107 はじまりの準備。
ポイしてきた朝。里の人達は、まだ気がついていない。
ルミナリエのお店作りでワサワサしてるからね。
ありがと。
急いで帰ってきたけど、随分手間取っちゃった。そろそろ朝ごはんのじかん。今日はルミナリエの立ち上げをするだけだから、みんなゆっくりなはず。ちょうど起きてきた当番のお姉さんと変わって僕が用意するね。
今日は主食を選べるにしようかなって、コメを炊く。普通のとゆるゆるに炊いたの。もちもちメンにパンもある。黒くて堅いのもやっぱりあって、アノ国で固くって酸っぱいだけで、すごくイヤだったけど、かなり美味しくした。堅いのが好きって人に美味しいって言われるの。頑張って良かった。
今日のスープは野菜いっぱいので、カレーの粉を入れてみた。ちょっと違うオイシサになる。あとミーソーでトーフー入り。
尻尾の人とモノの名前で呼ぶって話をしたから、恥ずかしいけどがんばって言う。鮭は塩焼き。卵はターンオーバーで用意した。腸詰めや煮野菜もある。道具を最弱にして下に置いてあって温かいの。
生野菜のサラダもあって、ドレッシングが色々。
全部揃った頃にぽつぽつと入ってくる。今日は選べるよって言って、食べ方や合うおかずのオススメをする。各テーブルに調味料を置いてあるから、微調整を自分で出来る。他ではものすごく貴重な胡椒や砂糖に高い塩がここでは好きなだけ。
初めて置いた頃は、味を見ないでパカパカ掛けるのが多くて、不味いっていうの。「美味しくなくて、ゴメンナサイ」って、妖精さんにお願いして下げてもらって全部を肥料にしてもらった。
僕の料理は覚えているレシピを丁寧に再現しているだけだもの。アレンジするときも必ず何回も頭の中で作って大丈夫にしてからなの。
美味しくないのは僕のせい、味が嫌いだから、いっぱい香辛料を掛けられちゃう。美味しくできなくてごめんなさいって、レシピを作ってくれた人、命を戴いた牛を想って涙が出て、何度もごめんなさいをしたなあって。何日かしたら、ドサッって掛ける人は居なくなったなあって、だいぶ前の事を思い出したりしてる。
平気じゃなかったみたい。
しばらくして、船組が荷物を満載して出航、人魚さん達がごはんを終えて揃ったのでノルデンで商店街に送る。出発クジで上(座席・窓あり)と下(床に直・荷室)に分かれて出発。
今日は商店街は休みで、お別れ会だけ。何とか形にしてもらったヒト達(人魚ってたぶん気がついてない)にありがとうをするのと、抜けて不安だけどガンバルって気持ちを入れるための会でもある。送ってすぐ里に戻って荷物とみんなを積んでまた海に行く。降ろしたら商店街にお迎え。
とっても楽しかったみたい。何人かの目が赤くて、ケンシュウが大切な時間になったようでうれしい。今すぐは無理だけどニンゲンと仕事が出来る日がきっと来るよ。
みんなワイワイとケンシュウの思い出話をしている。お店が楽しいものでよかった。お店だけしたいって思ってる人もたぶん居るだろうけど、すぐはムリかな。人が足りないもの。使う人の笑顔を覚えていれば、作るのはとっても楽しくなるよ。
今日は行ったり来たりして忙しいの。徹夜だし。まだね、飛行の道具を扱えるのが王しかいなくて、総出でお店作りしているから、僕が配達係なの。東行きの頻度がかなり高くなるから、もう一つ要るなあなんだけど、誰がってなる。尻尾の人の適性を見なきゃって思っているところ。足りないのが知識だけなら、頭に焼き込んじゃえば良いんだけど、この飛ぶっていう感覚を受け入れられるか、どうかが一番難しいの。
適正で考えるなら、まず聖女(聖人)だよねえ。カタバミちゃんアサガオちゃんは食材棟があるから、お姉さん達。飛ぶを理解している感じがするしね。
今日3回目のルミナリエに来たよ。ちょっと前まで、遠くてたいへ〜んって思ってたんだけど、気軽に来られる場所になってる。近い場所になって嬉しいって思う。久しぶりの帰郷だけど、どんなかな。前の入江は欠片も残ってないからねえ。里で密度濃かったから、第二の故郷になってたら嬉しいんだけどね。
