隅っこで婚約破棄は酷いと思う。
こんにちは。かのんです。
今回はポチャッ娘が活躍する物語です。
ゆるふわ設定ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
きらびやかな舞踏会の会場では、オーケストラが優雅に曲を奏でる。
そんな舞踏会の隅っこで、侯爵令嬢アマリー・レイスタンは婚約者であった侯爵令息ダン・オーレンに静かに婚約破棄を言い渡された。
「アマリー嬢、君とは婚約破棄をする。」
「ダン様?…え?え?何故突然そのような事を?」
「また、太っただろう?」
ダンの言葉にアマリーの心臓はドキリ跳ねた。
「そ、、そんな事は、、、。」
「いや。太った。アマリー。俺は、、もう嫌なんだよ。」
「何がですの?」
「ポチャッ娘の婚約者!そう皆に言われるんだよ!もう、もう耐えられない!俺が好きなのはか細くて可愛い子なんだ!だから、婚約破棄させてもらう。父上には了解をもらった。それじゃあな。」
「えぇー?!ダン様!お待ちになって、ダン様!」
アマリーとダンの婚約は、確かに政略結婚というより、年も近く、地位も近いということで、自然とそうした流れになって決められたものだった。
だが、こんな事があるだろうか!
普通、婚約破棄と言えば盛大に皆の前で断罪するかのようにされるはずである。
だが、現実はどうだ?
アマリーはあたりを見回した。
人はちらほら。こちらに注意を向ける人もちらほら、そして、会場の隅っこ。
ダン様!何故こんな隅っこで婚約破棄をしたの?!アマリーは嘆くに嘆けないこの隅っこで、静かに手に持っていたワインを一口飲んだ。
こんな事ってない。
涙が出そうになったが、こんな隅っこで泣きたくないと、アマリーはテラスへと移動すると、小さく啜り泣いた。
ダンの事が好きだったわけではない。けれど、ずっとこれまで一緒に大きくなってきたダンに、最後の最後になってポチャッ娘と呼ばれた事は、アマリーは少なからずショックを受けた。
アマリーだって、別に好きで太っているわけではない。
食事だって、食べているのは普通の量だ。
おやつだって、馬鹿食いすることはない。少しは食べるが、それでも普通の令嬢よりは少ない。
だが、太っているのだ。
ポチャッとしている。
しかも身長が低い分、なんだかポチャッとデプンとして見えるのだ。
けれど、これはアマリーのせいではない。
運動だって普通の令嬢より、いや普通の令息よりもしている。
だが、太る。
もうこれは体質としか言いようがない。
アマリーはテラスで吠えた。
「私だって好きで太っているわけじゃないわよ!」
その時であった。
突然突風が吹き、目の前に全身黒ずくめの仮面の男性が現れ、アマリーは目を丸くした。
男性は、アマリーを一瞥すると、ふっと笑いを漏らしてから舞踏会の会場へと入っていった。
アマリーは明らかな不審者に目を丸くして思わず後を追うと、男性は一直線に王子であるハンスの方へと向かっていく。
明らかな不審者にアマリーはその体の肉を揺らしながら走った。
王子の目の前にダンの姿が見える。
そして、仮面の男は剣を引き抜いた。
「不審者よ!ダン様!」
ダンは、アマリーの声に反応するとその男を見て目をまるくすると剣を引き抜き構えた。
しかし、一瞬のうちにダンの剣は弾かれてしまい、剣は宙に舞い、ダンは尻もちをついた。
ハンス王子は目をまるくすると自身の剣を引き抜き構えたが、男の剣が振り上げられる。
アマリーは机を踏み台にすると飛び、空中でダンの弾かれた剣を取ると男に投げつけた。
男の手元に剣はあたり、男は血を流すとアマリーを振り返り目を丸くした。
「まさか、、、動けるデブだと?」
アマリーの顔はみるみるうちに赤くなり、何故不審者にまで馬鹿にされなければならないのだと怒気を顕にした。
「黙りなさい!」
男は、身を翻すと一直線に窓へと走り抜け、ガラスを突き破って暗闇へと消えていった。
アマリーはその背を見送り、ふとダンへと視線を向けた。するとダンは失禁していて、あ、婚約破棄していて良かったと、悲しみが薄れた。
読んでいただき感謝でしたぁ。