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パン粉 台本集

Police of everyone

作者: パン粉

「Police of everyone」作:パン粉


◯警官 20代。四人の中では一番まとも。ツッコミ役。たまにボケる。子供っぽいところがあるが、警官の仕事に誇りを持っている。銃の腕はかなり良い。

◯強盗(兄) 17歳。孤児院育ち。中学校卒業後に就職。しかしすぐにクビになり職を転々としている。数々の修羅場をくぐってきたから強い。頭は良い方。名前を呼ばれると発狂する。

◯銀行員(妹) 16歳。境遇については兄と同じ。考える前に行動する派。精神年齢が低い。

◯犯人 20代くらい。すごく貧乏。言葉遣いが悪い。よくある一般人が中二病をこじらせちゃった感じの人。弱い。


 照明 銀行

 警官が強盗に銃を突きつけている。端には手と口を縛られている銀行員がいる。


警官「ようやく降伏する気になったか、この強盗が!」

強盗「くっ‥‥!」

警官「さあ、今すぐそのナイフを捨てろ」

強盗「…………」

警官「聞こえなかったのか? 早くそのカッターナイフを床に置くんだ」

強盗「……やだね」

警官「は!? お前、今の自分の状況わかってるか?」

強盗「わかってるけどさ、なんで警察なんかに命令されなきゃいけないんだよ?」

警官「あのな……。俺は警察官。お前は強盗。そしてお前は追い詰められている。ならいうことを聞くのは当然だろ?」

強盗「それだ。それが意味わかんないんだって。だってお前のやってることって脅迫だろ? つまり、法に背いてるんじゃないのか?」

警官「なっ……に?」

強盗「銃を突きつけていうことを聞かせる。それってまさに強盗のやることじゃないか」

警官「ま、まさか、俺としたことが……」

強盗「そうだ、お前のしていることは犯罪だ! 自分の都合のいいようにしたいから、相手の命をもてあそんでいるんだ!」

警官「(頭を抱えて)あぁぁ! なんという事だ! 法を守る警察官が、なんてことを!」

強盗「(その隙に逃げようとする)」

銀行員「ムームー!」

警官「(ハッとして)待て、止まらなければうつ」

強盗「クソッ」

警官「相手が悪かったな。俺を動揺させようとしても無駄だ。俺にその手は通用しない!」

強盗「思いっきり動揺してたくせに……! いいのか? お前のやっていることは」

警官「無駄だ。お前の嘘は通用しない」

強盗「なぜそう言い切れる?」

警官「なぜなら……これは水鉄砲だからだ!」

強盗「何……だと」

警官「信じていないのか? そら、くらえ!」


 警官、引き金を引く。強盗は水をかけられる。


強盗「ちょ、冷たっ! やめろ、やめろって! スーツこれしかないんだから!」

警官「え? あ、すまん」

強盗「まったく、最近の若者は気遣いがなってないな」

警官「……(水鉄砲発射)」

強盗「うわっ! やめろやめろ! 履歴書が濡れるだろ!」

警官「履歴書?」

強盗「そうだよ! (履歴書を取り出す)うわぁ、インク滲んでるよ……」


 強盗落ち込む。銀行員がムームーと唸る。


警官「……なんか、すまん」

強盗「……」

警官「ホントすまん」

強盗「……もういいし。なっちゃったものは仕方ないからな」

警官「そうか、よかった」

強盗「その代わり」

警官「……その代わり?」

強盗「俺を逃がしてくれ」


 強盗、言い放つと逃げようとする。警官、水鉄砲発射する。


強盗「ぬわっ! おいやめろ!」

警官「逃がすわけないだろ。バカかお前」

強盗「くそう。俺は履歴書が欲しかっただけなのに」


 強盗、くしゃみをする。


強盗「スーツもびしょびしょじゃねぇか……。おい、どうしてくれるんだよ!」

警官「自業自得だ」

銀行員「ムー!」

強盗「これじゃ逃げられねぇ。やべぇな……」

警官「ふっ、さぁ降伏しろ」