みんなでテクテクって行くと、ずっと先まで店が開いててね。ちょこちょこ出入りが見える。店作りは終わっていて、細かな調整ってとこかな。商店街は人が足りなくて、まぜこぜの店でキッチリ並べただけのレイアウトにしてる。ぎっしり置かないと入らないしね。ココのは専門店ばかりだから、同じにする必要はないし、ゆったりしてるから、飾り付けも凝っちゃうよねえ。僕も隣とは違うって店作りにすると思うし。
みんなは、うわ〜って声を上げて、担当の店に走って行く。明日から店員で店長だもの。ワクワクするよね。これからがんばって。
生産のお仕事とお店は近いものにしているの。作ったものを売るって感じ。まあ、だいたい。洋服の店や日用品に雑貨の店もある。
これは僕がやりたいと思った里の将来のイメージでもある。店の設置をしながら未来も感じてもらうのが僕の狙いだったりする。
受け身過ぎる里の人達が未来を描いて欲しいと思う。
楽しそうな声を見送って食堂で持って来たお菓子を切ってもらう。トントンってサイコロにしてもらう。色々な色は味の違いでね。混ぜて冷やしただけっぽいけど、ちょっと違う。これに果物の砂糖漬けをザクザクしたのをぱらりと入れる。
見本をつくるとね。きれいや可愛いって、どうぞで美味しいって。
これは、最近ようやく製品の目処がたったもの。料理で煮こんで置いておくと透明な固まりができるでしょ。それの純度を上げたものなの。料理で面白い使い方が出来るし、お菓子も楽しいのが出来るステキなもの。
精製っていうもので、香りエキスの抽出や塩作り、見方を変えればや鉄作りだって似たようなものかな。まず純度を上げてね。レシピに合わせて違うステキなものを作る。
・・とか言ってるけど、今日のは東の国で、この前大量に買った赤い草から抽出してるもの。夏の食べ物で透明なウニョウニョがあるって知ってた。多くは肥料にしているもの。
普通に食用で流通するなら抽出が楽かな〜って。食べ物だし冷凍室に入れてね。解凍したら水が抜けたし、草の臭いが薄くなった。オヤッて繰り返したら水がスッカリ抜けて、臭いが無い。いけるって思って全部この方法でやったの。置き場所取ってたしね。匂いが無ければ色々使える。方法や原料が色々あった方が良いから、両方で作るつもり。
知識を完璧にするだけじゃ足りないの。感覚的な理解・・例えばヒトは水に入ると沈むって思ってると、じっとしていれば浮くってことが分かってても浮かない。何でを理解してもね。
飛ぶもそう、「ヒトは飛べない」が取れないと、どんなに頑張っても飛行の道具は動かせない。完全に理解してもなの。
反対に感覚的な理解があると動かせたりする。車とかね。実際は何でが分からないと動かせるだけで終わるけど。
色んな事があって、ヒトの考え方がちょっとだけ分かるようになった。分かろうとしない壁みたいのがある。何とかなるかどうかは、すぐ。
どうするかは周りの気持ちをある程度だけ、尊重はする。
ここに居た人達、特に食堂の人達は当然分かるし聞きたそうな感じ。小鬼ちゃんが作ってる献立の朝食やお昼ごはんの数量が今朝分から激減してるから前もって知ってるんだけど、それでも聞きたいよねえ、僕に。
分かり易い玉の人達や紐の人達を全く見ないし。でも僕の気持ちとか考えると聞けないってとこかな。
もくもくと作って並べると、少ないって実感する。人数分だしね。うちの人達が加わっているのにって思うだろう。食事で賑やかな、いくつかの集団や顔を知っている誰かを見ていないもね。
食事係のモヤモヤに関係無く、ひと仕事終えた人達やお店飾りが完了した人達が楽しそうに入ってくる。「久しぶり!」「元気だったか」って再会を喜ぶ人もチラホラ。
再会を確認して、おやつ美味しいが落ち着くと、感じる。「ああ、もう居ないんだ」ってこと。
それで、ぽつんと居る、僕の方に感情が押し寄せてくる。「感謝」「後悔」「悲しみ」「希望」「不安」「シャーデンフォロイデ」そして「恐れ」「嫌悪」も少し。思ったより、悪感情は少なかった。
僕はこのままここに居て、行き場の無くなった感情を引き受けるの。
ここには、モヤモヤが溜まっていた、いっぱい。何とか変えようとする人は時々現れるけど潰される。糾弾すべき相手とそれを許しちゃってる人達によってっていうのは想像が付く。
