匂い
森の中に入った途端に、バケツをひっくり返したような土砂降りとなり山もある事からがけ崩れなどに巻き込まれてはいけないと一旦その場で休憩をはさむこととなった。
轟々と唸るように地響きが聞こえ、アマリーは馬車の中で窓から外の様子を見つめた。
「すごい雨。」
馬車の中には、侍女が二人おり、外の様子を不安げに見つめている。
ルルドはもう一つの方の馬車にいるはずだが、もしかしたら今後どうするかを話し合っているのかもしれない。
この雨では、森の道もぬかるみ容易には進めなくなるであろう。
そう思った時であった。
雷鳴がとどろき、それに驚いた馬達が暴れるのが見えた。
「え?」
突然馬車に揺れを感じ、アマリーと二人の侍女は馬車にしがみついた。
「まさか!?」
アマリーは窓を開けると、雨をぬぐいながら前を見た。
すると、本来なら馭者が座っているべき場所に誰もいないのである。
何故誰もいないのかと疑問に思いながらも、今はこうしている場合ではない。
後ろから馬車を追いかけてくる馬の足音が聞こえるが、いつどうなるか分からない馬車の中でじっとしていることはアマリーには無理であった。
馬車の扉を開け、揺れの激しい中どうにかバランスを取り雨の中出ると、馭者の席へと移動した。
「アマリー様!」
侍女らが必死に叫ぶ声が聞こえる。
「貴方達は中にいて!」
アマリーは馬のたずなを引き、どうにか馬を落ち着けようとするが、まるで馬は何かに導かれるようにして走って行くのである。
「落ち着いて!止まって頂戴!」
馬は勢いよく走り続け、森を抜けていく。
後ろから馬のひづめの音が近づいて聞こえてきた。
ルルドがおってきてくれたのかとアマリーは振り返ると、雷雨の中必死に馬でかけてくるルルドの姿が見えた。
「ルルド様!」
「アマリー!」
次の瞬間雷鳴が轟き、爆音が聞こえたかと思うとゴゴゴゴゴという地を這うような音が響いた。
大雨の中、突然馬車が方向転換をしたかと思うとアマリーが最後に目にしたのはルルドが土砂の中へと巻き込まれていく姿であった。
「ルルド様!」
馬車はまるで意図して動いているかのように土砂をよけられる洞窟の中へと入ると、その中を進んでいく。
アマリーは馬車を飛び降りようかとも思ったが、侍女らを見捨てるわけにはいかない。
だが、次の瞬間意識が飛びそうになる。
「何、、、これ、、、。」
どこかで嗅いだことのある匂いが、意識を奪おうとする。
この匂いは、どこで、、、、そうだ。アレンド国でこの匂いを嗅いだことがある。
そこで、アマリーの意識は途切れた。




