第十二章
それよりもだ。クロの奴、本当どこに行ったんだ?
あっけにとられている智暁を置いて、俺は再びクロを探し始めた。
もう、あいつの部屋にいる……とかありえないよな。うん。ないだろう。……一応このまま行ってみるか……
元生徒会長だということもあって、覚える必要のない、だれがどの部屋にいるのか、という情報すらを俺は把握してしまっている。
断じて好きで、こういう情報を知っているわけではない。断じて!
綴の部屋は確か西棟の五階だったはず。部屋移動していなければあっているはずだが……部屋移動してそう。
綴は、半分妖の血が混じっているせいで、かなり学園の人たちから嫌われている。
学園の寮はすべて一人部屋だが、隣の部屋に妖の子供がいる、というだけで気味悪がる奴らが結構いる。だからなのか、あいつの部屋は大体不定期に変わったりするのだ。
そして、俺が在任期間中の、最新情報が、西棟の五階、というものだ。
五階は大学生たちの住んでいる階だから、人は少ないかもしれないな。
変わっていないといいんだが……変わってたら本当に見つからないわ。あいつは結構神出鬼没だからな……
西棟まで行くと、妙に騒がしくなってきた。
気になった俺は、騒ぎを見ている後輩を一人捕まえて何があったかを聞いた。
「なんか、流川先輩の式神の天狗が半妖……じゃなくて、綴先輩の部屋に入ったのを見て、二年の先輩達が騒いでるみたいなんです」
……やっぱりクロは綴のとこか。
「あいつは俺の式神じゃねえよ。ただ、俺が面倒見てやってるだけだ。中等部の奴らにもそう伝えておけ」
しかし……なんでクロが俺の式神ってことになってるんだ?
別にいやっていうわけじゃねえけど……クロはどう思ってるんだろうな……
「え、違うんですか?!」
「……ったく、二年の奴らは俺が抑えるからお前らはさっさと授業に戻れ」
「は、はい」
俺がそういうと、中等部の制服を着た少年は渋々ながらもおとなしく中等部の校舎に戻っていった。
はぁ……過激すぎだろ、あいつら
「おい、お前ら!他人の寮の門をふさいでんじゃねえ!」
大声でそう怒鳴ってみると、門の前にいる生徒全員俺のほうを見た。
「流川先輩!」
「止めないでください!あいつ、先輩の式神を……!」
「お前らがあいつ呼ばわりしてるやつも三年だぞ」
「……そ、それは、そう、ですけど……」
はぁ……
つくづくこの社会は人間と妖の子供には不公平だよな。
「とにかく、お前らがここにいたら大学の先輩達にも迷惑かけるだろ。授業ももうすぐ始まるし、早く戻れ」
こいつらは本当、一回厳しくしかってやらなきゃだめだな。
しかし、クロが入っていったっていうことは、綴は九月の時から寮の移動をしてなかったということになるな……
珍しくずっと移動してないのか……
まあ、もうすぐ卒業だし、大学では半妖についての勉強もするって聞いたから、綴に対しての偏見が小さいのかもしれないな。
「柊。もう隠形しなくてもいいんじゃないか」
《そうだな》
そういうと、すっとどこからともなく柊が姿を現した。
手を組んで何やら眉間にしわを寄せていたが、俺は気にせずそのまま四階に向かった。
四階まで行くと、妙に静かなのに気付いた。
……ああ、そうか。大学生は全員講義なのか。
タイミング悪いな。
こめかみを抑えたいのを何とかこらえてそのまま綴の部屋の前に立った。
ふぅ……
心の準備をしてから静かにノックした。
「綴、流川だ」
しばらくすると、バタバタする音がしてドアがバンッと勢いよく開いた。
もちろん、開いた人が綴なわけがなく、黒い髪が真っ先に目に飛び込んできた。
「クロ……」
「いや、別に、お前を避けてたわけじゃないからな。ただ単に、和颯と話したかったからで……」
「いや、俺まだ何も言ってないじゃん」
「……そっか」
