乾杯
暗がりの宿に、酒を飲みかわす男の影が二つ。
一人は身長が高く、目鼻立ちがくっきりとした彫りの深い男で、もう一人は、小太りの中年の男であった。
どちらも一見しただけでは、ただの村人のように見える。
しかし、持ち物をよく見てみれば長身の男は薬師の持つ背負う籠を持っており、もう一人は違った形の薬箱を持っている様子であった。
「そっちはどうなっている?」
「あぁ、レイスタン領にはかなりの数の物を流したがもしかしたらばれてしまったかもしれない。」
「何だと?、、、まだばれたくはなかったのだがな。」
「領主の妻が視察にタイミングが悪く来てしまってな、そこでブツを直接目にしたようだ。」
「それだけでばれるか?」
「お前、レイスタン領の魔女を知らないのか?」
「何だそれ。」
「レイスタン領の領主の妻はな、薬学には相当詳しい、魔女ともいわれる女だ。元々レイスタン領は紅茶の生産や薬の生産が盛んだからな。」
「あー。聞いたことがある。そうか、、、しまったなぁ。紅茶も薬もこちらにとっては都合がいいと思っていたが、そんな人物がいるとなると、このまま騙すのは難しいか。」
「そうだな。恐らくはすでにばれている可能性の方が高いだろう。」
「分かった。あぁ、そう言えばもう一点。」
「なんだ?」
「エミリアーデが落ちてしまった今、公爵令嬢へ飲ませていたものは回収は出来たのか?」
「馬鹿言え。もうかなりの年数同じ物を渡し続けているんだ。侍女がすでに調合できるようになっているし、あれを回収するのは無理だ。」
「だが、それが発覚するとお前も動きにくいだろう?」
「あぁ。だからベイド・カーネリアンの名は捨てなければな。」
長身の男はそういうと大きくため息をついてから、酒を一気にあおった。
それを小太りの男は肩をすくめて見つめ、同じように酒を飲む。
「それで、主様は何と?」
「ばれる前に手を引けとは命令されている。」
「なるほどなぁ。」
「あぁ、あと手に入れてほしい娘がいると言っていたな。」
「ん?主様が女に興味が?エミリアーデ以外で?」
「何でも、エミリアーデを地へと落とす原因となった娘だそうだ。」
「あぁ、魔女の娘か。」
「なんだ。レイスタン家の娘なのか?」
「あぁ。名をアマリー・レイスタン。確か、宰相と婚約を果たしたそうだが。」
「なんと。あー。攫うのは一苦労だな。」
「ははっ。先日もそんな騒動があったそうだが、、、だが、主様が望むのだから仕方あるまい。にしても攫われてばかりだと芸がないか?」
「と言うと?」
「ふふふ。まぁ一興といこう。」
「ならば、レイスタン領を利用するか。恐らくだが、アマリー嬢も領の様子を気に掛けるだろう。」
「そうだぁ。まずは動向を見てからだな。」
「了解。」
男達はお互いに酒をグラスへと注ぎ合うとにやりと笑った。
「地獄に。」
「乾杯!」
飲み交わした酒は喉が焼けそうなほどに熱い酒であった。




