茶番劇って必要ですか。
ハンスからの手紙には、しっかりと読むと第二王子であるオルトが先日の一見でアマリーに目を留めたことや、アマリー宛の招待状を入手しルルドに届けさせた事、そしてそこで自分とアマリーの仲を見せつける為にお茶会に出席して欲しいといった内容が書かれていた。
絶対に結婚相手を紹介してもらうのだとアマリーは意気込んでいた。
第二王子であるオルト主催のお茶会には、美しい令嬢、令息らが集まっており、賑わいを見せていた。
そこへアマリーはあくまでも優雅な様子で参加していた。
だが、はっきり言えば皆の突き刺すような視線が痛い。
『何であの方がいるの?』
『まぁ見苦しい。』
『第一王子の命を救ったとか。』
『ぶぶ。動ける、、デブだと?!ぶぶ!』
ちらほらと聞こえる罵詈雑言に、アマリーは聞こえないふりをしながらも、今日何十回目かの『動けるデブだと?!』というセリフにテイラーには何か要求しても良いのではないかと思い始めた。
何という流行語を生んでくれたのだと、恨みがましく思ってしまう。
それを言われる度に腸が煮えくり返るような思いを抱くが、表情はあくまでも優雅に笑みを称える。
その時であった。
第二王子オルトとその母エミリアーデが登場すると皆が拍手で出迎えた。
オルトは顔は整っているものの、狡猾な印象がありアマリーは好きにはなれなかった。
エミリアーデは金色の豊かな髪を結い上げ、その姿は女神のようであると言われている。そんな姿に皆が目を奪われる。
二人は各テーブルを回りながら、挨拶をして回っており、アマリーはもうすぐこちらに来るなと横目でさりげなく確認した時であった。
不意に背中に視線を感じ、振り返ると、庭の方からハンスとルルド、テイラーがこちらに歩いてくるのが見えた。
「やぁ、お茶会を楽しんでいるかい?」
爽やかな笑顔で現れたハンスに、皆が頭を下げて礼を取っていると胡散臭い笑みを携えてオルトとエミリアーデが前へ進み出た。
「兄上!どうしたのですか?」
「いやいや、愛しい弟と義母がお茶会を開いていると聞いてね、それに、、、ここにアマリーも来ていると聞いたものだから。アマリー、こちらへおいで。」
突然のご指名に、アマリーは必死で笑顔を作ろうと、『はい、喜んで~。』と、誰が行けるか!と内心ツッコミを入れていた。
周りにバレないように吐く息と共にため息をつくと、立ち上がり、物腰柔らかにカーテシーを行った。
そして、挨拶をしようとしたところでハンスが歩み寄り腰に手を回してきた。
アマリーは突然の事に、眉間にシワを寄せそうになる自分を押し込めて笑みを浮かべる。
「アマリー、君に会いたくて来てしまったよ。」
「殿下、お戯れはご容赦ください。」
「ふふ。マシュマロのように可愛らしいな。オルトよ。すまないがアマリーを連れて行ってもいいだろうか?」
オルトはハンスの奇行に顔をつくろうのも忘れて驚愕の表情を浮かべながら返事を返した。
「え?え、えぇ。アマリー嬢がいいのであれば。どうぞ、ごゆるりと。」
アマリーはよくなんかないと思いながらも、ぐっと腰を引かれてしまう。
「そうか。では、アマリー行こう。」
「、、、はい。殿下。」
なんなんだこの茶番劇はと内心思いながらも、アマリーはエミリアーデから放たれている殺気に背筋が寒くなった。
美しい笑みを湛えながらも、燃えるような殺気を放つ美女に、アマリーは女は怖いと心底思っていた。
その光景に、会場中がざわついたのは仕方のないことであろう。