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17. 乙女ゲームの攻略者

 グリーゼルは自身に充てがわれた執務室にいた。

 肩の上に黒い靄が重くのしかかるような感覚に、座ったまま項垂れる。

 気を紛らわそうと、もうすぐ完成予定の呪文の研究に手をつけた時、コンコンッと扉の音が来訪者を告げる。正直今は誰とも会いたくなかったが、そうも言っていられない。


「はい。どなたでしょうか?」


「グリーゼル様。お久しぶりです。」


 扉を開けて入ってきたのは、ナーシャ嬢だった。エルガー殿下と同じ美しい金髪を揺らし、先程と同じ笑顔で近づいてくる。

 目の前まで来た時、ナーシャ嬢の顔から一瞬で笑顔が消え、グリーゼルを値踏みするように見下ろす。


「単刀直入に聞きますけど、なんであなたがここにいるんです?まさかレオポルド様を攻略するつもり?」


「こ……攻略……?」


 攻略って、乙女ゲーム『王子たちと奏でる夢』の攻略だろうか?

 私はゲームではエルガー殿下しか攻略してない。

 まさかレオポルド様も攻略対象者なんだろうか?

 本気で分からず、首を傾げていると、イライラした様子を隠しもせず、ナーシャが説明しだす。


「あなたが転生者であることは分かってるんですよ。『王子たちと奏でる夢』をやった記憶があるんでしょう?あなただけゲームと行動が違うもの。」


 ナーシャ嬢も『王子たちと奏でる夢』をプレイした記憶があるようだ。

 ヒロインだしそういうものかな、と納得していると、こちらの返事なんて聞いていないとばかりに続ける。


「あなたがちゃんと呪ってくれないから、光魔法のレベルを上げるのにかなり苦労したんですからっ。……まぁ、婚約破棄はできたからよかったものの。」


 ……呪ってくれないから、だなんて、まるで呪ってほしいかのようだ。

 そりゃあエルガー殿下と結婚するためには、私がいたら邪魔なのは分かるけど、婚約破棄できたからよかっただなんて……あんまりだ。

 ただ……先ほどのエルガー殿下の態度を思い出すと、本当にそれが良かったのかもしれない、とさえ思えてくる。


「……あの……レオポルド様を攻略、というのは?」


「……知らないの?」


 てっきり知っていると思っていたのか、信じられないという顔で、私をまじまじと見つめ真偽を確かめている。


「……はい。私は『王子たちと奏でる夢』は全部プレイする前に、死んでしまいましたから。」


「ふーん。そういえばレオポルド様が王子ということさえ、知らなかったわね……。」


 ナーシャ嬢はジトーッと撫で回すように、私を見ては何かブツブツ言っている。

 暫くしてニヤッと口の端を上げると説明し始めた。


「じゃあ教えてあげる。レオポルド様は『王子たちと奏でる夢』の隠しキャラ。エルガー様を攻略した後に攻略できるようになるの。そして私が光魔法で呪いを解くことで攻略できるのよ。」


 雷が走ったような衝撃で、私は石像になったかのように動けないでいた。


 レオポルド様が攻略対象者……?

 ということは、ナーシャ嬢が攻略すれば、結ばれる運命にある、ということ?

 エルガー殿下ではないの?

 じゃあ私は一体なんのために、婚約破棄されたというの……!?

 それに呪いを解ける……?

 私が今まで呪いを解くためにしてきたことは、無駄な事だったというの……。


 目の前にある呪文の研究を見つめ、もう絶望することしかできなかった。

 レオポルド様の呪いが解けるというのに、自分のことばかり考えている自分に、更に自己嫌悪に陥る。

 グリーゼルの驚愕したような反応を見て、ナーシャ嬢は満足そうにニヤリと笑む。


「そうよ。だからレオポルド様を救うために、邪魔しないでよね。レオポルド様は今でも苦しんでいらっしゃるんだから。」


 追い討ちのような言葉を浴びせ、返事も待たずに手をフリフリ振るだけで、退室していった。


 独りになった室内で、ペタンッと力なく椅子に座り込む。

 紙に書かれた呪文を指先で弾く。

 これが動けばレオポルド様の呪いの間隔を今度こそ伸ばせるところまで来ていた。

 しかしそれも無駄になってしまった……。


 きっとナーシャ嬢が呪いを解けば、呪いをかけた私は追い出されるだろう。

 魔道具の研究もどこまでできるか分からない。

 今までの研究成果を他の誰かに引き継ぐために、まとめることにした。


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