弱肉強食
馬車に揺られてどれくらいの時間が経ったであろうか。あれから何度か外の様子を伺ってはいるものの、逃げ出す機会のないまま時間だけが過ぎていった。
そして、馬車が止まるのが分かり、アマリーはアメリアをかばうようにして立つと、短剣は隠し相手の出方を伺う事とした。
がちゃりと扉が開き、そこに現れたのは緑の民族衣装を身にまとった幾人かの人で、その中でも特に豪華で生地のよさそうな衣装に身を包んだ顔を隠した男が声を発した。
「突然、このように連れ去ってしまい申し訳ない。まずは、外で話をしよう。」
こちらに危害を加えるつもりはないようで、殺気も感じられず、アマリーとアメリアはゆっくりと馬車から降りた。
外はすでに日が暮れ、夕闇が辺りを覆っていた。
そこはどこかの庭園のようで、灯りが至る所に灯され、庭にお茶会の準備がされている。
二人はお茶会の席に着くと、相手の出方を伺った。
「アメリア嬢、それと、すまない美しい人よ。貴方の名前も教えていただけるだろうか。」
「アマリー・レイスタンと申します。」
「そうか。アマリー嬢。アメリア嬢。今日は突然申し訳ない。」
「ここはどこなのですか。アメリア様を一体どうするつもりです。」
アマリーがそう言うと、その男は柔らかな口調で言った。
「アメリア嬢は我が兄が欲していてな。国へ連れて帰るつもりだ。」
その言葉にアマリーもアメリアも目を丸くした。
「な、何をバカな。」
「アメリア様はハンス陛下の妃候補ですよ!?」
すると男は小首を傾げて言った。
「候補だろう?それに、兄の妻になった方が幸せになれるだろう。そもそも貴方達は誘拐される所だった。だから俺達が救って、そのついでに、国へ連れて帰ろうとしている。ダメか?」
「ダメに決まっています!」
アマリーがそう叫ぶと、男は手をすっとアマリーの頬へと伸ばした。
「あぁ、美しい人、どうか怒らないで。我が国は弱肉強食が罷り通る国。故に、貴方達の国の決まり事は通用しない。」
男の言葉にアマリーは狂気を感じ、立ち上がると言った。
「弱肉強食とおっしゃいましたね。ならば、私達はここで帰らせてもらいます。」
「ふふ。どうやって?」
アマリーは短剣を取り出すとアメリアの腕を引き、後ろへとかばうと言った。
「もちろん、戦ってですよ。」
その言葉に男は大きな笑い声を上げると、周りが驚き、目を丸くした。
「王弟殿下が笑っていらっしゃる。」
「まさか。」
そんな声が聞こえ、アマリーは苦笑を浮かべた。
なんと余裕な事か。
アマリーは必死に最善を考えていた。
意表をつくとしたらこの余裕を持っている今しかない。
目で全体を把握したアマリーはアメリアに小さな声で言った。
「自分の身を優先して下さい。」
「アマリー?」
アマリーはアメリアの腕を引き馬の方へと走った。
男達は余裕を持っているのだろう。
ただの令嬢達が逃げられるわけがないと高をくくっているのが分かる。
「アメリア様乗ってください!」
日頃よりアメリアが乗馬を嗜んでいたことを知っていたアマリーは、アメリアが乗ったのを確認すると馬の尻を叩いた。
「アマリー?!」
アメリアは叫び、アマリーも声を上げた。
「逃げてください!いいですか、貴方様はいずれこの国を支えるお方。決して迷ってはいけません!」
「アマリー!」
アメリアは必死で考えるが、アマリーの声が頭をよぎる。
だからこそ、振り返らずに手綱を握った。
その様子にさすがに焦りを見せた男達は、アマリーに向かって迫り、残っている馬に乗ってアメリアを追おうと考えた。
だが、それを許すアマリーではない。
短剣を構え、アマリーはにこりと笑った。
「馬をこんな近くに、しかも一か所に繋いでおくなんて、なんてバカなのかしら。」
その言葉に男達は眉間にしわを寄せる。
先ほどの男も一歩前に出ると剣を構えて言った。
「アマリー嬢。怪我をさせたくない。さあ、そこをどけ。」
「弱肉強食なのでしょう?」
アマリーは次の瞬間、馬達に向かって剣を振りかざし、繋がれていた縄を切ると馬達を逃がしていく。
その様子に流石に慌て男達はアマリーに襲い掛かった。
「待て!美しい人を傷つける、、わけ、、、には。」
男の言葉はしりすぼみに消えていく。
それはそうだ。
アマリーは襲い掛かってきた男達を次々に打倒していった。
あまりの強さに、男は驚きのあまり言葉を失った。




