女の戦い
アマリーはお茶会が始まってしばらくたった後に、内心かなり驚いていた。
令嬢らの熱はすさまじく、ハンスに少しでも覚えてもらおうと躍起になっているのが目に見えた。
どの令嬢も美しさはぴか一であり、アマリーはああも美しければ引く手あまただろうにと内心思いながらも、それでもハンスの妻になりたいと思うのかと、その考えがいまいち分からずにいた。
そして、もう一つアマリーを驚かせることがあった。
「ルルド様。ルルド様はご趣味はありますの?」
「あ、わたくしも聞きたいですわ。」
「ふふ。皆様そのようにルルド様に話をしては、困ってしまいますわよ。ねぇ。」
ルルドとアマリーが婚約関係になったという事は広がっているはずなのにもかかわらず、令嬢方はハンスと話をした後、脈がないと悟るや否やルルドにシフトチェンジしてきたのである。
これは、女の戦いが必要かと、アマリーが思った時であった。
ルルドに腰を引かれ、膝の上へとアマリーは乗せられてしまい顔を真っ赤に染めた。
「まっ!」
「なんと。」
「まぁまぁ。」
令嬢方は目を丸くしてアマリーとルルドに視線を向ける。
アマリーは顔を真っ赤に染めてルルドを見上げると言った。
「ルルド様!恥ずかしいです。あの、下ろして下さいませ。」
そんなアマリーを見て、ルルドは優しげに微笑みを浮かべると、その頬を指先でなぞって言った。
「煩わしい話を聞きたくなくてな。それに、愛しのアマリーが妬いてくれるなら見たいが、悲しげな表情を浮かべるのは見たくはないからな。」
クスリと笑われ、アマリーはうつむくと、ゆっくりとルルドをもう一度見上げて言った。
「いじわるです。」
「そうか?」
「はい。」
砂糖よりも甘い雰囲気が漂い始め、令嬢方は顔を引きつらせると、一人、また一人と席を立っていく。
そして周りに誰もいなくなるとルルドは大きくため息をついた。
「はぁ。」
「皆様、すごかったですね。」
「ああ。アマリーにも嫌な思いをさせてすまない。」
「いえ、ルルド様が素敵なのは、分かっていますから。」
アマリーがそう言うと、ルルドは小さく息を漏らしてからアマリーの額に口づけを落とした。
「頼むから、俺の理性を試さないでくれ。」
「ひゃあ。」
ルルドはにっこりと笑うとアマリーの頭をぽんぽんと撫でた。
「ふふ。続きはまた後でな。少し陛下と話をしてくるから、アマリーは用意されている菓子でも食べていなさい。」
「は、、、はい。」
ルルドの背中を見送り、アマリーは周りに誰もいないことをいいことに、だらしなく椅子にもたれた。
「はぁ、、、心臓に悪い。」
そうアマリーが呟いた時であった。
アマリーが視線を令嬢方に向けると、一人のすらりとした長身の令嬢と目が合い、アマリーはあわてて姿勢を正した。
令嬢はクスリと笑みを浮かべると、アマリーの方へとやってきた。
「ごきげんよう。アマリー様。」
アマリーはその令嬢の事をよく知っていた。
バッフォンド公爵家の長女であり、才女であると有名なアメリア=バッフォンドであった。
豊かなブロンドの髪の毛は太陽の光を反射して輝き、そのアメジストのような美しい瞳は澄んでいて、同性であるアマリーもドキドキとしてしまうほど美しい。
「ご、ごきげんよう。アメリア様。」
数は少ないが会話は何度かしたことがある、だが、二人きりと言うのは初めてであった。
「ここに座ってもよろしくて?」
「あ、はい。どうぞ。」
優秀な執事らが二人に新しい紅茶を用意すると、豊かな香りが広がった。
「あら、こちらのテーブルだけ紅茶が違いますのね。」
「え?そうなのですか?」
「ええ。あぁ、ルルド様が先ほどまでこちらにいましたものね。」
「へ?」
「あの人、昔から紅茶には煩いもの。ふふ、でも今日はアマリー様とお話しできてうれしいですわ。」
アマリーはルルドとアメリアが知り合いだったことに驚いたが、アメリアの嬉しそうな微笑みに思わず自分も笑みを返していた。
「あの、アメリア様は、ハンス陛下の所へ行かなくてよろしいのですか?」
すると、アメリアは美しく微笑むと扇子で口を隠してコロコロと笑いながら言った。
「ふふ、皆様が行かれているから大丈夫ですわ。」
そんな事はないだろうとアマリーは思った。
この会場内で最も妃の座に近いのはアメリアだろう。
教養も、人脈も、後ろ盾もアメリア以上の者はここにはいない。
それは他の令嬢だって分かっていたし、それでもハンスに見初められればという甘い期待をしているのが分かった。
ハンスもアメリアに何度となく視線を向けてはまるで助けを求めるかのような熱い視線を向けている。
「あの、よろしいのですか?」
アマリーがおずおずと尋ねると、アメリアはハンスを一瞥してからため息をついた。
「私、恋愛結婚が良いのです。」
「は?」
アマリーはアメリアの言葉に思わず目を丸くした。




