愛しさ
初めてアマリーを知ったのは今からだいぶ前になる。
次期宰相になるのだと両親から厳しい教育を言い渡され、教師陣らもそれはそれは力をいれて教えてくれた。
そんな中でも、ロッテンマインとエルドラドはこの国の賢者とも称えられるほどの二人であり、ルルドに人一倍厳しく、教育を施した。
そんな二人は、ルルドがへこたれそうになる時に必ず言うのだ。
「貴方よりも小さなレディが剣帝であるセバス・チャンの元で頑張っているのですよ。アマリー嬢はとても賢く、あなたと同じように教えても、すんなりと飲み込むのです。ですからあなたにもできるはずです。」
そう言われるたびに、ルルドはアマリーとは一体どんな令嬢なのか気になっていった。
この二人相手に、一度もへこたれずに頑張るという少女にルルドは尊敬の心を抱いた。
そして、社交に出るようになってからはアマリーを見つけては話しかけようか悩んだ。だが、自分のそばにはいつも王子がいる。王子を社交の場で一人にするのは、猛獣の中に餌を投げ込むようなものだ。
ルルドは令嬢方が一生懸命に着飾って頑張る姿に感心しながらも、なぜかいつもアマリーを目で追いかけていた。
婚約者がいると知っていたし、同じ師を持った者として少なからず仲間意識のようなものを持っていた。
そんな日の事であった。
ハンスとテイラーが馬鹿げた茶番を考え付き実行に移した。
後始末はいつも自分がしなければならないのにと溜め息をついてしまう。
その時であった。
アマリーの姿が目に写り、アマリーが自身から渦中に飛び込んだのである。
さすがはセバス・チャンに稽古をつけてもらっているだけあって、体が身軽で動きにきれがある。
ルルドは素直に感心した。
だが、その後の展開には頭を痛める事となる。
いくらアマリーが強かろうと、アマリーは女性である。
そんな彼女を危険な事に巻き込むのはルルドは本当は嫌であった。
アマリーが拐われたと知った後、見つけた時にはもう二度と離すものかと思いさえした。
そして、アマリーが婚約破棄をしていた事を知り歓喜している自分に、やっと、自分がアマリーを愛しく思っているのだと気付いた。
会場で美しく踊るアマリーを見つめながら、ルルドは自身のなかに嫉妬を初めて感じた。
こんな感情初めてである。
「美しいなぁ。我が父が鼻の下を伸ばしている。」
ハンスがそう言う。
「いいなぁ。綺麗な人だ。仕事が終わったら声をかけてみたいなぁ。」
テイラーは先日好きだった女性に「貴方は私の外側しか見ていない。」と振られたそうで新しい恋を見つけようとしている。
会場内の視線がアマリーに集まり、その美しい姿に釘付けになっている。
そう思うと、嫉妬心が沸き上がる。
だが、それと同時に思うのだ。
アマリーほどの人がこれまで視線を集めなかった方がおかしいのだと。
きっとアマリーにはたくさんの男性が求愛するだろう。
ルルドは唇を噛んだ。
それでも、自分を選んでほしいと、ルルドは願ってしまった。