強盗「やだね」

銀行員「ムームー!」

警官「なんだ、うるさいな。じゃなくてどうした?」

銀行員「ムー!」

強盗「んだようっせぇな」

銀行員「ムーーーーーーーー!」

強盗「おい、とってやれよ」

警官「お前が言うか!? まあ、いいけど」


 警官、銀行員の口と手を縛ってるひもを取る。


警官「ほら」

銀行員「ありがとうございま……うわっ!」


 銀行員、わざとこけたふりをして警官を突き飛ばす。警官倒れる。


警官「痛っ!」


 銀行員、素早く警官の耳と目をふさぐ。


銀行員「奥に私のパーカーがありますからそれを!」

強盗「おう、助かった!」


 強盗、警官の前を通り上手へとはける。

 銀行員、警官から離れる。


警官「あ! おい待て!」

銀行員「す、すいません、私のせいで」

警官「くっ、まあ、君はここで」

銀行員「すみませんー! 申し訳ありませんーー!」

警官「お、落ち着け」

銀行員「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません」

警官「落ち着け、いや、ほんと落ち着け」

銀行員「すいませんーーーー! (言いながら警官を突き飛ばす)」

警官「うわっ!」


 強盗、走って上手から下手へ。パーカー着用。


強盗「さらばだ!」

警官「なっ、待て!」


 警官、強盗を逃がしてしまう。銀行員、こっそりガッツポーズ。


警官「くそ、逃がしたか」

銀行員「えーっと、あのー」

警官「ああ、気にしなくていいよ。じゃあ俺はこれで」

銀行員「あ、待ってください」

警官「何?」

銀行員「床、掃除していってください」

警官「…………了解」


 暗転。

 明転。下手から警官が出てくる。


声「中央管理局から各局へ。〇〇駅前で強盗が発生。犯人は一人。十代後半の男性で服装は黒のスーツを着用」

警官「了解しました。こちら11番、今から向かいます」


 警官、拳銃の確認をする。


警官「強盗……駅前で? まさかな」


 暗転。

 明転。強盗が紙束を持って周囲を見渡している。


強盗「ふぅ……、ようやく負けたか。ったく、ほんとあいつらしつこいよな」


 強盗、上手から走ってきた警官とぶつかる。強盗、紙束を落とす。


警官「痛っ! す、すみません。って!」

強盗「お、お前! ってああ! 履歴書が!」


 強盗、紙束を拾おうとする。警官、水鉄砲を突きつける。


警官「動くな」

強盗「くっ。だが、それからは水しか出ないことはわかっている!」

警官「甘いな。水ではないぞ」

強盗「何?」


 警官、引き金を引く。


強盗「熱っ! 何これ熱っ!? はっ、お湯か!」

警官「その通り」

強盗「まさかその手があったとは……。……というか、て、熱くないのかよ?」

警官「熱いに決まってるだろう」

強盗「……おい」


 強盗、うなだれる。


強盗「ああ!? 履歴書が!?」

警官「またか。お前、その大量の履歴書どうするつもりだよ?」

強盗「は? そんなの企業に提出するために決まってるだろ」

警官「そんなにいるか?」

強盗「いるんだよ! 前回の分はもう使い切っちゃったんだよ!」

警官「え?」

強盗「悪いか! 11枚、全部送って全滅だよ! 悪いか!」

警官「ぜ、全滅……」

強盗「そうだよ!」

警官「まさかお前……フリーターなのか」

強盗「ぬぁああ! 悪いか! どうせ無職だよ!」

警官「いや。ってか、全滅とか逆にすげぇな、尊敬するわ」

強盗「……ぐすっ」

警官「な、泣くなよ。今のは俺の言い方が悪かった」

強盗「…………」

警官「元気出せって。ほら、飴やるから。って子供じゃないしいらないか」

強盗「いる!」

警官「子供か!?」

強盗「子供だし。あ、警官さん、おにぎりとか持ってない?」

警官「持ってない。なんでそんなに馴れ馴れしいの?」

強盗「えー」


