女神
アメリアは必死になって馬を操り駆けた。
森を抜け、そして見覚えのある土地であると気づいたアメリアは急いで一番近い貴族の屋敷を目指して走っていく。
あたりは暗く、月明かりがなければ馬を走らせるのさえ難しかったであろう。
どれほどの時間が経ったのであろうか。
感覚がおかしくなっているのを自分でも感じ、どれほどの時間が経ったのかが分からない。
そんな中、煌々と明かりのついた屋敷が目に入り、アメリアは門番の所へと駆けた。
「助けて!助けて下さい!」
外へ控えていた門番にアメリアは叫ぶようにしてそう言うと、門番は目を丸くして驚き、落ちるようにして馬から降りたアメリアを支えると一人が中へと走って行く。
息を切らすアメリアは必死になって叫んだ。
「わた、、私は公爵家令嬢アメリア=バッフォンドです。どうか、お助け下さい!」
「アメリア!」
アメリアは自分の名を呼ぶその人に目を丸くして、そして瞳いっぱいに涙をためると手を伸ばした。
「ハンス!」
小さな頃のように名を呼ばれたハンスは、アメリアの手を取ると引き寄せ、きつく抱きしめた。
「アメリア、よく無事で。」
アメリアはハンスの胸の中で涙を流しながら声を上げた。
「わ、、私をアマリーが逃がしてくれたのです。ハンス、どうか、アマリーを助けて!」
その声に、ハンスは力強くうなずくと言った。
「もちろんだ。場所は分かるか?」
「ええ。私の記憶力の良さは知っているでしょう?」
「あぁ。だが、また怖い場所へとキミに案内してもらわねばならない。大丈夫か?」
「貴方が一緒なら。」
「もちろんだ。キミを必ず守ると誓う。」
ハンスは馬にまたがるとアメリアを引き上げ、自分の前へと座らせると小隊を率いて夜の闇の中を走り始めた。
すぐ横で馬を操るルルドの形相はまるで鬼のようであり、アマリーへの思いが感じられた。
森を抜け、そして道を風のように走り抜けていく。
アメリアは逃げるときに目印として覚えてきた物らを確かめながら案内をする。
早く、早くと思いが募る。
どれほどの時間が経ったのかが分からず、だからこそ不安になる。
アマリーは大丈夫だろうか。
お願い。お願い無事でいて!
アメリアは瞳からとめどなく涙を流しながら必死にそれをぬぐった。
そして、鋼の音が聞こえ皆が息を飲む。
ルルドは二人乗りで少し遅いハンスとアメリアの馬を追い越すと、音のする方へと駆け、そしてその様子を見て愛しい者の名を呼んだ。
「アマリー!」
灯りの中で剣を操るアマリーはまるで戦神のように勇ましく見えたが、ルルドにとっては愛しい婚約者である。
地面に幾人もの者たちを打倒していてもそれは変わらない。
「ルルド様!」
だが一瞬の隙、アマリーへと男の剣が振り下ろされそうになり、ルルドは馬を跳ねさせるとその男へと切りかかった。
男はルルドの剣を受けると、地面に転がり、そして服の合間から鋭い視線でルルドを睨みつける。
「私の婚約者に刃を向けるとは、死をもって償え。」
男はその言葉に怒鳴り声を上げた。
「周りをよく見てみろ!お前の婚約者は戦神か何かか!?」
「女神だ!」
一瞬、場がシンとなり、アマリーは顔を真っ赤に染めた。




