有給届
ルルドは嬉しそうに微笑み、口を開いた。
アマリーは震える手でスプーンをゆっくりとルルドの口へと運んだ。
ぱくりとルルドは食べた瞬間に、嬉しそうにまた顔を笑みで染める。
それを見たメイドらは青天の霹靂であると後に語ったと言う。あの、氷の宰相と言われた男が、氷は溶け切りもはや温泉のように湯気が上がるほどにのぼせ上っているようであったと。
そしてそれと同時にメイドらは思った。
アマリー様、早く嫁いできてくださいませと。
「うまいな。アマリーが食べさせてくれるから、甘い。」
「る、ルルド様こそ、いつにもなく甘いです。」
その言葉に可愛らしくルルドが首を傾げるものだから、アマリーの心臓はまたもや射抜かれた。
「アマリー。まだ食べたい。」
「あ、はい。あーん。」
そう言ってから自分で赤面した。
いえ、何言っているの私。
恥ずかしさで死にそうになるが、ルルドの口は開いて待っているので口へと運ぶ。
それを生暖かな瞳でメイドらに見守られ、最後の一口を食べさせ終えるころにはアマリーは瀕死の状態であった。
「おいしかった。ありがとう。」
「いえ。、、、良かったです。」
もはや自分の方が倒れそうである。
「そう言えば、もうすぐアマリーの誕生日だな。何が欲しい?」
その言葉に、アマリーは目をぱちくりとさせ、くすりと笑った。
「ふふ。何もいりませんわ。ですが、どうしても何かと言うならば、その、、、ルルド様と一緒に過ごしたいです。」
アマリーの恥らいながら言ったその言葉に、ルルドは両手で顔を覆った。
「天使だ。」
「ルルド様?お加減が悪くなりましたの?」
心配してルルドの額へと熱を測ろうと手を伸ばしたアマリーの白い手をルルドは取ると、にっこりと笑った。
「もちろんだよ。その日は一日開けよう。」
アマリーはパッと顔を輝かせると言った。
「では、うちの領地へと来てくださいませんか?領地にいる母と弟にもルルド様を紹介したいのです。一日だと弾丸ではあるとは思うのですが。」
その言葉に、確かにとルルドは思った。
「そうだな。確かに父君には挨拶をさせてもらったが、母君と弟君には挨拶をしていなかった。ならば数日休みをもらおう。」
「本当ですか!二人は父に代わって領地を守ってくれていますからずっとご紹介したかったのです。」
「弟君は今回の社交界には参加しなかったのだな。」
「ええ。弟は今年十三ですから、十四歳から参加する予定ですの。」
「なるほど。では会えるのを楽しみにしていよう。」
「ふふ。弟もルルド様に早く会いたいとずっといっていたので良かったです。」
「ほう。」
「あの子ったら、何通も早くあわせてくれって手紙を送ってくるんですよ。よっぽど、会いたいのね。」
「ほう。」
何となく、ルルドはアマリーの思っているような義理の兄となる者を慕う感覚ではないと、悟った。
これは弟君ともよく話をしなければならないようだ。
ルルドはアマリーの手を握り、柔らかく微笑んだ。
「幸せだな。」
そんなルルドが幸せをかみしめている間、城ではルルドの仕事の割り振りが嵐のように行われていた。
そして、元気になったルルドが来て皆が感謝したのと同時に、有給届を出した姿を見て絶望に打ちひしがれた。




