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煙幕


 男はルルドの言葉に声を荒げて言った。


「お前の眼は節穴か!?」


 ルルドはその言葉に目を細めると、馬から軽やかに飛び降り、アマリーを庇うようにその前へと立つと言った。


「失礼な奴だな。節穴とはどういう事だ。アマリーは女神だろう?」


 真面目な顔でルルドが再度そう言うものだから、アマリーは顔から火を噴きそうなほど恥ずかしかった。


「ルルド様やめてくださいませ。」


 ルルドはアマリーの言葉にも首を傾げてしまう。


 男は呆れたように溜め息をつくと言った。


「はぁ。でもまぁ、興味は湧いた。これほどまでに強い令嬢は初めてだ。」


 男がそう言い、品定めするかのような視線をアマリーに送る。


 ルルドはその言葉と視線に、男に向かって剣を振り下ろした。


 男は慌ててひょいと避けると声を上げた。


「不意打ちか!その上焼きもちか!」


「誰かは知らんが、アマリーが魅力的な女性であることは仕方がない。だが、私の婚約者を変な目で見るのは気に食わん!」


「おお。怖い怖い。アマリー。この男は嫉妬深いぞ。本当にこの男でいいのか?俺の所へ来い。大切にしてやるぞ?」


 次の瞬間、ルルドの鋭い剣が男の眼前をかすめ、男は身をひるがえすとルルドと距離を取った。


 ルルドの表情は消えており、冷たく冷めた瞳で男を見据えると言った。


「ほう。死にたいらしいな。」


「氷の宰相復活か?」


 睨みあいが続いた時であった。狼の遠吠えが何処からともなく響いて聞こえ、男は目を細めた。


 そして、残念そうに肩をすくめるとアマリーにキスを投げ、にこりと笑った。


「また会おうアマリー。」


 ハンスや騎士らにすでに回りを囲まれているのにも関わらず男は余裕そうな雰囲気であり、ハンスは言った。


「もう会うことはないだろう。お前は捕まるのだから。」


 男は両手をあげると楽しそうに言葉を返す。


「それはごめんだな。アメリア嬢は兄の土産に出来ず残念。後少しだったんだがね。」


「残念だったな。」


「本当に。」


 ハンスと男の間にも火花が散った時だった。


 がさり、と、木の葉を踏む音がした。


 次の瞬間、煙幕が張られると同時に木々の影から次々に狼達が姿を表し、騎士らに襲いかかっていく。


 ルルドは三匹の狼に襲われ、アマリーも狼を一匹凪ぎ払った時であった。


 殺気をまとわない何かが迫ってきたと気配では分かったが、敵味方の判断が出来ず一歩出遅れた。


 腕を引かれ、強引にアマリーは眼前に何かを吹き付けられる。慌ててその何かを拭ったが、遅かった。


 それと同時に、やられた、という思いが頭を走り、次の瞬間には目が眩む。


 体から力が抜け、男に担がれるのが分かる。


「アマリー!!」


 ルルドの叫ぶ声が聞こえた。


 ハンスが男に向かって剣を振りかざし、腕に傷を負わせるが、男はそれでもアマリーを離さず、煙幕の中に姿を消す。


「アマリー!!」


 煙は広がり、そして晴れた頃にはそこにアマリーの姿も、男の姿も無かった。




 





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