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見る目

 エミリアーデの狂気をはらんだ目がアマリーを睨みつけていた。


「お前のせいで、、、お前の、、、」


 ぶつぶつとそう呟いたエミリアーデはナイフを振りかざしアマリーに狙いを定めて振り下ろす。


 アマリーはそれを軽やかによけながら、エミリアーデを見つめていた。


 はっきり言って、素人が幾人かかってこようがアマリーの敵ではない。


 エミリアーデの乱心に、その場にいた者たちは皆が驚き目を見開いて見入ってしまっている。


「憎らしい。」


 そう言うエミリアーデに、アマリーは思った。


 他人を憎んでいなければこの人はもう立っていられないのだ。


 拠り所であり、自分の唯一の希望であった第二王子がもう傍にはいない。


 それがきっとエミリアーデを狂気に走らせたのだろう。


 ハンスの指示ですでに騎士らが周りを取り囲んでいる。そしてアマリーをかばうようにルルドが前に立つとエミリアーデのナイフを掴んだ。


 ルルドは決して取り乱すことなく、静かな口調で告げた。


「エミリアーデ様。お話を伺いますので、別室へと行きましょう。」


 その横にはテイラーも立ち、エミリアーデの肩を支えると、騎士らと共に別室へと移動していった。


 ハンスは皆に聞こえるように声を上げた。


「さあ、今宵は仮面舞踏会。ここで誰が、何があったかは詮索無用。では、今宵の仮面舞踏会をお楽しみください。」


 元々会場に招待されているのはハンスが見極めて呼んだ者たちのみ。


 会場の人々が静かに悟った。


 世代の交代が来たのだと。


 


 アマリーはルルドに連れられて別室へと移ると、ソファに促され、飲み物を手渡された。


 その部屋には国王と、エミリアーデもいる。


 テイラーはエミリアーデが何かしようとしたとしてもすぐに防げるようにとその横に待機しており、その正面に会場を部下に任せて現れたハンスが座った。


「父上。今回の件、どうなさいますか?」


 笑みを携えてハンスがそう尋ねると、国王はエミリアーデに視線をちらりと移した。


「わしが、踊り子などに手を出したからエミリアーデは怒ったのだろう?そのなんだ。そこまで大事にはしなくてもよいのではないか?」


「ほう。父上の目は腐っておりますね。本当にそう思っているのですか?」


「何を!父をバカにするか!」


 アマリーは内心ひやひやとしながらその光景を見つめていた。


 だが次の一言に、心臓が止まるかと思った。


「分かりました。父上がそうおっしゃるならばそうなのでしょう。では、こうしましょう。エミリアーデは父上を愛するあまりに踊り子に嫉妬し罪を犯そうとした。父上はそれにたいそう心を痛められ、エミリアーデと共に隠居し、私に王位を譲った。それでよろしいですね?」


 国王は見る見るうちに顔を真っ赤にすると怒鳴り声をあげた。


「ななな!何をバカなことを!」


 ハンスはにこやかに答えた。


「ええ。バカでした。父を信じ、ここまで貴方を自由にさせてきましたが、妃の事すらまともに見れていないとは。それで、エミリアーデ。貴方はそれでいいか?」


 憤慨する国王を無視してハンスがそう尋ねると、エミリアーデはにこりと微笑みを浮かべた。


「この馬鹿な人を一緒に追い落とせるなら、少しだけすっきりするわ。」


 その言葉に国王は目を丸くした。


 エミリアーデはころころと笑い声をかわいらしく上げた。


「あー。本当に腹立たしい子ねぇ。お前さえいなければ、私の可愛い息子が王になれるはずだったのに。それに、踊り子なんていやしい姿にまでなって逃げおおせたその娘が憎たらしいわ。」


 エミリアーデはアマリーにそう言うと、また笑い声をあげた。


「ふふ。傾国の乙女ですって。外見しか見ない男は本当に馬鹿ねぇ。だから、私のような女を娶るのよ。ハンス。貴方はどうかしら?ふふ。あはははは!」


 狂ったように笑い出すエミリアーデを、国王は顔から色を失い、見つめていた。


 ハンスは息をつくと、声を上げた。


「二人を連れて行け。」


 騎士らはうなだれる国王と笑い続けるエミリアーデを連れて外へと出て行った。


 すでに王位に即く準備は整っている。ハンスはこれをきっかけとする事を事前に決めていた。そして万事うまくいった。


 アマリーはやっと終わったのだということに、大きく息を吐くと飲み物に口をつけた時であった。


 テイラーがにこにことしながらアマリーの横に腰掛けた。


「美しい人。ご無事で本当に良かった。」


 突然のテイラーの言葉に、アマリーは困惑しながら眉間にしわを寄せると、反対側にハンスが腰掛けて言った。


「テイラー。職務中じゃないか?」


「あ!殿下。抜け駆けするのはなしです。」


「わきまえろ。それで、美しい舞姫。お名前を教えていただいてもいいですか?本当ならば、舞台にはアマリーが立つはずだったと思うのだが、どうしたのかな?」


 ハンスとテイラーをアマリーは交互に見つめた後に、すっとルルドに視線を向けると、ルルドにアマリーは手を差し伸べられてそれを取った。


 ルルドはアマリーを自らの横に立たせると、ハンスとテイラーに言った。


「お前らの目はどうなっている?アマリーが困っているだろう。」


 その言葉に、ハンスとテイラーは目を見張った。






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