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195.海への道のり――海鳥とカラス

「そろそろ頃合いじゃ。嬢ちゃん、釣りを止めて空を見てご覧」


 ピノに言われ、クロエは空を見上げる。

 真っ黒だった空はいつの間にか明るくなって、薄い雲が棚引き、海鳥が数羽舞っていた。


「ほれ、さっきの小さいの、ぶら下げてみ?」


 こうじゃ、と、指先でイワシの尻尾を摘まんで見せるピノ。


「こう?」

「も少し高く掲げて……ふむ、儂の真似をするんじゃ。鳥が来るけんど、安全だから」


 と、最後は護衛に向って笑顔を見せ、ピノもイワシを摘まんで高く掲げる。


 海鳥が斜め上からその指先のイワシを咥えて攫っていったのは、そのすぐ後の事だった。


「おおっ!」


 野生の海鳥が人の手から餌を貰っていく様子を見て、クロエが感心したように声をあげる。

 続いて、クロエの掲げたイワシも海鳥が攫っていき、クロエが目を輝かせる。


「随分と慣れてますね」


 とレンが尋ねるとピノは笑った。


「何、海鳥は人間は襲ってこないと知っているし、たまにこうして餌を貰えると分かっとるんじゃ」


 クロエは、鳥にやってしまっても良いレベルの小魚を摘まんでは鳥に食べさせる。

 それを見上げ、レベッカが


「あんな無警戒な鳥、落したい放題っすね」


 と思わず呟く。


 それを聞き、ピノは苦笑いを浮かべる。


「落してもアレは食えんからなぁ」

「え? そうなんすか?」

「海鳥……ああやって、海上を飛んでるのとかは、不味くて食えたもんじゃない。遭難でもして、他に何もなくなれば、仕方なく食うかも知れんが、それでも可能なら食わんだろうなぁ」

「食えない鳥って……あ、猛禽類の類いっすか?」


 レベッカの問いに、ピノは少し考えてから答えた。


「そうじゃな。例外もあるが、魚以外の肉食の生き物は大抵不味いと聞く」

「肉食?」


 クロエが首を傾げるとピノは、笑ってクロエが摘まんだ小魚を指差す。


「ほれ、それも肉じゃろ?」

「あ、確かに」


 なるほどと頷くクロエにピノは勉強になったかの? と尋ねる。


「なった。肉食は美味しくない」

「うむ、そうじゃ」


 クロエの頭を撫でるピノ。

 一瞬護衛達が殺気立つが、レンもリオも無反応であったため、彼女たちが動くことはなかった。


「さて。ひとまず釣りは終わりの時間じゃな」


 ピノの言葉にフランチェスカが頷き、答える。


「では、結界内をぐるりと巡ってください」


 元々、船で軽く港を回るのがピノに依頼した内容である。


 一般的に出港は陸風が強い深夜だからとその時間に出て、夜中では何も見えないからと、釣りをしながら夜が明けるのを待っていたのだ。


「ん? 巡るのはもう少し後じゃ。その前に、もう少し海の方を眺めて見るのをお薦めするぞ?」

「海の方?」


 何があるのだろうかとクロエが沖の方に視線を向ける。


 そちらには沢山の漁船が出て、釣りをしていた。

 水平線の空の色は青く、手前は白っぽくなっている。


 この世界の人間は太陽と共に活動をする。

 だから、それを見慣れたクロエ達は、ああ、と納得し、レンだけが首を傾げた。


レン(ご主人)様、水平線のそばの雲を見ていてくださいまし」


 ライカに言われ、レンは水平線近くにある雲を注視した。

 と、水平線近くの雲の上端が光を放った。


 そこに至り、レンも理解した。


(日の出が近いのか)


