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55. タイムリミット

 グリーゼルは彼女の執務室にいた。

 護衛騎士たちに目配せすると、言葉を発しなくても部屋の外で待機してくれる。

 

「いかがなさいましたか?」


「僕は君に相応しい男になりたかったんだ」


 グリーゼルは分からないといった様子で、首を傾げた。

 

「君はその気高い心で誰でも救ってしまうから」


「? それはレオポルド様のことですわ」

 

 バートのような美辞麗句は僕には言えないかもしれないけれど、ちゃんと本当の気持ちを伝えよう。


「いいや、グリーゼル。君のことだよ。君は僕の呪いにも怯まずに向かってきてくれた。誰にも近づくことすらできなかった僕の呪いに。……そして僕を孤独から救ってくれた」


 今度こそ僕の言葉で。


「君が毒で倒れた時は気が狂いそうだった」


 偽らない本当の気持ちを。


「君のまっすぐな瞳が好きだ」


 まだ足りない。


「君の照れた顔が可愛い」


 もっと。

 

「呪いが解けても、ずっと僕の側にいてほしい」

 

 ずっと伝えたかった気持ちを。


「グリーゼル……愛してる」


 グリーゼルはその瞳を見開いたまま、時が止まったようだった。

 そして時が動き出すように、その瞳から一筋の雫が零れ落ちる。

 僕は今までにないくらい激しく動揺した。

 バートが求婚した時の反応とは、全く違う反応。

 やはり困らせてしまったかな……。

 僕からでは嫌だったか…………。

 グリーゼルの気持ちを考えずに、焦ってしまったことを後悔し始めたとき――。


「嬉しいです」


 後悔が一気に希望に変わった。


「え……じゃあ……」


「でもわたくし、は……きっと、レオポルド様が別の女性といるだけで……嫉妬して、呪いをかけてしまうかも、しれません」


(……なんて可愛いことを言ってくれるんだ……!!)


「君になら呪われたって構わないよ」


「いけませんっ……」


 僕はグリーゼルの反応を確かめるようにゆっくり近づく。


「それにきっと僕の方が欲深い」


 手が届く至近距離まで来ると、優しく抱き寄せた。

 そして顎に手を添えてゆっくり顔を上向かせる。


「君がバートの求婚を受けるのかと思った時、閉じ込めてしまいたいと思った」


 鼻が触れる寸前で見つめ合う。

 触れてもいいか同意を求めるように。


「怖くなった?」


 グリーゼルが少しも逃げる素振りも嫌がる素振りも見せないことが、僕の胸を焦がす。

 そのまま唇を近づけて――。

 

 

 

 

 

 

 

 ――唇が触れ合う寸前、嫌な気配がぶわっと溢れるのを感じて、動きを止めた。

 次の瞬間、ヒュルルッと聞き覚えのある音と共に、呪いの風が出現する。


「――っ!?!?」

 

 すぐさまグリーゼルを風魔法で離れさせ、自らも距離を取った。近くに風を払える剣はない。

 

「ダニーロ! ミカエル!!」

 

 呼ばれた護衛騎士たちがすぐ部屋に入ってきた。

 鋭い剣技でミカエルが風を切り裂き、消し去る。

 

「お嬢様! お怪我は!? レオポルド様、これは一体……」

 

「分からない。突然風が……呪いがまた発動したんだ」

 

 ダニーロがグリーゼルを気遣い、怪我がないか確認する。

 怪我はないようでホッと安心した。


「なぜ風が……!」

 

 近づいてこようとするグリーゼルに、慌てて防御魔法を重ねがけする。グリーゼルが僕の胸に手を当てて呪文を調べると――。


「…………三秒ですって!?」


 グリーゼルが叫ぶと同時に、またヒュルルと呪いの風が出現する。三秒に一度風が出ては、防御魔法をかける魔力の方が先に尽きる。

 

 ダメだ! このままではまた傷付けてしまう!!

 

 再びミカエルが剣で風を払ったのを見て、僕は窓ガラスを割って外に飛び出した。


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