 強盗、あぐらをかく。警官、水鉄砲をしまう。


警官「なんだよお前……意味分かんない。お前さ、どうしたいんだよ?」

強盗「あーー、後で」

警官「は?」


 強盗、下手の方を見る。


強盗「あ、来た」

警官「何が?」

銀行員「はぁ、はぁ、お待たせ兄さん。……け、警察!?」

警官「ん? あ、君! この前の銀行員!」

銀行員「なんでここに……。兄さん、しくじった?」

強盗「そんなわけないだろ」

銀行員「じゃあ、なんで……?」

強盗「とりあえず落ち着け。そして話を聞け」


 強盗(兄)と銀行員(妹)はコソコソと話す。


兄「あいつ、バカだから協力者になってもらえるかもしれないぞ」

妹「え! 本当!?」

兄「ああ、マジだ、マジ」

妹「警察が協力者……ということは!」

兄、妹「ついにフリーター生活から抜け出せる!」


 間


警官「……お前らどういう関係?」

兄「あ? ただの兄妹だけど」

妹「どこからどう見ても普通の兄妹でしょ」

警官「普通じゃないって思うのは俺だけか……?」

兄「で、だ。警察って困ってる人を助けるのが仕事だろ?」

警官「そうだけど?」

妹「なら、私たちのことも助けてよ!」

警官「……うん、待て、まずは話を聞かせろ」


 間


警官「で?」

兄「そんな複雑じゃない。ただ、俺たちは金がないから仕事がほしいだけだ」

警官「ふぅん、仕事ね。そんな切羽詰まることでもないと思うけど」

兄「ちゃんとした職についている奴はそういうんだ!」

妹「そうだよ! お金がないなんてことなったことないから言えるんだよ! 私たちの苦しみなんて知らないくせに!」

警官「……お、おう。すまない」

兄「今までどれだけ履歴書書いてきたと思ってる! しかも送ったそのほとんどが切り捨てられる!」

妹「たまに雇ってもらえることもあったけど、中卒だからって見下した態度取られて、雑用ばっかり押し付けられる! 時間を過ぎて働いたって給料増やしてもらえない!」

兄「国民生活センターに行っても子供の戯言だって言って追い返される!」

妹「私たちに味方なんていないんだよ!」

警官「……苦労してんだな、お前ら」

兄、妹「同情なんてするなよ、このバカ!」

警官「してないよ! ……そういえば、中卒って言ってたけどお前ら何歳?」

兄「17歳」

妹「私は16歳」

警官「若っ! って親は? そんな歳で両親はどうしたんだ?」

兄、妹「…………」


 兄、妹、気まずそうに俯く。警官は察してバツの悪そうな感じに。


警官「悪い、聞かなくてもわかることだったな」

妹「申し訳なく思ってるなら、助けてよ」

警官「……わかったよ」

兄「マジで!? やったな妹よ!」

妹「やったね兄さん!」

警官「変わり身の早い奴らだな。……で、具体的に何をすればいいんだ? どんな仕事がしたいんだ?」

兄「うーん、とりあえず信用できるところ」

妹「長く続けられるところ!」

警官「ふむふむ。と言っても君らじゃあ……アルバイトからがいいんじゃないか? コンビニの店員とか」

兄「えー、やだ、飽きた」

妹「そうだよー。コンビニ店員なんて散々やったよー」

警官「でも君らの年齢じゃできる仕事は少ないぞ? それに高卒じゃないと……」

妹「そうやって学歴を最優先に考えるから仕事がないんだよ!」

兄「そうだ! なんで学校に通ってないと仕事に就けないんだよ! 教養なら中学までで十分だろ! 仕事内容なんて職に就いてから覚えればいいことなのに……!」

警官「仕方ないだろ、そういう風になってるんだから」

兄「えー」

妹「えーー」

兄「えぇーー」

妹「えぇーーーー!」

警官「やかましい!」


 暗転。

 明転。所変わって交番。兄と妹は机に向かい合うようにして座っている。兄は机に突っ伏し、妹は俯いて呪詛を吐いている。

 警官は二人の周りでオロオロしている。


