第七十七話
シェザンヌの横の椅子にテイラーへ腰かけると、静かにその顔を覗き込んだ。
「シェザンヌ、どうして泣いていたんだ?」
「えっと、、、。」
「本当の事を教えてくれ。」
真っ直ぐに見つめられ、シェザンヌは覚悟を決めたかのようにゆっくりと言った。
「テイラー。ハンス陛下の命令でも、断っていいのよ。」
その言葉に、テイラーは首をかしげると、シェザンヌの瞳から涙が溢れた。
「か、覚悟は出来ているの。私は、貴方の好みの子ではないし、だ、だから、無理に婚約しなくても。」
唇を噛むシェザンヌに、やっとテイラーはハンスに命令されて無理やり結婚してなどほしくないとシェザンヌが心を痛めていたのだと気づいた。
涙を溢れさせるシェザンヌの瞳は真っ赤で、ぷっくりした頬も赤くなっている。
テイラーは鞄から小包を取り出すと、シェザンヌの前に膝をつき、その掌の上に小包を乗せた。
「シェザンヌ。俺は、お前の事をずっと妹として見てきた。」
「知っているわ。だから、シェザンヌは。」
「いいから、聞け。」
「?」
「これから、俺は本気でお前と向き合う。俺は、今度の恋は、諦めるつもりはない。」
「へ?恋?」
「ふふ。あぁ。俺の可愛い小さな子豚は、いつの間にこんなに素敵な女の子になったんだかな。」
「え?でも、体重は、あんまり、、、。」
「いいんだよ。頑張り屋で、気分屋で、猪突猛進なシェザンヌが俺は好きだ。ほら、包み開けてみな。」
「え?え?え?」
動揺するシェザンヌの掌の上の包みのリボンをテイラーが取ると、可愛らしい指輪が入っていた。
「前に買い物の時、シェザンヌの王子様に、こんな指輪を貰いたいって言ってただろ?俺は王子様ってがらじゃないけど、、そのお前のことは大切にするから。」
「えぇ?!」
「俺の婚約者になってくれるか?」
シェザンヌは顔を真っ赤に染め上げると、無言で何度も何度もこくこくとうなずき続けた。
それを見てテイラーは笑い、そして指輪をシェザンヌの指に通した。
「よろしく頼むな。愛しい婚約者殿?」
からかうようにテイラーが言うと、シェザンヌは満面の笑みでテイラーに抱きついたのであった。




