4.ジャングルで戦おう!
スロウランド郊外に広がる未開拓のジャングル。その中を流れるひとすじの名もなき大河。
ツタや木がびっしりと生えた岸壁に、ほくろのように一つぽっかりと空いた穴。内部には、一隻の小型ホバーボートが潜んでいる。
狭い操縦席にはキャステ、その上部に設けられた銃座には、カゲフチが落ち着かない様子で座っている。
「いいですか、長官。敵がボートに荷物を積み終えたところで、突貫します。操船はアタシがしますから、長官は適当に打ちまくってください。敵は宇宙海賊。それと、地上の運び屋です。多少死んでも罪には問われません」
「キャステ君、私は拳銃すら撃ったことがない。いきなり機関銃なんてとても」
「映画で見たことぐらいはあるでしょう。その安全装置を外して、あとはトリガーを引くだけです」
「そういう問題ではないのだが。それに、銃座を守る鉄板がえらく薄くないか?オープントップで、見晴らしがいいのは素晴らしいが」
「その銃座は、アタシの廃材アートです。廃艦になった戦艦の装甲を使っているので、機銃相手なら多少は持つと思います。業務中にこつこつと作りました」
誇らしげなキャステに、ガケフチは文句を言うのをやめた。もう何を言っても無駄だ。ガケフチが助かるには、この小さな軽機関銃をぶっ放して、海賊どもを潰すしかないのだ。
ガケフチが、新たな職場となる小さな小さな事務所に荷物を運びこみ、初日の業務を終えた時だ。
「長官、明日は職員が全員揃いますので、歓迎会を開きたいと思います。物資調達を手伝っていただけませんか」
キャステの提案に、ガケフチはややホッとする。歓迎会が行われる程度には、自分の赴任も嫌われていないのだろう。
「構わないよ。私も、特に用事はないからね。むしろ私なんかのために歓迎会を計画してくれてありがとう」
ガケフチは、そのままキャステについて行き、ホバーボートで物資調達に行こうと言われたので、ホバーボートに乗り込んだ。
この時に、素直に好意を信じた自分をぶん殴りたい。
ジャングルを切り開いてつくられたスロウランドには、網の目のように大小の川が通っており、船は普通の交通手段だ。
キャステは、運河を通る民間船なぞ無視したかのように、全速力でホバーボートを飛ばした。
そして、いつの間にかジャングルにいた。
キャステがエンジンを始動させると、ホバーボートが水面から浮かび上がり、洞窟から飛び出す。目標は、対岸にこっそりと造られた港だ。
港には、他の惑星から運び込んだ密輸品をボートに積み込む宇宙海賊たちがいる。
さすがは、荒くれ者たち。瞬時に、敵がやって来たと判断すると、積荷でいっぱいになったボートを出発させて逃す。
港に残った連中は、物陰に隠れつつ、ホバーボートに向けて、マシンガンをぶっ放す。
ひゅんひゅんとガケフチの頭上を弾丸が通過して行く。
「ひっ」
「長官!頭を下げないで!適当に撃ってる弾なんてそうそう当たりません。落ち着いて、鉄板から少し頭を出して、係留しているボートに狙いを定めてください。撃たれる一方では、死んでしまいます」
「そっ、そうだな。キャステ君」
幸か不幸か、強く言われると逆らえないという、長年の窓際生活の末に身についた習性が、恐怖心に勝った。ガケフチは少しだけ頭を上げて、狙いをつける。
ガケフチは逆に冷静になる。ここで頭を下げでもしたら、一度頭をあげた勇気の払い損のようにすら思えてくる。
係留しているボートの一隻めがけて、トリガーを引く。ガケフチが人生初の発砲だ。
訓練もしていないので、当然のごとく狙いは外れるが、ビギナーズラックとでも形容すればよいのだろうか。後方の港湾施設に無造作に置かれていたドラム缶に命中する。
可燃性の液体でも入ったのか、ドラム缶は激しく燃え上がり、周囲に引火し、港の施設は吹き飛んだ。
ドゴオンと耳がしばらくダメになるような轟音とまばゆい光。
撃ったガケフチ自身も、驚いて腰が抜ける。
しばし呆然とした後に周囲を見回す。真っ黒な煙が上がり、銃撃が止んでいた。敵は爆発に巻き込まれたのだろうか。
港はむごたらしい有様だ。
係留していたボートは爆風に煽られて転覆するか、引火して燃えている。
ガケフチは、自分がトリガーを引きっぱなしにしていたのに気がついた。自分の手元で、ズダダダと機関銃がせわしく動いている。トリガーを引いている手は、まるで自分の手という実感がない。
撃った弾が、あちこちで破壊をもたらしている。わずかに生き残った敵も、もはや戦意はないようで。ひたすら身をかがめて、自分のところに銃撃が来ないよう祈っているようである。
「こっ、これが戦場か……」
昨日までの数十年間デスクワークしかしたことがなかったのに、いきなりむきだしの暴力の世界に放り込まれた、ガケフチはただただ困惑する。
それも、たかが歓迎会の物資調達をためにだ。
「長官、なかなかいいセンスしてるじゃありませんか!初めてでここまでやれる人は、そうそう、いませんよ」
むごたらしい光景が広がっているにも関わらず、キャステは上機嫌だ。
「これで我々を追える者はいません。獲物を仕留めにいきます!」
キャステは、燃え盛る港を尻目に、ホバーボートの出力を上げた。




