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第七十六話

 ハンスは真剣な表情で机に肘をつき、口元に手を当てていた。


 その様子にテイラーは眉間にしわを寄せると尋ねた。


「どう、したんだ?」


 ハンスは大きく息を吐き、そして立ち上がると、両手をテイラーの肩に乗せた。


 その表情は真剣そのものであり、テイラーは何事かと息をのんだ。


 だが、次の瞬間の言葉に、思わず絶句してしまう。


「シェザンヌと、婚約する気は、ないか?」


 突然の言葉に、テイラーは何を言われたのかが一瞬わからず、もう一度聞き返した。


「ん?何て言った?」


「シェザンヌと、婚約する気はないかと聞いたんだ。」


 真剣なその言葉に、テイラーは視線を泳がせると眉間にしわを寄せた。


 テイラーはこのハンスという男が、他人の恋愛ごとに敏い方だとは思っていない。なので自分の気持ちに気づいているとは考えにくくだからこそ聞き返した。


「突然どうしたんだ?」


 ハンスは、勢いが肝心だと思ったのか、はっきりとした口調で勢いよく話し始めた。


「実は、これまでは黙っていたが、ずっと、ずっと小さな頃からシェザンヌからお前と結婚したいと、ずっと、ずっと言われ続けていた。だが、お前は私の友人でもある。だから、お前の気持ちは、、、その、無視はしたくないと思っていた。いや、言うな。お前がボンキュッボンが好きなことはずっと知っている。知っているんだが、、、だが、、、そのな。シェザンヌには、負い目があってだな、、、、その。頼む。お前ならばシェザンヌを幸せにしてやれると信じている!」


 あまりに突然の事ではあったが、テイラーは少し考えてから言った。


「俺はハンス陛下の護衛騎士であり、家は男爵家の次男で、爵位を持っていないが。」


「爵位は一度どこかの侯爵家にでも入ってもらう形になるだろう。その手筈も整っている。」


「ほお。、、、、、、、、、。」


 テイラーは口元に手をやると黙った。


 ハンスが恐る恐るその表情を伺うと、テイラーは顔を赤らめてにやにやと笑っていた。


「何だその顔は。」


「いや、その、なんでもない。」


 テイラーは息を吐くと、ハンスに言った。


「分かった。」


「え?シェザンヌとだぞ?その、、、お前いいのか?」


 テイラーはにっこりと笑うと言った。


「いい。はは!連れ去るかと一瞬考えていたんだ。連れ去る前にその話をしてくれて良かった。」


「あ?」


「話はそれだけでしょうか。陛下?」


「あ、あぁ。」


「では、失礼します。」


 テイラーはそう言うと、一度自分の部屋へと戻り着替え等を済ませ、荷物を持つと城下町で買い物を済ませてからまだ王城に数時間もたっていないと言うのに馬に跨り、レイスタン家へと急いで帰る事となった。


 夜のうちにも馬を走らせ、そして日が昇った頃にテイラーはレイスタン家へとついた。


 そして、その足で朝食を済ませたシェザンヌがいるとう庭へと向かった。


 だが、庭にいるシェザンヌを見た瞬間にテイラーは笑みを浮かべていた表情からすっと感情が引いた。


 シェザンヌの近くにいたエリックが何かを言った瞬間に、シェザンヌが突然泣き始めたのである。


 エリックがとても良い子であることは頭では分かっていた。だが、シェザンヌが泣き始めたのを見て頭にカッと血がのぼる。


 思わず走りだし、そして怖い顔のまま声をかければ、自分で思っていた以上に怒気の含んだ声が出てしまった。


「どうしんだ?!」


 エリックはビクリと肩を震わせてテイラーを振り替えると両手をあげて降参のポーズを取った。


「すみません。いや、その。」


 だが、今の会話の流れをテイラーに話していいものかと悩みエリックが言い淀むと、テイラーは眉間にシワを寄せた。


「ハッキリとは言えないことか?申し訳ないがエリック殿であろうと、シェザンヌを泣かせることは許せないんだか。」


 シェザンヌへ目を丸くすると涙を引っ込めてテイラーに言った。


「ち、違いますの。その、、、あの。」


 テイラーは首をかしげると、エリックは苦笑を浮かべながら言った。


「一度二人でじっくり話をする事をおすすめします。誓って僕はシェザンヌ嬢を泣かせてはいませんよ?どちらかと言えば泣かせたのはテイラー殿かと思います。では、失礼します。」


 そう言うと、にっこりと笑ってエリックは行ってしまった。


 残されたシェザンヌとテイラーの間に、なんとも言えない空気が流れた。





 


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