警官「ま、まあまあ、気にすんなって。たかだか二十件の面接落ちただけだろ」

兄「たかだか二十件……?」

妹「馬鹿なのかな……?」

警官「いや、馬鹿はそっちだろ。……あ、すまん」

妹「ぐすっ」

警官「あああああ、ごめん妹さん! つい口が勝手に……!」

妹「(ぐずってる)」

兄「おお妹よ、落ち着け。よしよし、馬鹿はあいつだよなー?」

妹「(こくり)」

兄「そう、あいつは馬鹿だ。あいつこそが馬鹿なんだ。だからお前は馬鹿じゃないからな?」

妹「(コクコク)」

警官「聞こえてるぞ」

兄「聞かせてるし」

警官「おい!」


 警官、そっぽを向く兄と妹を見てため息をつく。


警官「とりあえず機嫌なおせ。まだバイト先はあるから」

兄「……ふんっ、どうせ無職の未成年なんて雇ってくれねーよ」

妹「そうだそうだー!」

警官「やけになるなって。ほら、履歴書。コンビニの店員を募集してるってさ」

兄「またか……? 嫌な思い出しかないんだが」

妹「書くしかないよ、兄さん」

兄「そうだな。……いっそ推薦状でも書いてくれたら楽なのに」

警官「そんなものはない」

妹「なかったら作ればいいじゃん!」

兄「そうだ! 作ればいいじゃん!」


 兄、妹、警官をじーっと見る。


警官「いや、そんな見ても無理だから」

兄、妹「じー……」

警官「無理なものは無理! わかったか!」

兄「ケチだな」

妹「うん、ケチ!」

警官「は!? なんでそうなる?」

妹「だってー」

声「緊急連絡。緊急連絡。〇〇駅前で傷害事件発生。直ちに現場へ向かうこと。犯人の特徴は黒パーカーにマスク、サングラス。折りたたみナイフを所持。発見次第捕縛せよ」

警官「了解しました。今から向かいます」


 警官、準備を始める。兄、妹、その様子をじっと見る。


警官「じゃ、俺行くから。君らはここでおとなしくしてて」


 警官、下手にはけようとする。


兄「……なあ」

警官「何だ?」

兄「…………行くのか?」

警官「そうだけど」

兄「なら、俺も行かせろ」

警官「は?」

兄「人手が足りないんだろ? 俺の時もお前しか来なかったし。だから俺も行かせろ!」

警官「いや、子供を現場に連れて行くわけには」

妹「私も行く!」

警官「妹さんまで!?」

妹「法律とかそういう難しいことはわかんないけど。私たち、伊達に苦労してたわけじゃないんだよ」

兄「ヤクザとか相手にしたこともあるしな。銃とか持ってなければ勝てるぞ」

妹「折りたたみナイフくらい、こっちだって常備してるしね」

警官「……ま、断って勝手についてこられても困るしな。わかった」

兄「よっしゃ!」

妹「やった! じゃあすぐ行こ! 今すぐ行こう!」


 兄、妹、下手にはけようとする。


警官「待て待て待て。何の準備もなしに行く気か?」

兄「準備ならしてあるぜ!」


 兄、カッターナイフを取り出す。妹、ポケットから折りたたみナイフを取り出す。


警官「……いや、何でそんなの持ち歩いてるんだよ!」

妹「護身用!」

兄「俺たちの立場だと、よく悪いやつに絡まれるんだ。だから」

警官「そもそも銃刀法違反じゃないのか?」

妹「6㎝よりも短いから、大丈夫!」

兄「カッターは文房具だよな!」

警官「……まあ、いいか」


 兄、妹、武器をしまう。警官、携帯を使って連絡を入れる。


兄「よっしゃ、行くぞ妹よ!」

妹「おー」

警官「おい待て! これ、そんなにテンションが上がることか?」


 兄、妹は警官の制止を聞かずに下手にはける。警官、慌てて追いかける。

 暗転。

 明転。駅前。

 犯人が次の獲物を探している。舞台の下手側には血のついた服が落ちている。

 上手から兄が最初に出てくる。コソコソ隠れながら何かを探すように。


兄「えーーっと、どこだ……? 犯人犯人……あ? あいつじゃね?」


 兄は犯人を見つけると壁に張り付いて隠れる。


