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身に染みる

 シェザンヌは毎日毎日体を動かして頑張るようになり、少しばかりは痩せたような気がする。だが、決してそれは急激な変化ではなく、なだらかな、ほんのわずかに変わった程度であった。


 それでも彼女の頑張りは見て取れたのだが、シェザンヌは急激な変化のない体に落胆している様子であった。


 テイラーはその様子を見ながら、少しばかり過保護に心配になっていた。


 シェザンヌの様子などの報告の為に一旦王城へと帰ったテイラーは、ハンスに向かって口調を崩しながら心配げに言った。


「なぁ、やはりあまり無理させない方がいいんじゃないか?」


 その言葉にハンスはちらりとテイラーを見やるとまた書類に目を戻して言った。


「シェザンヌがやる気ならばいいじゃないか。」


「けど、無理して体調が悪くなったらどうする。」


「お前、過保護過ぎないか。あと、私の名前を使ってシェザンヌに贈り物をするのはやめろ。私がまるでシェザンヌの事を猫かわいがりしているようではないか。」


「う。けど、俺が何度もプレゼントするわけにはいかないだろう。その、、、エリック殿の目もあるからな。」


「エリック?」


「アマリーの弟だ。最近すごくシェザンヌと仲がいい。」


 あえて語尾を強くしてハンスにテイラーはそう言うと、ハンスは書類から顔をぱっとあげて、眉間にしわを寄せた。


「仲がいい?」


「あぁ、とてもいい雰囲気だ。一緒に並んでいると、ふんわりしていて、何だか見ていて和む。」


「ほう。それは良いな。で?お前、もしかしてシェザンヌがエリックに好意を抱いているとでも思っているのか?」


 その言葉に、テイラーは少しばかり衝撃を受けた。


 そうは思っていても、口に出すのとないのとでは衝撃の具合が違う。


「そ、、、そうだ、、、な。」


「なんだその顔は。」


 ハンスは思わず大きくため息をついた。


 シェザンヌの気持ちをハンスは昔から知っている。


 小さな頃は三日に一度はテイラーとの婚姻を迫ってきていたシェザンヌである。だが、ハンスはそれを毎回きっちりと断りを入れた。


 地位が違い過ぎる。


 それ故に、そんな事を叶えられるはずもなく、いや、方法はあるにはあるが、テイラーがシェザンヌの事を妹として可愛がっているのは知っていたので、無理にそうすることなど考えていなかった。


 シェザンヌも、地位の違い自分の立場を知る年になってからはその事は一切言わなくなっていたので、ハンスも諦めたと思っていた。


 だが、ここに来て諦めたかと思っていたシェザンヌが息を吹き返したのである。


 あんなにもシェザンヌの王子様を早く見つけてくださいと言い張っていたシェザンヌが、手のひらを反してくるとは思ってもみなかった。


 だが、手紙にはしっかりと書かれていたのだ。


『シェザンヌは、今回の事はなかったことにして差し上げます。すごく辛かった事もありました。悲しくて涙を流したこともありました。シェザンヌの気持ち、お兄様は分かってくださいますよね?こんなかわいそうなシェザンヌの願い、たった一つの願い、叶えてくれないお兄様ではありませんよね?』


 脅しであった。


 だが、まだ願い事をしっかりと断言されてはいない。おそらく、シェザンヌも無理強いするつもりはないのだろう。だから痩せて自分を見てもらおうと必死になっているのだとハンスは思った。


 ハンスは大きくため息をついてテイラーを見た。


 今のところおそらくだが、テイラーは全くと言っていいほどにシェザンヌの気持ちに気が付いていない。そればかりかエリックとの仲を心配している。きっとエリックとの仲がうまくいかなかったときにシェザンヌが傷つくのではないかなどとお門違いな事を考えているに違いない。


 思う。


 テイラー、早く気付け。もし、願い事をはっきりと告げられてしまえば今回自分はシェザンヌの願い事を断れはしない負い目がある。


 だがそんな事にテイラーは気づかない。


 テイラーはそのため息に首を傾げると、カバンの中から小さな包みを出してハンスに差し出した。


「疲れているのか?ほら、お前の好きな菓子屋のクッキーだ。大丈夫か?無理はするなよ?」


 昔から自分の傍にいるからなのか、テイラーはハンスの事も良く分かっている。


 だから令嬢らからあらぬ疑いを掛けられるのだ。


 アメリアとの婚約が本当に決定づけられる前までは、テイラーは令嬢から本気でハンスの事を思っているのではないかと疑いを掛けられていた。


 なんでもハンスを見つめるテイラーの瞳が美しすぎるとのことだった。


 違うのだ。


 この男は昔から自分やシェザンヌについていたから心配性なのである。


 それを表向きはうまく隠しているから変な噂が立つ。


 だが、変な噂がたってもハンスはテイラーにそれをやめろとは言えなかった。なぜならば、シェザンヌと同じようにハンスにとってもそれが癒しになっていたからだ。


「ありがとう。」


 包みを受け取り、クッキーを一口食べれば甘さが身に染みる。


 この男はこうして気が利くからもてはするのだ。見た目重視なところもあって上手くいかない事もあったが、ハンスやシェザンヌの事をいつも大事にしているのでそれで振られることも多かった。


 一度は、デート当日にシェザンヌが寝込んだと言う知らせが入り、恋人にシェザンヌの見舞いに行くと告げるとそのまま振られたらしい。良かったのかと尋ねると、家族を大切にしない恋人はいらないとはっきりと言ってのけるテイラーに少しばかり感動したこともある。


 美しい女性にはすぐになびくし、恋多き男だが、恋愛している時は浮気はしない。


 だが、それでもいつも振られる。


 それが何故だかハンスには分からなかったが、その性格も理由の一つなのではないかと思った。


「あぁ、身に染みる。」


 変な噂は立つが、出来ればずっとそのままで傍にいてほしいとは思ってしまうハンスであった。

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