衝撃!
執務室に衝撃が走った。
ハンスは眉間にしわを寄せると項垂れ、そして傍に控えていたテイラーに尋ねる。
「それは、本当か?」
テイラーも、神妙な顔でゆっくりと頷いた。
すると、執務室に来ていた幾人かの文官も息を飲むのが聞こえた。
ハンスは立ち上がると言った。
「これより作戦会議を立てる。テイラーはアマリーに知らせを。」
「はい!」
ハンスは額に手をあてて呟いた。
「まさか、、、、ルルドが風邪をひく、だと?っくそ。そんなのいつぶりだ。」
王城内には宰相が風邪を引いたと言う噂が瞬く間に広がり、そして文官らを震撼させた。
ルルドがいない間、どう仕事を回していくか。
ルルドの仕事は幅広すぎる。なので、それを事細かに出し合い、そして皆で仕事を割り振って行かなければ大変なことになる。
漏れがあってはいけない。
ハンスは頭を抱えた。
アマリーはテイラーからルルドが風邪をひいてしまったという連絡を受け、見舞いに行く旨の先駆けを出すと、急いで見舞いの品等を準備すると馬車を走らせた。
テイラーが言うには、ルルドが風邪をひくなんてことは数年ぶりらしく、城は震撼していると言っていた。
思わず、どれだけルルドに仕事をさせているのだろうかとアマリーは不安にも思った。
ルルドの屋敷へとつくと、執事にとてもにこやかに案内され、ルルドの私室へと向かう。
なんでもルルドにアマリーが来ることを伝えると、無理に着替えて客間へと行こうとしたそうなのだが、物の三分で撃沈しベッドに逆戻りをしたとのことであった。
「失礼いたしますね、ルルド様。」
部屋をノックし、執事に促されるままに部屋に入ったアマリーは、ベッドに歩み寄り、そして目を見開いた。
「アマリー?」
赤く上気した頬、薄らと開いた瞳は潤んでおり、その汗をかいた首元は何とも艶めかしい。
思わず傍にいたメイドらに視線を向けると、すっと反らされた。
アマリーは意を決してルルドに声をかけた。
「はい。ルルド様。アマリーです。大丈夫ですか?」
ルルドは体を起き上がらせ、アマリーは大丈夫なのかと心配したが、嬉しそうに微笑むものだから止めることが出来なかった。
「起きて大丈夫ですの?」
「すまない。なさけない姿を見せたな。だが、こうしてアマリーが来てくれたのだから、許してくれ。」
懇願するように、いつもよりも色気が駄々漏れでそう言われ、アマリーは顔を赤く染めた。
「いえ、あ、果物と、果物をすりつぶしたものを準備していますの。よろしければお食べになりますか?」
「あぁ。アマリーが持ってきてくれたものなら入りそうだ。食べよう。」
それを聞いてメイドらは目を丸くした。
朝から、何も食べたくないと駄々をこねていた人とは思えない。
アマリーは持ってきた物を準備し、皿に盛り付けるとスプーンを手に持った。
するとルルドが嬉しそうに目を細めて言った。
「食べさせてくれるのか?」
アマリーはドキリとした。いや、確かに病人はいたわらねばならない。
そう。だが、アマリーにも羞恥はあり食べさせるという行為は少しばかり、いや、かなり恥ずかしい。
けれど期待に満ち満ちているルルドの瞳を、裏切ることはアマリーには出来ない。




