シェザンヌの微笑み
シェザンヌは、アマリーそしてルルドに事の顛末を聞き、そしてはっきりとした口調で言った。
「シェザンヌはただの病気です。なので、ヒルデレートをすぐにこちらへ戻すようにハンスお兄様には手紙で伝えてあります。」
アマリーはその言葉に決意のようなものを感じ口をつぐむと、それを見たルルドは、アマリーに代わって尋ねた。
「シェザンヌ嬢はそれで、いいのか?」
するとシェザンヌはにっこりと笑って頷いた。
「はい。シェザンヌは、今まで生きてきた中で今が一番調子がいいです。それも喜ばしいですし、ハンスお兄様には一生に一度のお願いをいずれ聞いてもらう予定なので、いいのです。良い交渉材料が手に入りました。」
「交渉?」
ルルドとアマリーが顔を見合わせてからシェザンヌに視線を向けると、シェザンヌは可愛らしく微笑みを浮かべると言った。
「はい。今までは叶わぬ夢と諦めていましたが、今回の件でハンスお兄様はシェザンヌのお願いをきっと聞き入れる事でしょう。」
そう言うと、シェザンヌはふんす!っと意気込むとにっこりと笑った。
「なので、アマリー様にお願いでございます!シェザンヌに女磨きの方法を伝授して下さいまし!」
その意気込みように、アマリーは何を伝授すればいいのだろうと困惑するのであった。
ルルドはその日のうちに王城へと帰ることになり、アマリーとシェザンヌを残して行ってしまった。
少しばかりさみしいと思ったアマリーではあったが、シェザンヌはかなり意気込んでおり明日からはアマリーと一緒に体を動かしたり、食事方法について考えたりと頑張っていく予定である。
シェザンヌはかなりポッチャリしているので、アマリーは自分と重なりとても微笑ましく思っていた。
そんなアマリーが侍女らと共にシェザンヌのこれからのメニューについて考えていると、テイラーがアマリーの所へと顔を出した。
「あら、テイラー様はこちらに残ったのですね?」
「あぁ。シェザンヌの護衛だからな。」
「そうですか。それで、何かありまして?今はシェザンヌ様の護衛はしなくていいのですか?」
「今は他の護衛がついているんだ。それに、アマリーの弟のエリック殿もいるしな。」
何となく歯切れの悪いテイラーの言葉にアマリーは手を止めるとテイラーと向き合った。
「何か、ありましたの?」
テイラーは少しばかり視線を泳がせたのちに、アマリーに尋ねた。
「その、シェザンヌは六歳以前からも、、、そんなに体が強いわけではなかった。今回の件を抜きにしてもそんなに元々強い方ではないと思うんだ。だから、、、出来るだけ無理はさせないでくれないか。」
その言葉に、少しアマリーは驚いていた。
なんだかんだでシェザンヌの事をかなり心配しているのだという事が感じられて、少し微笑ましい気持ちになる。
「ふふ。元より無理をさせるつもりはありませんよ?」
「あ、あと。」
「はい?」
テイラーは少し言いにくそうに、おずおずとした口調で尋ねた。
「エリック殿は、、、その、婚約者がいなかった、よな?」
「え?ええ。」
「その、アマリー達がいない間、ずいぶんとエリック殿と仲が良くなったようで、、、その。」
言いにくそうにするテイラーに、アマリーは少し驚きながらも、テイラーがどちらの心境で物を申しているのか分からず表情を伺いながら言葉を返した。
「我が家はすでにルルド様と私との婚約が決まっていますし、その、あまり権力と言っては何ですが、そうしたものが我が家に集中するのもよくありませんから、シェザンヌ様とエリックの婚姻という話でしたら、心配なさらなくとも、、、少し難しいかと思いますが?」
「あ、いや、反対をしているわけではないのだ。シェザンヌはエリック殿と一緒だと楽しそうだし、もしそうなったらめでたい、、、めでたいんだが、、、。」
釈然としないテイラーの言葉にアマリーは首を傾げながらも、取り合えず、シェザンヌには無理をさせない事だけは約束をした。
その後テイラーは護衛に戻り、そしてアマリーは考えた。
シェザンヌの願い事とはなんだろうかと、少しわくわくとした気持ちになったのであった。