俺が苦笑い浮かべてそう言うと、クロは何回か瞬きしてから、気まずそうに俺を中に招き入れた。
そして、俺の後ろに柊がいるのを見て、少しいやそうにめをそむけた。
「なんだ」
やっぱなんか嫌われてんな、俺。
「いや、ちょっとな。柊」
「ああ。……これを、お前の親から預かったんだ」
そういって、柊は袋を取り出した。
ん?前見たときはまだ袋に入ってなかった気が……
「……は?」
まあ、そりゃそういう反応になるでしょうね。
いきなり知らないやつが「お前の親から預かったものだ」って言ってもなぁ。
信じるわけねえだろ、って感じだな、うん、まじで。
って、受け取るのかい。
そんなこと考えてると、いつの間にか綴が柊から袋を受け取っていた。
眉間にしわを寄せながらも綴は袋を開けて、中のものを出した。
中身は、俺がこの前見たのと同じ勾玉だった。朱色と、緑色の勾玉。
「勾玉?」
「ああ、そうだ」
「なんで親父の形見を妖のお前が持ってるんだ」
「お前の父ではない。母親から預かったものだ。緊急時にそれを割れば……」
と、柊が言い終わる前に、綴はそれを柊に投げ返した。
…………まあ、そうなるだろうな。
「あの女のものなんていらねえよ。どうせ今でもどっかでのこのこ生きていやがるんだろ、親父を見捨てたくせに」
その言葉を聞いた瞬間、柊からとてつもない殺気が放たれた。
「柊、抑えろ」
さすがにこれはまずいと思い、俺は柊の肩に手を置いた。
「ちっ」
柊も自分でまずいと思ったのか、すぐに殺気を収めた。
はぁ……
「綴、お前もだ。いくらなんでも、それは母親に対しての評価じゃないだろ。それに、か…のじょも、おそらくお前の父親が死んだときに死んだはずだ」
「……お前に説教される筋合いはない。それに、何を根拠にそんなことを言ってやがる」
「彼女が人魚だということを根拠にして俺は言っている」
「人魚?!」
俺が人魚だというと、綴が何か言う前に、クロが大声をあげて俺の肩をつかんだ。
「風弥、人魚はまだ生存者がいたのか?!」
俺があっけにとられていると、クロは鬼のように俺に質問攻めしてきた。
そいつは何て名前だ?!とか、子供はいるのか?!とかいろいろ。
「お前、人の話聞いてたか?」
俺は、興奮したクロを半場無理やり俺から引き離すと、苦笑いを浮かべてそう言った。
「……?」
これ絶対さっき俺が言った言葉理解してない奴じゃん。
「お前の隣に立ってる綴和颯が、その人魚の子供だよ」
「……え?いや、でも、和颯から人魚の匂いは全く……」
そこまで言うと、クロは、はっとしたように綴のほうを見た。
勾玉を手にした瞬間、綴の周りから海の音がした。
「……なんだ、これは」
「人魚……だ」
間違いないな。俺が本で読んだ、人魚が覚醒する時の現象と全く同じだ。
霊力を使うとき、どこかぎこちなさを感じていたのは、綴のもう半分の人魚の血が封じられていたからなんだろうな。
「…………俺は人間だ。人魚になるつもりはない」
綴は、眉間にしわを寄せながらそう言った。
まあ、いくら人魚が稀少な妖だからと言って、今まで人間として生きていた奴に人魚になれと言われれば反発はするだろうな。
「誰もお前に人魚になれって言ってないだろ。柊、こうなることは知ってたのか」
俺はため息を一つついて、柊に聞いた。
案の定、柊は首を横に振って知らないといった。
綴の母は、いったいこいつに何として生きてほしかったんだろうな……
「……ん?」
勾玉から奇妙な気配が……気のせいか?
「どうしたんだ、風弥?」
「……いや、なんでもない」
気のせいか。
兄さんの霊力が、あの勾玉から一瞬感じ取れたんだが……
兄さんは、あの火事で亡くなったんだから、兄さんの霊力が勾玉から感じられるはずがないんだ。
そう、ありえない……




