似合わないあだ名
エリックは、はっきり言ってルルドのアマリーを愛おしそうに見つめる姿に内心驚いていた。
もしもちょっとでもなよなよとした姿を見せたり、かっこ悪い所があればそこから崩しにかかろうと思っていたのだが、そんな隙はルルドにはない。
しかも、紅茶を飲む姿も、微笑む姿も、所作一つ一つが男として、かっこよく見えるのだ。
それにエリックはがっくりとしていた。
「エリック殿。」
声までかっこいいとか、ずるいとエリックは思った。
「何でしょうか?」
ルルドは笑みを浮かべると言った。
「キミは本当にアマリーに似ているな。」
「え?えっと、そうですか?」
「ああ。可愛い。あ、すまない。男には失礼だな。」
「ええ?いや、、、よく言われるので。」
そう。
エリックは可愛いと言われなれていた。
ポッチャリとしていながらも、愛想がよく、にこにこと笑っていると大抵皆に可愛いと褒めはやされてきた。
けれどエリックはそれが良い意味ばかりではないことは分かっていた。
『本当にふわふわの丸いパンのようで可愛いわ。』
『くまさんのようね。』
『あら、なら、貴方アタックしてみては?婚約者はいないと聞いたわ。』
『えぇ?いえ、彼は愛玩用ですよ。』
『ふふ。そうよねぇ。』
中には本当に自分を好ましく思い、お姉さま方から声をかけていただいたこともある。
だが、大抵は冷やかしだ。
愛玩用だなんだと陰で言われている事をエリック自身よく分かっていた。
ああ。この男もそんな事を思うのだろうなと思っていると、ルルドは嬉しそうに笑いながら言うのである。
「それに、アマリーに似て、キミも相当な運動神経の持ち主と聞いた。あと、勉学の方も優秀だとか。」
「え?」
「侯爵家もキミという世継ぎがいて安泰だな。」
真っ直ぐにそう言われ、エリックは内心驚いていた。
この男は、裏表なく言っているように感じられた。
「えっと、、そうでしょうか?」
婚約者の弟だからとおべっかを使っているのかと訝しむと、ルルドは楽しそうに言った。
「アマリーが自慢していた。だから私も、キミと会う事を楽しみにしていたんだ。」
真っ直ぐにそう言われ、エリックはなるほどと思った。
こうも純粋に、裏表なく話をさせることはめったにない。
そんな男を、アマリーは選んだのだ。
「僕は、、、姉が心配なんです。」
「ん?」
「姉も、僕も、、、見た目で損してきました。貴族社会は見目麗しい者が多い。それ故に、姉さんは特に嫌な目にあったはずだ。僕は、そんな姉さんにいつも守られてきました。だから、姉を悲しませる男とは婚約をしてほしくない。」
真っ直ぐにエリックがルルドを見ると、ルルドはその瞳をじっと見つめた。
「私はアマリーを悲しませることはしないが。キミは私が信じられないと?」
「ええ。だって貴方ならば引く手数多だ。姉さんでなければならない理由が分からない。」
その言葉に、ルルドは眉間にしわを寄せた。
「引く手数多、、、か。すまないが、それは恐らく違うだろう。」
「え?」
「私の表情筋はよく周りから死んでいると言われる。」
「は?」
間抜けな声の出てしまったエリックに、ルルドは至極真面目に答えた。
「大抵の令嬢は私と一時間話せば向こうから婚約など願い下げだと言われる。私は、一緒にいて楽しくもない相手に笑いかけることはできないし、興味ない話に相槌を打つこともない。」
「えぇ?でも、先ほどからにこやかだったではないですか。」
「それはキミがアマリーの弟だからだ。それだけで、なんだか申し訳ないが、キミが可愛く見えるのだ。弟がいると言うのは良い物だと、気が早いが思っている。」
その言葉にエリックは頭をポリポリと掻いた。
「私はね、アマリーを愛しているのだ。あの直向きな性格も、何事に対しても意欲的に取り組む姿勢も、時折自虐的になる姿すら、可愛いと思っている。」
これは、惚気だ。
エリックは話を聞いていて悟った。
これは、惚気である。
自分は姉の婚約者に、堂々と惚気られている。
それが分かった瞬間に、エリックは肩から力が抜けて笑いが込み上げてきた。
真面目な顔で、かっこいい声で、惚気ている。
そんな少し顔を赤らめる姿に、姉さんは、純粋に、好かれているのだとやっと信じることが出来た。
それが何だか面白くて、エリックは最終的には腹を抱えて笑っていた。
「ふふ。おかしいや。そんなにかっこいいのに!」
「かっこいい?そうだろうか。自分では結構女々しい男だと思っている。」
「そうなの?はは!よし、分かりました。ルルド義兄さん。」
「え?」
「取りあえずは、認めます。ただし、姉さんを不安にさせたり、情けない姿を見せたりしたら僕は全力で婚約を邪魔しますから。」
エリックのその言葉に、ルルドは瞳を輝かせた。
なんだかんだ言って、アマリーの弟に認めてもらえたことが嬉しくてたまらない。
「良かった!なんだ、嬉しいな!」
少しはしゃいだその様子に、氷の宰相とはまったくもって似合っていないあだ名だなと、エリックは思うのであった。




