第一章
「おい流川。俺の授業で堂々と寝てんじゃねえよ」
投げられてきたチョークを手でつかんで、俺は眠い目をこすりながら先生を見た。
「バイトで忙しいんだから仕方ないじゃないですか。それに、別に成績落ちてませんし……」
俺はぶつぶつそう答えると、教壇に立ってたはずの先生が急に目の前に現れ、思いっきりこぶしを俺の机にたたきつけた。
「言い訳すんじゃねえ!お前が優秀なのは知ってるが、それは授業中に寝ていいというわけではない!ちゃんと授業を起きて受けろ!」
と、なぜか急に切れだす担任の有馬先生でした。
俺は流川風弥、高校3年生の大学受験を控えた受験生である。
そして、俺はなぜか今俺が住んでいる世界と別の世界の世界観も持っている。俺の世界は少し変わっていて、陰陽師という職業をトップとし、巫女、武士などという職業のものがとてつもなく盛んな世界なのだ。
そして、俺が持っている別の世界と違って、科学というものは、なぜか全く発展していない。俺でも科学というのは便利だなあと思うのに、だ。
俺の世界の人間は賢いと思う、別の世界よりもずっと。ただ、少し歴史が違うせいなのか、第一世界大戦も第二次世界大戦も起こらんかった。いや、実際には起きたらしいが、その時、日本はまだ鎖国をしていたからな、まったく俺らには関係なかったのだ。
今も、ある意味鎖国は続いている。がしかし、すごいのはここからだ。
いろんな意味での鎖国が続いている今、日本はヨーロッパなどの知識を陰陽術ですべて盗み取り、今のような、別世界と同じような知識レベルを持っているのだ!
まあ、科学は全く発展していないけど。車も飛行機とか、地下鉄新幹線とかはしっかりある。
石油とかそういうもので動いてはいなく、すべて霊力の応用で動いている。
ほら、賢いだろ?
霊力を持っていない人はいないのか?
いません、断じて。霊力は、この世界の人間が生きるために必要な最も重要なエネルギーで、霊力持ってなかったら、その人死んでるね、うん。
まあ、霊力の強さとかの差別はあるけどね。俺は強いほうだと思う。別に、一番霊力が強いわけではない。
自慢にあるかもしれないが、俺は、霊力の操作にたけているのだ。だから、ただ霊力が強くて全くコントロールできないボンボンに比べたら、実践では役に立つだろう。
「キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン」
と、その時、授業の終わりを示すチャイムが鳴った。
おとなしく授業を聞いているふりをしていた生徒たちはいっせいに教室から飛び出し、図書室とかグラウンドとか、練習場とかに向かっていった。
あ、ところで、さっき歴史がずれてるって軽く話したっけ。
俺たちの世界と別の世界の歴史は、平安時代、大陰陽師である安倍晴明の死後から少しずれる。
安倍晴明の死後、彼の力を一番引きついている彼の孫が、晴明をも上回るほどの勢いで陰陽頭にまでのし上がった。その権力は、天皇とも匹敵し、それからは、霊力を持つ者たちがどんどん現れるようになった。
そしてそして、戦国時代になっていく。戦国時代の主役は、別の世界では特殊能力を持たない一般の武に長けたものだが、我々の戦国時代は、陰陽師と巫女たちが主役となった。
その戦いは、それはそれは恐ろしかった。らしい。
まあ、陰陽時とか巫女とかって霊力で戦うじゃん。ふつうは人には使っちゃいけない能力なのよ。なのにそれを人に使っちゃうんだからね。
敵の大将を呪術で呪ったり、軍隊、っていうよりも、陰陽師たちで呪術比べをしたりと、戦争ではない戦争を繰り返してきたわけなのよ。で、その結果、人はたくさん死ぬ、訳がなく、力の弱い何人かの雑魚陰陽師が毎回の戦いで死ぬだけだった。
一般人への被害はゼロに等しいくらい戦争とは言えない戦争だったのだ。そして、力の強い陰陽師が現れ、この戦争とは言えない戦争を繰り返していた戦国時代を終わらせた。
