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甘い空間

 アマリーは甘い空間の中心にいた。


 おかしい。


 ここは楽しいお茶会の会場のはずだった。


 なのに、おかしい。


 甘い空間。


 目の前のお菓子たちはとても魅力的で、甘い匂いも、可愛らしい色使いもときめきを覚える。


 けれどおかしい。


 本来ならば、私は関係がないはずだ。


 私は、私は緩和剤にはなれない。


「アマリー?ほら、お口を開けて。このチョコレートのケーキもとっても美味しいわ。はい、あーん。」


 アメリアから差し出されたフォークに乗ったチョコレートケーキを、私はじっと見つめる。


 可愛らしい顔で、アメリア様が”ん?”と、小首を傾げて私が食べるのを待っている。


 そんな可愛らしい顔でお願いされれば、口を開かずにはいられない。


 口を開くと、そこにすかさずアメリア様がフォークを運び入れる。


「おいしいでしょう?」


 咀嚼し、口の中にチョコレートの甘みと香りが広がる。


「はい。おいしいです。」


「アマリー。ほら、今度はこっちを食べてみろ。こっちも美味しいぞ。」


「え?」


「ほら、あーん。」


 そう言って反対側から私にショートケーキの乗ったフォークを差し出してこられるのはハンス陛下であり、私は慌てる。


 ダメだと言いたい。


 けれど何故かわくわくとした表情でアメリア様からの視線を受け、うぅっと声を漏らしながら口を開けた。


 口の中に入ったショートケーキはまろやかでいて生クリームの濃い味が口いっぱいに広がる。


「おいしいか?」


「はい。おいしゅうございます。」


 そう言うと、二人はとても嬉しそうに甘いお顔でにこりと微笑まれます。


 おかしいです。


 こんなはずではなかった。


 最初は、アメリア様もハンス陛下もぎこちない様子でお茶会の席につかれて会話もぎこちない様子だったのに、どうしてこうなったのでしょうか。


「何故かしら。アマリーに食べさせるのが、とても楽しいわ。」


「私もだ。何故だろうか。」


 そんな事で意気投合してほしくはなかったのだが、横に控えていたテイラーはぷぷぷっとずっと笑いをこらえており、恨みがましく視線を向けると、にっこりと笑みを返されてため息が漏れた。


「お二人とも、私はここにおりますので、庭のお花でも見てこられてはどうでしょう?そろそろ、お二人で、お話をされるべきですわ。」


 くぎを刺すようにしてそう言うと、二人は一瞬またぎこちなくなるが、ハンスが先に立ち上がるとアメリアに手を差だし、エスコートをし、庭の方へと歩いて行った。


 そんな様子にテイラーは苦笑を漏らす。


「テイラー様は行かなくてよろしいので?」


「ああ。ここには護衛がたくさんいるから大丈夫だよ。アマリー嬢、ありがとう。」


 テイラーに頭を下げられ、アマリーは驚いた。


「やめてください。私は何もしていませんわ。」


「いや、アマリー嬢のおかげだ。あの二人はね、似た者同士なんだよ。だから、アマリー嬢がいてくれたおかげでだいぶ雰囲気が柔らかくなった。」


 頭を上げると二人に視線を向け、微笑むテイラーに、アマリーは無粋だと思いながらも尋ねた。


「よろしいのですか?」


 その言葉に、テイラーは苦笑を浮かべると言った。


「ずっと、俺はこの光景が見たかったんだ。小さな頃から一緒にいるから、お互いを思っているのは分かっていた。なのに上手くいかないのがじれったくてね。」


 アマリーはテイラーが嬉しそうに、でもどこか寂しそうに二人を見つめている姿から視線をそらした。


「ご自分の気持ちは、よろしいのですか?」


「いいのいいの。俺は、二人の幸せを見守るのが務め。」


「まあ、ここで決着がつけば、テイラー様も次へ進めますわね。まぁ、次こそは見た目ではなく、ちゃんと内面まで見れる男になってくださいまし。」


「はは。アマリー嬢は本当に素敵な女性だね。俺だって、あの人にさえ惚れてなければ、あの人の面影ばかりを追う事もなかったと思うんだけどね。」


「いえ。まさか動けるデブか!という名言は忘れませんわよ。いい話風にまとめないでくださいませ。」


「あー!黒歴史だ。本当に申し訳ない。もう、すまなかった!謝るから許してくれ!」


「おほほ。許せないことも、ありましてよ。」


 おどけて言うアマリーに、テイラーは心の中で礼を言った。


 多分、ここにアマリーが居なかったら、柱の陰で泣いていたかもしれない。


 女々しい男だと自覚している。


 それでも、堪えられないほどに、一人の女性をここまで愛おしく思っていた。


 二人を祝うことに嘘偽りはない。


 それでも。


「アマリー嬢、ありがとう。こんなクズな男にも優しいキミはなんて素敵な女性なのだろうか。過去の自分をぶん殴ってやりたいよ。」


「ほう。人の婚約者を口説こうと言うのか?よし、そこに直れ。私が殴ってやろう。」


 背後から殺気を感じ、テイラーは振り返ると同時にルルドに背負い投げをされ、地面にたたきつけられた。


「ぷぎゃー!って、、、おいルルド。友人にこれは酷いのではないかと思うが。」


 わざと投げられたのだろう。しっかりと受け身を取ったテイラーはすぐに体を起こすと、服についたほこりを払った。


「この程度で済んだことを感謝するべきでは?」


「はいはい。申し訳ございませんでした。」


 テイラーはそういうとにっこりと歯を見せて笑った。


「その代り良いことを一つ教えて差し上げましょう。」


 アマリーは嫌な予感がして眉間にしわを寄せてテイラーを見た。


「アメリア様とハンス陛下に”あーん”してもらうアマリー嬢はとても可愛かった。」


「ほう。そこに座れ。殴ってやろう。」


「ご勘弁を!ではこれで失礼!」


 そういうとそそくさとテイラーはアメリアとハンスの方へと逃げてしまい、アマリーは苦笑を浮かべた。


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