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平行世界の現代陰陽師  作者: なっちゃん
漆黒の天狗
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第三章

 そして、柔道場。

 俺は柔道着を素早く着て、黒い帯を結んだ。

 そうです。俺、柔道黒帯です。でも、さすがにあいつには敵わないと思うんですけど……

 先生からは、碓氷は決勝戦に買ったやつと一回勝負をしてから普通の練習にも参加すると言われた。

 俺は、冬貴と面を向かい、一礼した。

 そして、試合はしばらく続き、俺が負けましたぁ~

 パチパチパチ~

 がんばれ、冬貴。俺は畳の外で応援してるよ!

 と、心の中と目で冬貴にエールを送ってみた。

「お、お手柔らかにお願いします、先輩」

「……やるからには全力で行く」

 冬貴の少し小さな声に、碓氷の奴は、容赦なく駄目だと言い放たれてしまった。

 まあ、勝負に手を抜くのは、相手を尊敬しないということだからな。

 ………少しくらいは、手を抜くよな、あいつも

 なんか、絶対に手ぇ抜かない気がするんだけど、こいつ

「初め!」

 お互い、礼をした後、勝負は一瞬で終わった。

「あ……れ?」

 そして、投げられた本人のである冬貴自身は、何が起こったか全くわからない状態で畳の上に寝転がっていた。

 まあ、この場にいるほとんど全員が今の状況を理解してないだろうけど。

 俺も何が起こったかわからんし。

 しかも、冬貴を投げ飛ばした本人は、相変わらずの無表情で、冬貴に手を差し伸べた。

 冬貴はあっけにとられながらも、碓氷に手を差し出し、引っ張られて、立ち上がった。

 その時には、先生も気が付いたのか、お互いを向かい側に立たせて、礼をさせた。

「なあ、風弥。俺、そんなに弱いか?」

 戻ってきた冬貴は俺にそう聞いてきたが、俺は何とも言えなかった。

 正直言って、冬貴はそんなに弱くない。ただ単に、碓氷蓮楓のほうが強かった、ってことなんだと思う。

 先生が俺たちを呼んで、畳の上まで行こうとした時だった。

 不自然な霊力の流れを感じて、俺は柔道場の外を見た。そして、その時、地面が揺れ始めた。

 地震のような初期微動の小さな揺れは全く感じなかった。いきなりの大きな揺れに、この場にいる全員が違和感を感じた。

 中央学院高等部に入った生徒は、全員中等部の生徒やほかの陰陽師学院とは違う。

 入学試験化進学試験で、妖や悪霊を倒し、その中でも上位100人の生徒しかこの学院の高等部に入れない。

 残酷といっていいほどのあの試験を乗り越えた中でも、A組の生徒はトップの存在だ。

 だから、この場で不用意に動こうとする者はいなかったし、おびえて動けなくなったものもいなかった。

「一体、何が起きたんだ?」

 先生は眉間に深いしわを寄せ、そうつぶやいた。

 碓氷も微妙に眉間にしわを寄せていた。

東雲(しののめ)、今すぐ生徒を避難させろ!」

 東雲先生が俺たちに何か言おうとした時、柔道場のドアがバンと蹴られてあけられた。

 そこには、珍しく真剣な表情をした有馬先生がいた。

「何があったんだ、有馬?」

 東雲先生は真剣な表情をした有馬を見うると、さらにその眉間のしわを深く寄せた。

「………」

 有馬先生は、東雲先生のその質問を聞くと、小さな声で、そう東雲先生に耳打ちをした。

 俺は普段から癖で張力と視力は強化しているから、小さな声だったけど、俺には聞こえた。裏山の封印が解けた、と。

 裏山の封印って確か……

「……分かった。碓氷、お前は有馬と一緒に行ってくれ。速水!」

「はい!」

 東雲先生は、有馬の奴の話を聞くと、一瞬考えこむと、碓氷にそう言った。そして、なぜか俺の名前も呼んだ。

 俺は少し驚いたが、反射的に返事をした。

「お前もついていけ」

「は……へ?」

 俺は一瞬、東雲先生が何を言っているのかよくわからなかった。

 え、ちょっと待って。

「えっと……俺も、生徒ですけど?」

「勝手に校外の妖退治の任務を受けている奴が何言ってやがる。年齢がまだ一切足りないだけで、お前の実力は一等陰陽師にとっくに達しているだろ」

 あれ、なんでばれたんだ?

 俺が不思議に思っているのを待たずして、有馬先生は俺の腕をつかんで、転移の呪文を唱えた。

「え、ちょっと、待っ!?」

 俺が驚いている間にも、俺たち三人は裏山に到着した。

 つくづく実感するが、転移の呪文って便利だよな。

「あの、俺、生徒……」

「あ?」

 俺が何か言おうとすると、思いっきり有馬先生ににらまれた。

 あ、これ、何か言い訳をしようものなら必ず悲惨な目に合うやつだ、と思い、空気を読んだ俺は何もなかったことにしようとした。

「いえ何でもありません失礼しました」

 そして、俺らの隣には、俺と有馬先生のやり取りを黙ってみている碓氷がいた。

「有馬さん。いくら彼が首席だからと言って天狗を封印しなおすのにあまり力がなさそうな生徒を連れてくるのはどうでしょうか」

 ずっと黙っているのかな、と俺が思っていたら、碓氷が無表情でそう言い放った。

 ……んと、こいつ、俺をなめてんのか?