その力の強い陰陽師は碓氷凛遠という。随分と今の時代っぽい名前だな、と俺はこの人の名前を知ったときに思った。
彼は、日本が他国とのいざこざに巻き込まれないように、彼の姉、杠葉と協力して、日本全体を囲む、大きな結界を張った。
九州、沖縄と北海道も、ついでに全部日本の領土にしてね。
「風弥、碓氷先輩のスピーチ、今日も聞かねえのか?」
「ん?聞かねえよ。あんなの、ただ単に教科書の内容を分かりやすく感情込めて言ってるだけじゃん。俺にとって役に立つことなんて一言も言ってねえよ、あいつ」
碓氷先輩っていうのはあの碓氷凛遠の直系の後代で、次期碓氷家の当主ともいわれている超天才だ。フルネームは碓氷蓮楓。
つーかさ、なんで名前の漢字は二文字なのにれんってしか読まないんだ?おかしくない?普通は、れほうとかれんかえでみたいにしかならねえだろ。おかしいだろ。
俺のはなんとなくわかるじゃん、かざみって読むの。
まあ、実際名前の通り、碓氷蓮楓は変人だ。っていうよりも、無表情だ。笑ってるところはおろか、怒った顔すら見たことがねえ。
あ、ちなみにいうと、今俺にむしられながらも話し続けてるのは紫吹拓海だ。いいやつだし、霊力も強いのに成績が悪い。実践試験は点数いいけど筆記試験がやばいくらいに悪い。
今まで留年してこなかったのもすべてはこいつの実践での点数の良さが原因なのだろう。
「それだけって……お前ほんとすごいよな。うらやましいぜ。俺なんか実践しかできねえし、どうやったら筆記の点数も上がるんだ?」
「普通に勉強すれば上がるんじゃない?わかんないけど」
「そんな無責任なぁ~~~~~」
俺は、悲鳴をあげながら頭を抱えている拓海を無視して教室から出た。
俺が通っている学院は、幼稚園から大学までの陰陽師の育成学院だ。それも超有名な。
この学園はあくまでも実力主義で、ここに家柄とかそういうのを自慢したものは即退学、ほかの学院と違って、筆記だけがいいものは、文学院という学院に行かせてもらえる。
そして、文学院から卒業した生徒は、どれもエリートだ。文学院の教育方法は、文学院の生徒しか知らないし、その生徒は守秘義務がある。
文武両道なんてもんはうちの学園では必要のない言葉だ。武は武、文は文。もちろん、両方とも優秀な生徒はいるが、その場合、武学院に投げ込まれる。
「あ、流川先輩!」
日まで廊下でぶらぶらしていると、高校生なのか、と目を疑うほどの童顔で身長の低い男の子が俺に向かって突進してきた。
「探したんですよ。今日、練習に付き合ってくれるって約束でしたよね、先輩」
かわいい顔している男の子の後輩君を、恥ずかしながら俺は時々怖いと思う。
ていうか、マジで怖い。
「い、今からでも付き合うから怒るな」
後輩のくせにいいいい。と、いつもながら俺は心の中でしかそんなことが言えなかった。
この子は智暁、叡智の智と暁でちさとと読む。
見た目も性格も素直でかわいいし、やさしい子なんだけど、怒ると非常に怖い高校一年生であった。
ちなみに、この子も、碓氷凛遠の後代だ。直接的なかかわりはないけど、凛遠の姉の後代だった。
言っていなかったが、今でも日本がちょっとした鎖国状態なのは、凛遠の姉の結界のおかげでもある。今は、智暁のお母さんが結界を継続させてるけど。
「もう、あと一分もないんですよ!?一分で何ができるんですか」
あ、これ、完全に切れかけてる。
かなり限界値突破しそうじゃねえか?
早く逃げたほうがいいような気が……あぁ、でもなぁ、今逃げても後から家に来られて怒られるほうがましなんじゃぁ……ってか、あと一分って、怒られる前にチャイムなるんじゃ……
と、俺がそんなことを考えていると、ちょうどチャイムが鳴った。
「ちゃ、チャイムなったから、俺はもう教室戻るわ。次、次絶対練習付き合うから」
そういうと、俺は脱兎のごとくこの場から立ち去った。