自虐は自衛のための手段です。
数日後の事であった。
アマリーの屋敷の前にとても質の良い馬車が止まりルルド公爵の訪問がアマリーに知らされた。
どうやら先駆けの手紙は届いていたようだが、父は仕事に出てしまい、伝え忘れたのだろうとアマリーは考えると慌てて身支度を整えて応接室へと向かった。
アマリーが部屋に入ると、ルルドは立ち上がり一礼をしてきた。
その所作は美しく、令嬢の間では氷の貴公子と呼ばれるのに納得がいった。
「先触れは出していたのだが、申し訳ない。」
「いえ、こちらの手違いですので。本日はどうなさったのですか?」
アマリーが腰を下ろすと、ルルドも座り、そして小さくため息を付きながら言った。
「ハンス殿下から、手紙だ。」
そう言って手渡された手紙をアマリーは受け取ると、訝しげに思いながらも開いた。
中は第二王子主催のお茶会の招待状が入っており、出席してほしい旨が認められていた。
「お茶会はエスコートは不要のものだ。アマリー嬢、本当に殿下を手伝うつもりか?」
何故そんな事を改めて聞くのかとアマリーは眉間にシワを寄せると頷いた。
「ええ。私は自衛できますし、それに婚約者を紹介していただけるのは、とても、とてもありがたいことです。」
もはやそれにすがる他ないとアマリーは考えているくらいである。
だが、ルルドは不満そうにため息をついた。
それにアマリーは少しばかりバカにされているような気がしてルルドを見つめた。
だが、ルルドから返ってきた言葉は、アマリーの予想の斜め上のものであった。
「アマリー嬢。貴方は令嬢だ。レディが、あまり危険な事をするのは、気が気では無いのだ。」
「は?」
「心配だと言っている。嫁入り前の若い娘が危険に身を晒して怪我でもしたらどうする。」
「え?」
「今からでも考え直したらどうだ?結婚相手くらい、そんな危険を冒さずとも見つかるだろう?」
思いがけず、こちらを気遣うルルドの言葉に、アマリーは目を丸くした。
最初はその表情から、無謀なことをしようするアマリーを諌めるのかと思っていた。だが、どうやら自分の事を素直に心配してくれているらしい事に気づいたアマリーは、固まってしまう。
「アマリー嬢。怪我をするのが心配なのだ。どうだろうか。」
少しずつ、顔が、火照ってくるのをアマリーは感じた。
純粋な心配に、アマリーは不慣れだった。
ダンは、アマリーの事を心配した事などなかったし、セバスとは危険な事を稽古で散々している。父親は確かに心配するが、少しばかり状況が違う。
氷の貴公子と呼ばれるルルド公爵が、自分の身を純粋に心配してくれている、という事実がとてつもなく恥ずかしくなる。
自分はそんなやわな女ではない。
心配されるようなか弱く細く、美しい令嬢でもない。
なので、つい自虐に走ってしまう。
「わ、、私はこんなに肉がついてますし、怪我をしても損なうような美貌もないので大丈夫です。」
「何を言っている?見た目など関係ないだろう?」
「い、いや。見た目は重要でしょう。こんな、デブ。怪我したところで誰も、、、」
そこで机をパン、と、小さく叩かれてアマリーは顔を上げた。
するとルルドは真っ直ぐにアマリーを見つめていた。
その瞳を見て、アマリーは心臓が煩くなるのを感じた。