紅茶は美味しい。
ハンスに連れられて、アマリーは様々な花々で飾られた温室に入った。
そこにはお茶をする準備が整えられており、スタンリーがアマリーに一礼をするのが見えた。
「ハンス殿下。もういいでしょう。」
ルルドにハンスは肩を叩かれ、苦笑を浮かべるとアマリーを離した。
「残念だ。もう少し堪能したかったのだがな。」
先程から微かに腰に回っていた手が動いていた気がしていたが、勘違いではなかったのかとアマリーはため息をついた。
「ハンス殿下。いくら婚約者をいずれ紹介するとはいえ、あまり殿下が嫁入り前の令嬢に触れるべきではない。」
ルルドの言葉に、アマリーは優しいなと思っているとテイラーが微かに笑みを噛み殺しているのに気がついた。
「テイラー様、失礼ですわ。」
アマリーの言葉にテイラーは気づかれたとバツが悪そうに顔を歪ませた。
「す、すみません。」
「あとテイラー様?貴方のおかげで私は大変不名誉なあだ名がつけられたのですが、どう責任をとってくださるのですか?」
その言葉にテイラーは青ざめ、首を横に振りながら言った。
「も、申し訳ない。ですが、あの、どうか許して頂けませんか?」
「それは貴方様のお気持ち次第ですわ。」
ハンスはそれに笑い声を上げると言った。
「はは!テイラー?これは責任をとって立候補するか?」
何にとは言わないハンスの言葉にテイラーが目を丸くした時、ルルドが咳払いをして二人を睨みつけた。
「二人共、アマリー嬢に失礼だ。テイラーはアマリー嬢への詫びの品でも考えておけ。殿下、立ち話ではなんですので、座って、今後について話をすべきでは?」
ルルドの言葉にハンスは微かににやにやと笑みを浮かべながら頷いた。
「そうだな。では、席へ。スタンリー。」
呼ばれたスタンリーは礼をすると椅子を引き皆を座らせた後に紅茶の用意を始める。
入れられた紅茶からは爽やかな香りがして、アマリーは一口飲むと頬を綻ばせた。
ルルドはそれにつられるように笑みを浮かべた。
「爽やかな味わいでしょう?」
「ええ。気分が晴れますわ。」
ハンスは両手を上げると言った。
「参ったな予想以上だ。はぁ、アマリー嬢。それはルルドの好きな紅茶だ。三人の時は大抵紅茶の味が良く分かるルルドの好みに合わせられるんだ。」
その言葉を聞き、アマリーは嬉しくなった。
「ルルド様とは紅茶の趣味が合いますわ。」
「嬉しいことだ。」
氷の貴公子と呼ばれる由縁としては笑わない、冷たい印象があるからだ。
故にテイラーは思った。
今この目の前で微笑んでいるのは誰だ。
それはハンスも同様であり、ルルドのこんな姿は見たことがなく、驚きが隠せない。
だが、アマリーの言葉により現実へと引き戻された。
「ハンス殿下、それで、今後私はどうすればいいのですか?」
「あ、、あぁ。そうだな。では、これからだが、私は今月末にこの国の南部にあるウェルズ湖へと視察に行くのだが、そこへ一緒に行ってはくれないか?」
その言葉にアマリーはなるほどと頷いた。
「囮と言う事ですね?」
「そうだ。向こうも好機と思うだろう。どうだろうか?」
アマリーが頷こうとした時、ルルドが口を開いた。
「アマリー嬢、やはり危険ではないか?」
ハンスもテイラーもルルドを見てからアマリーに視線を移した。
何度も止めるチャンスをくれるルルドに苦笑しながらもアマリーはにこやかに頷いた。
「覚悟は決まっていますわ!私は行きます。」
ハンスは笑みを浮かべて頷き、ルルドは顔をしかめた。
「ならば、万全の護りを固めなければな。テイラーいいな?」
「ええ。もちろん。」
こうしてウェルズ湖への視察行きが決定した。