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始めたばかり

 シェザンヌは事前にテイラーから大体の内容を聞いていたのですんなりと事の顛末を飲み込むことが出来ていた。


 そして淡い期待を抱いた。


 自分が太っていたのは薬のせいだったのではないかと思ったのだが、それは大きな間違いであったことがアマリーと共にダイエットを始めてから悟った。


「や、、、痩せませんわ。」


 エリックとアマリーと一緒にお茶を飲みながら、悲しげにシェザンヌは呟いた。


 エリックはそんなシェザンヌを励ましながら言った。


「まだ、始めたばかりじゃないか。」


 アマリーも頷いた。


「まだそこまで日数もたっていませんし、これからですよ。」


「えぇ。そうですわね。でも、でも分かるのです。」


 瞳いっぱいに涙をためるシェザンヌにエリックは困ったように頭を掻くと、いつものようにテイラーが小さな包みを持って現れた。


「シェザンヌ、今日も運動を頑張ったって聞いたぞ。ほら、これ、ハンス陛下からお土産だ。」


 最近はテイラーはハンスからの土産と称しては小さな小物や花などをシェザンヌの頑張ったご褒美として持ってくるようになっていた。


 エリックもアマリーも、すぐに気分が落ちてしまうシェザンヌの気持ちをどうやって持ち上げればいいのか困っていたのでテイラーのこの差し入れには毎日感謝していた。


 シェザンヌはこの日もその包みを受け取ると目を輝かせた。


「テイラー!今日のこれは何ですの?」


「開けてみれば分かるだろう?」


「ふふふ。私の予想は、チョコレートですわ!」


「ダイエットするって言ったのはお前だろうに。」


 シェザンヌは楽しそうに包みを開けて目をぱっと輝かせた。


「これ!オルゴールですわね!」


 包みの中にあったのは、小さな箱型のオルゴールであり、蓋を開けると可愛らしいウサギが出てきて曲を奏でている。


 シェザンヌは瞳を輝かせており、それをテイラーはにっこりと笑ってみるとその頭を少し強めに撫でた。


「無理はするなよ。体調が第一だから、やめたくなったらやめろよ、、、って、ハンス陛下も言っていたからな。それじゃあ、俺は護衛に戻るから行くな。」


 そう言うとさっさとテイラーは護衛の仲間の元へと行ってしまったが、シェザンヌは嬉しそうにオルゴールとテイラーの背を見つめていた。


 エリックはお茶を一口飲むと、アマリーと目配せをした。


 アマリーもその目配せをして微笑ましげに頷いた。


 この数日間で、いや、エリックに至ってはアマリーらが居なかった数日間の間に悟っていた。


 だが、二人は何も言わずにそのまま二人を見守っている。


 その日の夕方、エリックは我慢しきれずにアマリーのいる書斎へと訪れると、アマリーの前でうなだれた。


「ねぇ、姉さん。僕はすごく何だか、甘酸っぱい。」


「あら奇遇ね。私も何だかすごく胸やけを起こしそうなの。」


 二人はにっこりとほほ笑みあうと、お互いに胸の内に秘めていたシェザンヌの様子について嵐のように語りだした。


「姉さん達がいない間、シェザンヌ嬢はすごく、すごーくやる気に満ちていたんだよ!これで我慢しなくて済むなんてことを言っていた!」


「あらそうなの?シェザンヌ様はとっても可愛らしいわ。本当に一途ね。もうあの目ときたら恋する乙女だもの!」


「うん!僕もそう思う。話に聞いたところによると、地位に差がありすぎるから諦めていたけれども今回の事でハンス陛下を説得してみせるって意気込んでいたよ!」


「まぁまぁ。ダイエットもきっとその為でしょうねぇ。」


「そうだろうねぇ。だってあの人の好みって、ボンキュッボンって聞いたよ。本当に?」


「ええ。そうらしいわ。でもねぇ、どうなのかしらねぇ?シェザンヌ様は絶対に好きっていうのが目に見えるけれども、、、、どうかしらねぇ。」


 するとエリックはにやりと笑った。


「でも、あのハンス陛下を言い訳にした様子からして、大切には思っているよね。」


「そりゃそうよ。一日に一回はシェザンヌ様の今日の様子や体調管理なんかを確かめるんだから、大切でしょうよ。まあそれが家族愛じゃないとは言い切れないところがあるけれど。」


 二人は白熱して話を続けて言っていた。


 一度話し始めると止まらなくなるのが恋愛話だ。


「ねぇ、エリックは少しくらいシェザンヌ様良いなって思わなかったの?」


 その言葉に、エリックは驚いたように目を丸くしていった。


「いや、可愛らしい方だけれど、僕とは合わないよ。だって、シェザンヌ様気分の浮き沈みは激しいし、僕にはその気持ちを上にあげてあげるのはすごく難しい。」


「そうなの?」


「そうだよ。数日一緒にいてすぐに分かったよ。ヒルデレートが居なくなった時なんて、朝からしくしく泣きじゃくって僕はどうしたらいいのか困惑してどうにもできなかったのに、、、テイラー様、ずっとシェザンヌ様の背をさすって、、、何も言ってはいなかったけど、、、僕、あ、この人はすごいなって思ったんだ。」


「へぇ、あのテイラー様が?」


「うん。シェザンヌ様もあれだけ大切にされていれば好きになるよ。」


 その時の事をエリックは思い出して苦笑を浮かべた。


 自分はその時何もできなかった。


 泣いているシェザンヌを励まそうとはしたが、何を話しかけてもただ泣きじゃくってどうしようもなくって、お手上げ状態だったのだ。


 それを、テイラーは何も言わず、シェザンヌの背をずっとさすり、ただ何度か頷きながら、シェザンヌの話を聞き続けていた。


 二人の間に見えない信頼と言うものがあるようで、こういう人と人とのかかわりもあるのだなとエリックは思った。


 しみじみと思っていたエリックを見てアマリーは紅茶を一口飲んで言った。


「でも、テイラー様は貴方とシェザンヌ様の仲を勘繰っているようよ。」


 エリックはそれを聞いて、初めてお茶と言うものを噴き出してしまうのであった。



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