 いや、これが普通の扱いだと思うけど、なんか、むかつく。

「力がなさそう、って何ですか。碓氷さん、俺は確かに生徒だけど、そこらにいるフリーの陰陽師よりは強いと言える自信はあります。それに、有馬先生が俺を連れてきたのは、俺の力を認めたからなんでしょう。何も知らないというのに、憶測と見た目だけで人を判断するのはどうかと思います」

 耐えに耐えきれなくなった俺は、思わず碓氷に向かってそう言い切った。

 いや、呼び捨てにしなかっただけましだと思ってくれ。

 もし礼儀作法の暁先生がいたらきっと、大先輩に向かってこの物言いはなんだ!と怒っていることだろう、と心の中で思った。

「……行くぞ。封印の地までは転移ではいけないからな」

 有馬先生は、俺がこんなムキになるのは珍しいとでも思ったのか、一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに真剣な表情に戻り、俺と碓氷に向かってそういった。

 天狗、か。

 霊魂が堕ちてなった白天狗(てんぐ)は何度か見たことがあるが、もとより天狗として生まれ、妖怪の中で最も神に近いと言われているほどの力を持つ、黒天狗は教科書や図鑑の中でしか見たことがないな。

 まあ、見たことがあったらきっとこの世は大変なことになっているしな。

「……先生、質問してもいいですか?」

「なんだ」

 俺は、恐る恐る前を歩いている先生にそう聞いたら、さっさと言えと言わんばかりの口調で返事が返ってきた。

「黒天狗って、なんでそんなに人間を敵視してるんですか?」

 俺がそう聞くと、明らかに一瞬有馬先生の足が止まった。すぐにまた歩き始めたが、やっぱりなんか変だ。

「それは奴を封印してから話す」

「……確実に封印できるんですか?」

 話をそらしやがった。と、俺は心の中で思いながら疑わしげに有馬先生を見た。

「……この山から離れていなければ大丈夫だ」

「いや、離れたら逆にやばいですよね」

 この裏山には、なんでも特殊な結界が張られているらしい。

 普段はここは近寄ってはいけないところだから、俺も遠目でしかこの山の全体像を見たことがない。

「……ついたぞ、ここだ」

 それからしばらく無言の道が進み、十分。

 有馬先生が立ち止まり、後ろを歩いていた俺と碓氷は隣まで歩み寄って止まった。

「……悲惨だな」

 黒天狗を封印していたはずの封印石は真っ二つに割れていて、封印のための護符は破れていた。

 ところどころに傷を負った、狩衣を着た陰陽師や倒れてうなされている陰陽師もいた。

 しかし、封印を破った黒天狗は、その場にはいなかった。

「いったい何にが起きたんだ……」 

 この状況を目にした先生も、さすがにその場に立ち尽くしてしまっていた。

 黒天狗が強いということは多くの図鑑で読んで知っていた。

 だけど、そんなに強いのか?支援に着た陰陽師のほとんどを倒し、この場から逃げられるほど。

「おい、大丈夫か?」

 有馬先生は、傷を治癒している陰陽師の一人にそう聞いた。

「私は、大丈夫です。それよりも、早く、奴を追ってください。文月様も追っていますが、一人ではさすがにきつい」

 彼女は、そう言い終わると、霊力を使い切ったのか、そのまま気絶した。

 有馬先生は眉間にしわを寄せ、俺を見た。

「流川、追跡できるか」

「えっ。俺、ですか?」

「当たり前だ。この場にお前以外のるかわっていうやつがいるか?」

 俺は驚いて聞き返したが、有馬先生はさも当然のようにそう言った。

「お前は一年のころから式神を使うのが得意だったろ」

 有馬先生は眉間にしわを寄せながらそう言い続けた。

 俺は少しためらったが、ポケットに念のためにいつも入れている人型の擬人式神を取り出した。

「探せ」

 俺の手から離れ、くるくるとまるで風の抵抗を受けていないかのように軽やかに飛び回る式神に、俺は言霊を吹き込んだ。

「言霊……なるほど、確かにさっき言った言葉はただの戯言じゃなかったということか」

 碓氷が俺の言葉を聞くと、一人でにそう言った。

 言霊はだれでも使える。ただ、それを自在に操れる人はあまりいない。

 言霊というのは目に見えなく、霊力で開眼しても見えない。

 そのためか、言霊を使うときに、加減ができない人がほとんどだ。

 言霊というのは、一字一句に思念が込められている言葉のことだ。陰陽師でなくても、普通に霊力を持ったものも使うことができる技だが、大量の霊力を消費する。

 そのため、一つ一つの言霊に込める思念の量をコントロールしないと、たった一回しか使っていなくともダウンすることがある。

 しかし、俺の家には代々伝わってきた秘術がある。様々なものがあるが、言霊を操るというのもその中の一つだ。

 その秘術は無駄なく言霊を操る方法が記されていた。

 だが、その術が書かれていた書簡も、あの夜にすべて燃やされた。俺の家族と共に……

 神の式はしばらくこの場をぐるぐると回っていたが、何か見つけたのか、南のほうを指さして、一人先に自分が指さした方向に向かって飛んで行った。

「……行きましょう」

 俺は気を取り直して、碓氷と有馬先生にそう言った。

 そして、俺たち三人は、ほかに救援に来る陰陽師を待たずして、黒天狗と文月学園長がいる場所へと向かっていった。

切り悪かったので1000文字くらい付け足しました。

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