 雲の上端は、丸い水平線の向こうから指す太陽光を最初に受けるため、日の出前の雲は上端から明るくなる。

 それに少し遅れて、水平線が輝いた直後、太陽が水平線から顔を出す。


「海からのご来光じゃ。これも中々見れぬじゃろ? さて、ここで街を振り返ってみるがええ」

「街? おおっ?!」


 振り向いたクロエが思わず歓声をあげるような景色がそこにはあった。


 海岸に面した坂に作られた街は、その半ばが照らし出され、半分はまだ影の中にあった。

 見る間に街全体が日の光に照らし出されるが、その様は船からでしかみることのできないものだった。


「すごい!」

「気に入ったようじゃな。まあ、一番見せたかったのはこれじゃ。さて、もう少し海が暖まったら街に戻るぞ? それまでは釣りでも何でも自由にすると良い」

「マジッスか?」


 自由と聞き、レベッカはピノに様々な釣りの方法を尋ねる。


「川だと罠漁もそれなりに使うんすけど、海じゃ聞かないっすよね?」

「あるにはある。けど、結界の外では罠に掛かった魚は、罠ごとでっかい魔物に食われっからなぁ」

「あー……狩人の罠も、掛かったシカごと持ってかれたりするっす。あーしも結構やられたっすよ」

「それと同じじゃろう。川だとほれ、そんなに大きな魔物はおらんから」


 あまり体が大きくなると、瀬などがある川では移動が難しくなるのだろう、とピノは予想を口にした。

 もちろん、湖や沼などであれば、それなりの大きさの魔物が育つ可能性はあるが、その場合、今度は餌の供給が成長の上限を決めることになる。


「確かにそうっすね」

「それにしても、器用に釣ると思っとったら、嬢ちゃんは狩人か」

「っす。弓なら結構な腕前っす。御貴族様に取り立てられる程度っすから」

「……ふむ……お嬢ちゃん、後でピノの紹介じゃと言って、冒険者ギルドに行ってもらえんかの?」

「あー、仕事だからあーしはムリッす……ムリっすよね?」


 ファビオにそう尋ねると、ファビオは


「それだけ問われれば無理と答えるしかないでしょう。レベッカに何を依頼したいのですかな?」

「商業ギルドがカラスの駆除をしたがっとるんじゃよ。魚を干してると持って行かれると言っての?」

「網でも掛けておけば良いのでは?」

「それが、カラスは網をどけて干し魚を持ってくそうなんじゃ。一時は、捨てる内臓なんかを網の外に置いたりして、そっちを食わないか試したそうじゃが、ハエがすごくての?」


 なるほど、と頷きつつもファビオは首を傾げた。


「それにしてもカラス駆除程度なら、駆け出しの冒険者でも出来る仕事でしょうに」

「詳しくは知らんけど、干物の被害を抑えつつ、街中でとなると出来る者がおらんそうなんじゃ」

「……面白いですわね」


 少し離れた位置で、クロエとレンと共に海を眺めていたライカが口を挟んだ。


「ファビオ様、よい訓練になりそうですわ。レベッカの抜けた穴は私がなんとかしますので、レベッカに機会を与えて貰えないでしょうか?」

「ライカ殿がそう言われるのであれば。しかし、今更カラスごときで訓練にはならぬでしょう」

「街の中ですわよ? 良い訓練になりますわ」

()()()? ああ、なるほど、それは確かに要人警護の訓練にもなりそうですな」


 罠ではなく弓でとなると、街中で飛び道具を使うことになる。

 もちろん、安全に十分に配慮するのは大前提だが、それでも矢が逸れれば大変危険である。

 射線は限られる中で、動き回るカラスを撃ち落とすのは存外難しい。

 主に、外れれば誰かに当るかもしれないというプレッシャーの働きによって。


「ライカ、あんまり危ないことはさせないようにね」

「言うほど危険はありませんわよ?」


 と、レベッカに聞こえぬよう、小声でライカが答える。


「依頼が出るような場所なら、外れてもあまり支障がない場所でしょうし、矢も先端が丸い石のものを使わせますので、万が一当ってもまず刺さりませんわ」

「それでカラスが落とせるのか?」

「骨を砕くことになりますわね。すぐに落ちる矢ですので、そういう点でも安心ですわ」

「……それ、人に当ったら怪我はする威力ってことだから、安全面はしっかり考えてね?」

「ええ、もちろんです」

読んで頂きありがとうございます。

また、誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。

感想、評価などもモチベーションに直結しております。引き続き応援頂けますと幸いです。

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