妹「はぁ、はぁ、待ってよ兄さん、早いって……。……あれ? (キョロキョロして)あ、いた」

兄「あ、いた、じゃねーよ。お前も隠れろ、犯人に見つかるぞ。……って後ろ!」

妹「へ、後ろ? ひゃあっ!」


 妹、犯人に見つかって首にナイフを突きつけられる。


犯人「ひゃはははは! 動くなよ。おい、お前!」

兄「……俺?」

犯人「そうだ、お前だよ! いいか、金を持ってこい! ありったけの金をなぁ!」

妹「……え、私人質?」


 警官が出てくる。


警官「君ら速いって……。これが若さってやつなのか? いや、俺も十分速いはずなんだけどな……」

兄「おい、何のんきに落ち込んでんだよ! 早く隠れろ! お前が見つかるとさらに面倒なことになるんだよ!」

警官「え、何だよ?」

犯人「ん? お、お前……警察官じゃねーか! そこの警官! 上に連絡しろ。こいつの命と引き換えに一億円用意しろってな」

警官「え、何これ、どんな状況? えーっと?」


 警官、周りを見回す。


警官「何でこんなややこしくなってるんだ?」

兄「お前のせいだろ!」

警官「俺? いや、俺何もしてないぞ?」

兄「いるだけで厄介なんだよ」

妹「そうだよ! 存在自体が面倒なんだよ!」

警官「ひどくね!?」

犯人「黙れ! ふざけてんなよ、お前ら! 警官! 早く連絡しろ。こいつがどうなってもいいのか!?」

警官「いやぁ、別に」

犯人「は!?」

警官「案外、放っておいてもどうにかなる気がするんだよな」

犯人「お、お前、それでも警察官かよ?」

妹「そうだよ! 突っ立ってないで早く助けてよ!」

警官「……はぁ、仕方ない」

犯人「何をする気だ? 妙なことしたらこいつの命が」

警官「身のほどをわきまえろ、クソ犯罪者」


 警官、素早く拳銃(本物)を取り出して犯人に向ける。


犯人「なっ……」

警官「遅い。何もかもが遅い」

犯人「なんだと?」

警官「はぁ……。いい加減馬鹿なことはやめてその子を放せ。ナイフは地面に置け」

犯人「誰がそんなことするか! それに、この距離じゃ銃よりナイフの方が早いだろ!」

警官「それはどうかな。お前、人傷つけるの慣れてないだろ?」 ナイフ持つ手、震えてるぞ」

犯人「ふ、震えてねーよ! それがどうした!」

警官「だから、速さ比べをしたところでお前はあっさり負けるってことだ」

犯人「……仮にそうだとしてだ。こっちには人質がいるんだ。お前に引けるのか? その引き金が」

警官「ふ、そんなのどうって事ない」

犯人「何の根拠があって!」

警官「そうだな……射撃訓練では一度も的から外した事はなかったぞ。あと、動く的にも同様だ。俺は銃の腕には自信があってな。あとは、何となく?」

妹「なんか物凄く不安! え、私に当てないでね!?」

犯人「……く、どうすれば……?」


 兄、警官の肩を軽く叩く。


兄「なあ、それ、水しか出ないんじゃなかったか?」

警官「何言ってるんだ? そんなの出る訳ないだろ」

兄「じゃあお湯?」

警官「水でもお湯でもない。これは本物だ」

犯人「……は? 水? お湯? ……まさか、その銃はおもちゃなのか? てめぇ! 騙し」


 警官が上に向かって発砲する。銃はまた犯人に向ける。


警官「これは、本物だ」

犯人「ひっ……ほ、本物だからなんだ! その銃を撃ったらこいつを殺すからな!」


 兄、妹に手で何かを伝える。


警官「だからそんな手震えてたら無理だって。自分で気付けよ。バカなのか?」

犯人「うるさい!」


 犯人、兄と妹のやり取りに気づく。


犯人「おい、お前! 何やってる、こいつがどうなってもいいのか!?」

兄「はっ、何言ってんだか」

妹「やれるもんならやってみなよ」

犯人「お前らぁ……!」


 犯人、ナイフを大きく振りかぶる。そのナイフを警官が銃で撃ち、後方へ弾き飛ばす。


犯人「ぐあ……手が、手が……」

妹「隙あり!」


 妹、犯人に肘鉄を食らわせて逃げる。