誰かが現状を変えてくれることを願っているし言ってるはずなのに、現状を変えることの邪魔をする。悪だとも言う。自分たちが悪くないにするために他の人を叩いたりもする。こういうのどこでもあるし否定はしない。
上手くいってそうな僕らでもガス抜きを色々している。
シャーデンフォロイデ・・他人の不幸を幸せに思う感情でね。可愛い失敗を見て笑ったことの無い人はいないくらい普通のこと。
溜まりすぎたモヤモヤをスカッとさせるために公開処刑というのをたいていのところでする。みんなの言葉で言うと「ざまあ見ろ」かな。罪の報いというより、手っ取り早い娯楽。施政者に向けられるべき悪感情をチャラにできるし一石二鳥だから、よく行われるの。あの人達もたぶん。
里でも、ココでもやるべきだったんだけど、僕の町に報いの枷は付けたくなかった。救いもあって欲しい。ポイした人達に向けて精算したかった感情が不幸になってくれなくて、行き場を無くすけど、それは持っていて、考えて欲しいの。
処理しきれない分は僕が持つなんて言うけど、考えながら向けた感情(正当化したい言い訳)は、自分に返る。僕がココで何をした、これからの希望に、小さくて弱そうな姿を見るとみんなお引き取りする。向けるべきは何もしなかった自分じゃないか、誰かのせいにはしてはダメって、気が付いて考えてもらうの。
ほぼ全員が来たオヤツが終わって、みんなが出ていくとトイレに駆け込んでゲーゲーする。感情が体中に突き刺さって、かき回されて、すごく痛くて苦しかった。
フラ〜って、外に出てとぼとぼ歩く。店は賑やか。掃除したり、飾りを増やしたり、そして入れ替わってチェックし合っているところだろう。賑やかが遠くなって、家主が居なくなった家を元通りに整えていく。どこもこんな短期間でよくここまで散らかせるものだと驚いたりする。かなり面倒で作り直した方が良いくらい。
南海の孤島が人魚さん達の楽園になると良いなは、かなり甘い希望だと思うけど、何とかはなる場所。物語の人魚さんって、のんびりで幸せでね。働いてる姿って描かれてないの。そんな生活が出来るけどね。
読者が字間に期待する豊かな生活って頑張らないとなの。キレイな服やオイシイモノ、甘いものとかね。僕たちと出会う前なら、まあいっかで済んじゃっただろうけど、車や船、空を飛ぶ道具に他にもあるって楽しかったって話をしているのを聞いている。目指す水準を上げるか、まあいっかにするのかは、ちょっと気になるけど干渉しないって決めたからね。近くにも行かない。お買い物隊たちの街へも。
トボトボと歩いて、湖の人魚さん達の住処のあたり、汚くなっている所がそうだと思う。一気に耕して、果樹園に取り込んで、温室を建てる。これで全ての農地、耕地は完了になった。汚損はアレだし良い肥料になるだろうね。
あ〜あって思う。おかしいなって思って調べて状況を確認して、今のコレを予想した。変わってを期待したけど、ダメだったよっていうほど待っていない。お買い物隊をポイするって決めた期間は、ちょっとだけで、勇者たちをどうにかするのはずいぶん時間があったよね。
これは、みんながポイして良いって思うまでの時間だった。最後を決めるのは、誰もがイヤだから僕が決めただけ、誰かせいにしたい時に「アイツが」っていう、アイツならイイヤっていう存在。
近くにいても、誰よりも遠いのが僕。
ルミナリエでは、残ったみんなで考えてくれたけど、里はそうはならなかった。罪をハッキリさせた方が良かったのかな。
「僕は・・」
フリフリして、ちょっと早い夕食のメニューを考える。明日からルミナリエが始まる前祝い。商店街も半人前スタートする。お世話ばっかりしていて、ちょっと止まっていた里も動き出す。秋はもう終わる。冬に負けないように耐えるんじゃ無くて、戦う(嬉しくする)準備を始める。
僕、きっとみんなも初めての楽しみな冬を迎えに行こうね。
あ〜あって感じ。
必要なことだからね。町の始まりに要らない感情だもの。
でもさ。ううん、いいの。
じゃあまたね。




