払えないか。だが何度でも叩き込めばいいだけだ!)

 

 小さくありがとうと口を動かしたお嬢様は、それでも足を止めずに殿下の元に向かう。

 

 リーダーとダニーロさんは既にこれを何度もやっていたんだ。

 私がやらないと!

 

 お嬢様に近い風から順に剣を向ける。

 ガムシャラに剣を降り続けるのは、辛くない。

 何も考えなくていいし、私の剣で風魔法が消える瞬間は快感ですらあった。

 …………ただ風魔法はまだ三秒ごとに発生している。

 減ることはない風に、いつまでこの気持ちが続くか不安が過ぎる。

 しかし今考えてもしょうがない。

 無心で風を切り裂いていくだけだッ!

 

 殿下の元にたどり着いたお嬢様は、早速解呪を初めているようだ。殿下をお救いできるのは、お嬢様だけ。そしてそのお嬢様をお守りするのは、私たちの役目だ。

 殿下の胸や肩を触れ、解呪を進めていた様子のお嬢様がこちらを向いた。

 

「最初の呪文を消します! 今より更に風が出ますので、注意してください! 必ず私が呪いを止めますから」

 

(い……今より更に!?)

 

 私は思わずギョッとしてしまう。

 しかし周りを見回しても、リーダーもダニーロさんも、パトリックさんでさえ、怯んではいなかった。

 私は剣を握る手をギュッと握りなおして、気合を入れた。

 

 お嬢様が何かをブツブツ呟き、殿下の一つ目の呪文を消していく。

 呪術はよく分からないが、「最初の」ということは一つじゃないんだろう。

 お嬢様の周りに闇の魔力が糸のように現れてはすぐに消えていった。

 

(なんだ。更にっておっしゃっていたけど、対して変わらないじゃないか)

 

 そう軽くみた瞬間、目の前の風魔法が二重になる。

 

「わっ!」

 

 バシッと風魔法が当たり、お嬢様が掛けてくれた防御魔法が消え去った。

 

「気を抜くな!」

 

 横から現れたパトリックさんが残りの風魔法を蹴散らしてくれた。


「すみません!」

 

 私が謝ると、ふわっと土の魔力に包まれ、防御魔法が復活した。

 振り向くと、レオポルド殿下が護衛騎士全員に防御魔法をかけてくれているようだ。しかも遠距離から重ね掛け。

 お嬢様は気づいていない様子だが、こちらとしてはありがたい。

 

 気を取り直した私は片っ端から風魔法を消していく。

 当然先輩方も着実に風魔法を切り裂いて消している。

 なのに減らない!

 むしろ若干増えてすらいる。


 流石に楽しさは消え、目の前の風を消すことでいっぱいになってきた。

 しかも足場が悪い。雪が積もり、足が雪に埋まるようになってきた。

 

「ハァハァ……」

 

 雪が降るほど寒いにも関わらず、汗は止まらない。

 もう息も絶え絶えで、その場にへたり込んでしまいたいほどだった。

 見回してみると、先輩方も息が上がっている。

 当然だ。リーダーとダニーロさんは私たちが来る前から、この風と戦っていたんだから。

 パトリックさんだって、レオポルド殿下の居場所を伝えるため、走り回っていた。

 私が一番余裕がなければいけないのに、この中で一番体力がないのも私だ。

 

 

 

 次の一歩を踏み出した時――

 

 ――ズボッ!

 

 足が嵌った。ここだけ雪が深いみたいだ。

 急いで抜こうとしても、反対の足も滑ってしまう。

 

 ――ヒュルルッ!

 

(な、このタイミングで目の前に風!?)

 

 体制を立て直す糸間もなく、風が襲いくる。

 

 ――バシッ!

 

 防御魔法が消えた。

 なんとか体制を立て直して、他の風を蹴散らそうと足を踏み出すと…………膝が笑ってカクッと曲がった。

 

(あ、これ死んだかも……)

 

 私の体は目の前の風に倒れ込もうとしていた。


(さすがに頭から突っ込んだら、痛いだろうな……)

 

 ギュッと目を瞑った瞬間――

 

 

 

 

 

 何かに腰を掴まれて引っ張られた。

 

「へ?」

 

 顔だけで見上げると、そこには赤い髪を雪で濡らしたバートランド殿下だった。走ってきたのか、若干息も乱れている。

 後ろにはジョルジュさんとミカエルもいる。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 私は涙が出そうになった。

 はらはらと舞い散る雪が目に当たって、溶けて溢れ落ちる。

 その間にも、バートランド殿下は目の前の風を蹴散らしていった。

 ぐいっと片手で目を拭って、私はその姿を目に焼きつけた。


「これでもう大丈夫ですわ」

 

 お嬢様の声が木霊して、終わりを知らせた。

 安堵してふっと力を抜いた瞬間

 

 ――ヒュルルッ!

 

(なんだ? お嬢様の間違いかな?)

 

「なん、で……?」

 

 お嬢様も予想外の様子に、嫌な汗が滲んで落ちた。


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