第十一章
俺は昔、両親と祖父母、兄以外の者から忌み嫌われていた。
理由は忘れたが、おやじが、一回だけ身の丈に合わぬ術を放ち、俺と同い年の子供が死んでしまったからだよ。と教えてくれた。
身の丈に合わぬ術。その言葉を理解するには、当時の俺は少し小さすぎた。
だから、あんなことが起きたのだ。俺があの膨大な力を掌握することができたら……もっと俺に力があったら……と。
あの日の朝は、よく晴れていた。何が起こるかわかりもしなかった俺は、いつも通りに学校に行った。
しかし、その日、学校に行ったのはなぜか俺だけで、ほかの俺と同い年の子はみんな屋敷の中に残っていた。
それがなぜなのかは未だに俺には分からないし、おそらくこれからも分かりえないだろう。
あの時の俺は、誰もいないことをおかしいとは思っていたが、それよりも、何も言われずに学校に行けることへの喜びが強かった。
そして学校に行くと、先生は驚いた顔で俺を見てきた。まるで、なんでお前がここにいるんだ、とでもいうように。
なんでも、あの日は流川の人はだれ一人学校に行かなかったらしい。ならばやはり、俺は流川ではないのだろうか、と、俺は戸惑った。
そして、そのまま一日が過ぎた。
学校が終わり、俺はいつも通り、家への帰路についた。
しかし、家に戻ったら、そこには、青色の炎に包みこまれた屋敷と、その前に狐の妖が黙ってその炎が燃えるのを見ていた光景が広がっていた。
その妖狐は俺の存在に気付き、俺のほうを見た。そして、その妖狐は、こういった。
《これは、天の思し召し(おぼしめし)か……ならば、お主は残しておこう。いつか、お主が我を倒してくれる日が来ることを望んで》
と。
それだけを残すと、その妖狐は俺の屋敷を包み込んだ炎と同じ色の炎と化し、消えていった。そして、その妖狐が消えた瞬間、屋敷の炎も消え、無残に燃やし尽くされた屋敷と、俺以外の、流川の人間の骨がただ呆然と、俺の目に映っていた。
俺は、涙すら出なかった。ただただ、呆然とその光景を見ていたのだ。
「……夢、か」
目を開くと、そこは六年間見てきた寮の天井が俺の目に飛び込んできた。
久しぶりにあのころの夢を見た気がする……
昨日、俺が転移札を破り、学園に戻ると、なぜか綴がクロと一緒にいた。
「お前……!俺がどんだけ探したと思ってるんだ!心配させんな!」
「…………だって、お前ずっとあの妖と話してて俺のこと無視してたじゃん」
「……分かったよ。今回は俺も悪かった。それは認める、だけど、あんまり心配させんな」
クロが不満そうにそう言うのを聞いて、俺もどうしてもあいつに強く当たることができなかった。
俺がそういうと、なぜか隣の綴にキッとにらまれた。
ん?なんだ?俺、こいつになんかしたっけ?
「星霧、じゃあ、俺は先に寮に戻る。何かあったら俺に連絡しろ」
「いいけど、何かって何?」
「……流川にいじめられた、とか」
……俺、本当になんかしたか、こいつに?
めっちゃ敵視されてる気がするんだけど。
そこまで考えて、俺はクロと綴を交互に見てみた。
いや、まさかな。うん、ありえないね。杞憂だよ、きっと。
と、言うことがあって今に至るが。
いくらなんでもあり得ないよ、うん。綴がクロに一目ぼれとか。
ありえない……よね?
「おい、何ぼうっとしてるんだ、風弥」
「……ん?ああ、柊か」
「俺以外に誰がいるんだ。で、今日は和颯に会いに行けるのか?」
会いに行けるかって聞かれてもなぁ。昨日会ったじゃん。
まあ、こいつは学園に戻ってきた瞬間どっかでさまよってたから知らないのかもしれないけど……
クロにならあってくれそうだけど、俺じゃあだめって断られそうだなぁ。
…………
「じゃあ、まずクロ探すか。俺に会ってくれそうにないからな」
「なぜ?」
「……なんか嫌われてるんだよねえ、多分だけど」
「多分じゃないか」
「……とにかく、クロを探しに行こう」
そのまま俺に押し切られた柊は、仕方なさそうに俺の後ろで隠形したままついてきた。
「ふっ。俺に勝とうなんざ百年早いぜ」
……なんていうのは冗談で。
いや、本当に冗談だから後ろからにらんでくるな。
そしてどすのきいた「あ?」が聞こえてきた。
ああ、恐ろしい恐ろしい。
しかし、クロの奴、どこに行ったんだ?普段行きそうな場所は大体探したと思うんだが……
「あ、流川先輩!」
「智暁?どうしたんだ、こんなところで」
向こう側から俺を呼ぶ声がしたかと思いきや、まさかの智暁だった。
高1は確か今日から学院にいないはずなんだけど……なんで智暁は残ってんだ?
「僕は生徒会の仕事が残ってたので、こっちを優先しろと言われたんですよ」
「……まあ、お前は優秀だからな。一回くらい実践訓練参加しなくてもほかの奴らに劣らないし」
智暁は生徒会役員だから、この時期は特に忙しいんだよなぁ。生徒会長の藤堂の奴もなんか忙しそうだったしなぁ。
「で、そういえば、なんで俺を呼んだんんだ」
「ああ、えっとですね。会長に、この手紙に流川先輩のサインもらってきてと言われたので、探してたんです。そしたらちょうど歩いていたので、声を掛けました」
手紙に俺のサイン?なんか、陰謀な気がする。
と、思いながらも、俺は智暁が出した書類を手に取ってみる。
「中央学院への派遣要請
近頃、何やら謎の陰陽師集団が我々陰陽寮の施した妖や魔の封印を次々と解いている。
その謎の陰陽師を捕まえるために協力を要請する。我々からも五名の陰陽師を派遣する
が、貴殿らにも五名の有能な陰陽師を派遣してほしい。なお、この要請に応答する場合
は、学園長及び生徒代表にサインをもらうように。
注:此度の依頼は、何回か出してあるが、参加したものは皆行方不明となった。応答する場合は気を付けるように
陰陽頭 碓氷秋水より」
「……俺は生徒代表じゃないぞ?元・生徒会長かもしれないけど今は違うぞ。それに、この手紙の生徒代表というのは大学のほうの生徒代表のことで……」
それに、何やら物騒な話だな。クロの封印も、この手紙に書いてある謎の陰陽師集団の仕業か。
「……そう、ですよねぇ。でも、先輩がサインしてくれなかったら、サインする人がいないんです……」
「藤堂の奴はどこ行ったんだ?」
「会長は学園長と一緒に出掛けました」
……学園長と生徒会長がこんなにも学園不在なのは大丈夫なのか、この学校。
てか、オッケーする前提なのかよ。
しかし、困ったな……
大学のほうに知り合いはいないし……この手紙には、生徒会副会長ですらサインする資格ないからなぁ、陰陽頭からの要請だから……
いやでも、だからと言って俺にこれのサインをする資格があるのかどうか……
それに、正直言って陰陽寮にはあまりかかわりたくない。あいつらにかかわっても面倒ごとしか起きないし、おじいちゃんもあいつらのせいで大怪我を負った。
「俺はサインしないよ」
「先輩……」
「資格があったとしてもサインしない。じゃあ、人捜してるから」
俺は、手紙を封筒の中にしまうと、そういいながら封筒を手紙と一緒に智暁に返した。
分からない単語などがあったら言ってください。説明する章をつくります




