運動着は快適です。
屋敷に帰ったアマリーは、疲労感からその日はすぐに湯浴みを済ませて眠ってしまった。
次の日、起きるとすぐに父に呼び出された。部屋に向かい、入ると、朝から疲れた顔をしている父がそこにはいた。
少し疲れていても、妙に色っぽさを感じる父親に、何故この遺伝を受け継いでいないのだと、嘆きたくなる。
「昨日は、大変だったようだな。大体の概要は聞いている。まぁ、座りなさい。」
「え、、、はい。」
おずおずと頷き、父の前に腰掛ける。
紅茶を飲みながら父は静かな口調で続けた。
「殿下のお命を救うとは、大したものだ。」
「は、はい。」
「しかし、ダンは失禁したとか。」
「っぶ、、、は、、はい。」
ダンとの婚約破棄の旨を了承した事をアマリーに伝えた父は、心配げにアマリーを見つめると言った。
「あんな軟弱なものは元よりお前には似合わなかったのだよ。」
父の言葉に、アマリーは頷いた時であった。部屋をノックする音が響き、執事が一通の手紙を運んでくる。
それを受け取ると、一瞬父は眉間にシワを寄せ、そして手紙を読むと黙り込んだ。
しばらく経ってからやっと、ふむ、と一言言うと、アマリーを見た。
「よし、アマリー。頑張りなさい。」
「え?えぇ。はい。」
手紙にはなんと書いてあったのだろうと思ったが、父はそれ以上、何も言わなかったので、アマリーは部屋に下がる事となった。
部屋に帰ったアマリーは、大きくため息をつくと、ドレスを脱いで運動着へと着替えを済ませた。
6歳の頃から特注しているアマリーの運動着は侍女らに好評だったのでプレゼントをすると皆が喜んでくれた。
上下に分かれており、上は少し可愛らしくも通気性のいいゆったりとしたシャツ。下は男性用のズボンよりもゆったりとしており、腰にはゴムが入っている。
アマリーは気合を入れると庭に出てセバスを探した。
セバスはいつものように庭仕事をしており、声をかけると優しげに笑顔でアマリーを迎えた。
「アマリーお嬢様。今日はいつになくお顔が怖いですぞ?」
アマリーはデプンとお腹を揺らして腕を組むと、セバスに言った。
「セバスがどこかの厳つい剣帝様と間違えられているのよ!酷いわよね?セバスは優しいおじいちゃんなのに!」
それを聞いたセバスの瞳は一瞬アマリーの見ていない隙にするどく光る。
だが、それは瞬きの間に消えて優しい口調で言った。
「そんな話があるのですかい。お嬢様には迷惑をかけましたかなぁ?」
「そんなこと無いわ!ちゃんとセバスは心優しい庭師よって伝えておくからね?」
「ありがとうございます。わしも、釘をさしときますわい。さぁ、お嬢様。今日の鍛錬をしましょう。」
「ええ!体を動かしてなんとも言えない心のもやもやを払いたいの。」
「では、厳しめに行きますぞ?」
「望むところだわ!」
そう言うと、アマリーは嬉々として準備運動から始めるのであった。
それを屋敷から眺めていたアマリーの父は、ため息を付いた。
「セバスはまたアマリーを強くして、、隠居して庭師をしたいと言うからうちに来ますか?って誘ったのに、アマリーが6歳の頃からほとんど庭仕事してないじゃないか。」
執事は苦笑を浮かべながら紅茶を入れ直した。
「アマリー様の天賦の才は本物だとこの前言っておられましたよ?」
「わしの可愛いアマリーは何でもできるからなぁ。」
愛娘を溺愛する父はそう言うと楽しそうにアマリーの稽古を見つめるのであった。