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42.求婚の返事

 あれから数日後、私はピンクと白の薔薇が咲く王城の庭園に案内されていた。

 バートランド殿下とお話しする約束をしていたからだ。

 話題は当然、先日のバートランド殿下の求婚。

 本来王族からの求婚を断ることは不敬にあたる。

 しかしお父様からは、

 

 ――お前がどうしたいか決めていい。受けるか、断るか、よく考えて決めなさい。だがその気がないなら断りなさい。

 

 と言われた。なぜ断ることができるのか聞いてみると、待っているとだけ……。何を待っているかを聞いても、教えてはくれなかったけど。

 ともかく王族からの求婚なのに、断ることも可能らしい。

 私の気持ちは……。


「あの……この間のは……」


「ああ、オレの妃になってくれる気になったか?」


 バートランド殿下は女性が喜ぶ言葉をよく使う。でもはっきり言われると、求婚されたんだということを改めて実感する。

 きちんとお返事しなくては、あんなに情熱的に求婚してくださったバートランド殿下に失礼だ。


「殿下は……」


「バートで構わない。敬称呼びは好きじゃないんだ」


 私の言葉を遮り、真剣な眼差しで見つめてくる殿下は、ゾクっとするような大人の色気を纏っている。


「愛する女性(ひと)には愛称のバートと呼んでもらいたい」


「あ……愛称でなんてお呼びできません。わたくしはまだ婚約者ではありませんし、そんな間柄でもありませんわ」


 なんでみんな私に愛称で呼ばせたがるのかしら。婚約者だったエルガー殿下ですら、愛称でなんて呼んだことはないのに。それに愛称って本来親しい間でのみ呼ぶことが許される特別な呼び方の筈。


「まだ……ということはその気がないわけではないんだな?」


 一気に顔が茹で上がり、あたふたと取り乱してしまう。


「ふ……まあ、いいだろう。遮ってすまなかった。続きをどうぞ」


 全くよくなさそうな顔をしながら、バートランド様は話を元に戻す。


「バートランド様は呪いのことはご存知ですか?」


「貴女がレオポルドの呪いを解いたことは聞いている」


「解いただなんて。わたくしは呪文をちょっと弄っただけですわ。それに呪いをかける側でもあります」


「弄った……ね」


 呪いをかけたことを言っても全く驚いてない上、嫌な顔一つしない。バートランド様は、口元に手を当ててじっと私を見つめていた。

 私が婚約破棄された時のように、呪いをかけるというのはあんまり外聞が宜しくない。人を貶めるような悪いイメージがどうしてもあるし、実際そういう呪いも多い。エルガー殿下も婚約者としては相応しくないとおっしゃっていたし、私もそう思う。


「呪いの女が妃では誰も納得しないのでは?」


「嗚呼、貴女は呪いをかけたことを気にしていたのか。そんなことは気にする必要はない。そもそも貴女は解呪もできるほどの優秀な女性だ」


「わたくしがナーシャ様に嫉妬して呪いをかけたとしてもですか?」


 あ……。あんまり意図が伝わらなさすぎて、つい本当のことを言ってしまった。私怨で呪いをかけるなんて、すごく恥ずかしい上に、自分の愚かさが本当に嫌になる。


「浮気相手を呪うほど愛してくれるのなら、むしろオレは嬉しいがね」


 ふっと笑ったバートランド様は、大人の色気を放っていてクラクラしてしまいそうになる。

 でも王子様の浮気で、妃が呪いをかけるなんて、どう考えても大スキャンダルだ。絶対あってはいけない。

 エルガー殿下の浮気で呪いをかけた私が言えたことではないけれど……。


「さっきから貴女が話しているのは、周りの話ばかりだな。オレのことは正直どう思っている?」


「……まだ数回しかお話していないので、分かりませんわ」


 これが私の正直な気持ちだ。

 温室から助けてくれたことは本当にありがたかったし、格好いいとも思った。でもバートランド様には温室で2回と、求婚された時しかお会いしていないのだから、そうとしか言いようがない。


「ではレオポルドは?」


「それは……」


 ドキッと心臓が痛み、思わず言い淀む。

 気づかれまいと、必死に胸の痛みを無視して、早口で次の言葉を言い切った。


「わたくしはレオポルド様に雇われているに過ぎませんわ」


 なんとか言ってのけたが、動揺は表に出てしまった。バートランド様に求婚されているのに、私がレオポルド様を好きだなんて知られるわけにはいかない。しかしバートランド様は全て見透かすような眼差しで、私を見据えていた。


「レオポルドのことが好きなんだな」


 ……ッ!!

 気づかれてしまっている……!?

 私とバートランド様では、恋愛経験値の差がありすぎる。手のひらの上で転がされているようなものだわ。

 「いえわたくしは……」と否定してみても、バートランド様の真っ直ぐな瞳は少しも騙せそうに見えない。


「……誰にも言わないでくださいっ!」


 レオポルド様に知られてしまえば、きっとお側にはいられない。それでなくても、その気持ちが表に出てしまえばまた誰かを呪わない自信がなかった。自分でも気づかないフリをしてきたというのに。


「もちろん誰にも言うつもりはない。貴女の気持ちが分かってよかった」


 そう言って近づいてきたバートランド様の声はとても優しくて、振ったことになるのにどうしてそんな声をかけてくださるのか分からずにいた。


「オレたちはまだ出会ったばかりだ。レオポルドの方が先に貴女に会ったというだけで、これからは誰にも分からない。ゆっくり口説かせてもらうよ」


 バートランド様は私の髪を掬い上げ、そっと唇を寄せる。その瞳は自信に満ち溢れていた。あまりの予想外な甘い攻撃に私の心臓はバクバクと鳴り響いていた。


「婚約の話は取り下げる気はない。貴女がその気になったらで構わないよ」


 てっきり求婚の話はなしになるものと思っていたのに、まだ私を妃にと考えてくださるらしい。バートランド様の懐の深さに感服する。


「だがまだその時ではないようだな」

 

 バートランド様は立ち上がりこの場はお開きになった。


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