雷鳴
フィニア国国王であるジン・フォン・フィニアはベイド・カーネリアンを王座から見下ろしながら大きくため息をついた。
それにベイド・カーネリアンの肩は震えた。
「それで?」
「え、、、えぇっとですね、あの、ですから、アマリー・レイスタンはこちらへと、、、その宰相殿と共にこちらへ、、、。」
手に持っていた扇子をパシリと音を立てて閉じてジンは妖艶な笑みを浮かべた。
「それは、分かっている。」
「で、ですから、アマリー・レイスタンをもちろん早く主様の前へと連れてきます。」
「あぁ。そうだね。私の可愛いエミリアーデを国王もろとも地へと落とした女だからね。それで、エミリアーデはいつこっちに帰ってくるの?」
「そ、それが、エミリアーデ様からは、こちらに帰る気はないと、、、。」
扇子がボキリと折れる音が部屋の中に響き渡った。
「はぁ、、、我が妹は我儘だなぁ。ダルフェリア王がエミリアーデの美しさに現をぬかしているのを見て、好機だと思い友好国の証として側妃として嫁がせたのが間違いだったか。息子を国王にしたてあげるのにも失敗したようだしねぇ。けれど、それでも可愛い妹だ。敵は取ってやらねばなるまい?」
ジンはそう言うとまたため息を落とした。
エミリアーデを使って国を乗っ取るかという思惑も上手くいかず、ベイドを使ってレイスタン領から国を傾けてやろうかと画策していたのも上手くいかず、ジンはため息しか出ない。
小国の外見の美しさにばかり拘るアレンド国の王子をたきつけても見たが、そちらも大きな被害を出すこともできなかった。
友好国という地位を築きながらも、どこかで国崩しが出来ないかと画策してみるが、どれもこれも上手くはいかない。
それになぜか大きく壁として立ちはだかるのが、アマリー・レイスタンというただの令嬢なのだから納得がいかない。
「はぁ、下手をすればこちらが崩されるか。そろそろ引き際かねぇ。」
そう言いつつも、すでにアマリーに興味を抱いている自分もいて、かたき討ちと称してちょっかいをだしている。
ジンは澄んだ湖のような瞳を細めると言った。
「さぁ、ベイド。頑張って連れてきてくれ。」
自分の肩にのしかかるプレッシャーに、ベイドは恭しく頭を下げながらも背筋が凍る思いであった。
「はい。すでにウィルターが動いている頃です。」
「あぁ。失敗は、もう許さないよ?」
「畏まりました。」
ベイドは、国境付近の森に潜伏する身長の低い小太りのウィルターと合流をすると大きくため息をつきながら言った。
「主様はかなりお怒りだ。」
「なら、失敗はできねぇなぁ。」
二人の男は崖の上に上ると、そこから見える隊列に視線を移した。
雷鳴が遠くから聞こえ、二人は笑みを浮かべた。
「天気は俺らに味方をしているが。」
「果たしてうまくいくかだな。」
笑みを浮かべた男二人は、稲妻が落ちる光景を静かに見つめた。




