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ツキヨ、オチルハナ、ヒカリ  作者: ゲンジー
1/10

始まり

「ふぅ…」


やっと今週のノルマが終わった。もう22時だ。今日の晩飯は…コンビニでいいか。さっさと帰る準備をしよう。


デスクの上にある資料をまとめて横に置き、カバンに荷物を詰めていく。いつもより帰りの準備をするのが早い。それもそのはず、今日は金曜日。


「土日は珍しく何もないしな。今日は遅くまで『あれ(・・)』やるか。あいつもやってるだろうし。」


会社を出てコンビニに寄り480円のカニクリームパスタといつものカフェオレを買い家に早足で帰る。


こんなに早足で帰るなんていつぶりだろうか。世の中なんてつまらないことだらけだと思っていた俺だったのに。こんなにも気持ちが高揚するなんて。俺もまだまだ若いな、とおっさんくさい言葉を心の中で発しながら家に入った。


一年前に専門学校を卒業してから今の会社に就職した俺、神無月卓(かんなづきすぐる)はごく普通の21歳の社会人だ。この不景気極まりないご時世の中で運良くホワイト企業に就職できた勝ち組だ。だが主人公特有の特別な能力もなければ、異世界に転生して世界を救うような運命も持ち合わせていない。まあ別に望んでもいないが。俺は今の生活に割と満足しているからな。


とにかく今は『あれ(・・)』だ。パジャマに着替え、ゆっくりとゲームチェアに座る。カフェオレにストローを挿しながらゲームを起動する。



「あいつ、どこにいるかな?」


いつものセントラルを歩き、相棒を探す。あのアホ毛は少し見て回れば簡単に見つかるだろう。…と思っていた矢先、セントラルの人ごみの中に一人のなんともかわいらしい金色のアホ毛を見かけた。俺はその小さい女の子の元へ駆け寄る。


「お前今日なんであんな早く帰れたんだ?まだノルマ大量に残ってただろ。」


「いやぁ?ちゃんとノルマは達成してるよ。まあちょっと、ね?『いつも』のだよ、『いつも』の。」


またか。相変わらずな人だ。


このかわいらしい女の子は『Sasha(サーシャ)』。145センチくらいの小柄な体格とは身の丈が合わないほどの大剣を背中に身に着けている。金髪碧眼(へきがん)、長いアホ毛が特徴の…胸は、まあ、小さいです。いわゆるロリ体型だ。


この容姿はリアルの人の性癖を詰め込んだと聞いたが…ほんとは男なんじゃないか、この人。最高だな。ん?中の人?まあそれはおいおい、ね?今気にすることではないよ。


「まぁた会社の同僚に媚び売ったのか。やるのはいいけど俺には絶対するなよ?俺は仕事引き受けるなんて馬鹿な真似しねーからな?」


「わかってるよ~。引き受けてくれそうな人を見極めているからね。」

と、ドヤ顔でこちらに顔を向けてくる。いや、自分の仕事は自分でこなせよ…と思う俺であった。



「んで、今日は何する?最近レベル上げばっかだったから久々にクエスト受けたいんだが。」


「そうだね~。私もさっき入ったばっかだから、クエストいこっか!」



俺とSashaはセントラルの中央に移動し、いろいろとクエストが貼ってある掲示板を眺める。


「手ごろなクエストは…っと。」


おっと、言い忘れていた。ここは本格MMORPG『La verdad(ラ ベルダード)』の世界。現実世界のある(・・)神話をもとに作られたゲームらしい。俺はこの手のゲームは今までやったことはなかったのだが、一か月前Sashaに誘われて(ほんとは中の人だが)始めてみたところ、どっぷりはまってしまった。



現在のレベルは18。ステータスもそこそこといったところ。まあ普通にゲームを楽しんでるユーザーの一人だ。Sashaはもっと前からこのゲームをやっていたこともあり、俺よりずっと強い。


今はSashaに手伝ってもらいながらレベル上げをしていたのだ。誘われた始めはオンラインゲームに興味などさらさらなかったが、今となってはゲームを勧めてくれたSashaに感謝している。正直楽しい。仕事してなかったらサービスが終了する瞬間までやり続けていると思う。


少し説明が長くなってしまったな。かわいい女の子のアングルに戻そう。


「ねぇ~!moon(ムーン)ったらちゃんと聞いてる~?」


「あぁ。ちゃんと聞いてるよ。このクエストにするか。」


そういえば言い忘れていたが、俺のプレイヤー名は自分の名字から『moon(ムーン)』にした。ありきたりだが悪くない名前だと思う。


「久しぶりのクエストだからなんだかワクワクしちゃうね!ほら早く行こうよ~!」


俺の手を引きながらSashaは元気にそう言う。そんなことを言われると心なしか俺の気分も高揚していく。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。少し装備を整えさせてくれよ。三日ぶりに入ったから整理ができてないんだ。」


「しょうがないなぁ。じゃあちょっとだけだよ?」

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