妹「私がどうにかなるわけないでしょ? バカなの?」

犯人「お前……死ね!」


 犯人はポケットから2本目の折りたたみナイフを取り出し、妹に斬りかかる。

 そこへ兄が妹の前に出てナイフを止め、腹に蹴りを入れる。犯人ナイフを取り落とし倒れる。


兄「え? 弱っ」

犯人「このっ!」


 犯人は弱いため兄に拘束される。


兄「よし。妹よ、ロープ持ってないか?」

妹「持ってるよ。ホラッ」

兄「サンキュ」

警官「ああ、縛るなら俺がやるよ。貸して」


 警官、犯人の手と胴体を縛り始める。


兄「なあ、犯人さん。結局何がしたかったんだ?」

犯人「…………」

妹「そっちに血のついた服が落ちてるけど、あれ、あなたがやったの? さっきの様子じゃ故意にやったとは思えないけど」

兄「だな。……じゃあやっぱり事故か?」

妹「なのかなぁ? 事故って言うにはちょっと微妙すぎるけど」

兄「そこんとこ、どうなんだ?」


 警官、犯人を縛り終える。


警官「ほら、答えろ」

犯人「チッ……そうだよ! あたしが買ったナイフを確認しようとしたらそこの女がこっちに向かって走ってきたんだよ!」

警官「それで刺したわけか」

妹「せ……正当防衛?」

兄「じゃなくね?」

犯人「違う! 正当防衛だ! あたしはただナイフの先を女の方に向けただけだ! そこの女が勝手に刺されに来たんだよ!」

警官「仮にそうだとしても、妹さんを人質に取ったことはお前が自分の意思でやったことだろ?」

犯人「あれはっ……、あたしが逃げるためにどうしても金が必要だったんだよ!」

妹「は?」

犯人「どうせお前らは正当防衛だって言っても聞いちゃくれねぇんだろ!? なら逃げるしかないだろ!」

兄「なんでそうなる。他にもやりようはあったはずだろ」

犯人「それは……」

兄「つまり、お前はただのバカだったわけか」

犯人「うるさい! 仕方ないだろ? あの時はそれしか思いつかなかったんだ!」

兄「……はぁ」

妹「確かに、バカだね」

犯人「うるさい! それに、責められるのはあたしだけじゃないはずだ。そこのお前だって同じようなことしてただろ。あたし見てたんだからな!」

兄「えええ……俺はただ求人票の一番前か後ろについている履歴書を十数枚もらっただけだ。間違っても人を傷つけたりしていない」

犯人「だけど」

警官「あのな、こいつを同類にしようとしても無駄だぞ。こいつがやったことといえば元々無料のやつを大量に持って行ったくらいだからな。犯罪かそうじゃないかと言われれば、そうじゃない」

妹「そうだよ。あんたなんかと一緒にしないでくれる?」

犯人「…………」

警官「お前の罪は傷害罪、脅迫罪だ。正当防衛だと主張したいなら大人しく救急車を呼んで、自首すれば罪は軽くなっただろうが……もう遅いな」

犯人「…………」

兄「あのさ、警察はお前が思ってるほど冷酷じゃないぞ。この警官さんは、なんだかんだ文句を言いつつも俺たちのことを助けてくれたんだ」

妹「そうそう。ちゃんと誠意をもって話せば聞いてくれるし。もう少し、警察のことを信用しても良かったんじゃない?」

警察「君ら……」

兄「まあ、色々と世話になってるし、な」

妹「……あれ、兄さん照れてる?」

兄「照れてない」

警察「へー? そんな風に思ってくれてたんだな。照れくさいけど、なんか嬉しいな」

兄「ち、言うんじゃなかった」

妹「まぁまぁ」


 パトカーの音が聞こえてくる。


警官「そろそろ時間だな。ほら、立て」


 警官、犯人を立ち上がらせる。


兄「俺たちはここで待ってればいいか?」

警官「ああ。後で報告書手伝ってもらうからな」

兄「え゛、やだよ」

妹「わ、私頭悪いから遠慮するよ」

警官「はぁ、都合のいい奴らだな。行くぞ」

犯人「…………待てよ」

警官「なんだ? まだ何か抵抗する気か?」


 犯人、兄妹の方を向いて頭を下げる。


犯人「迷惑かけて、すみませんでした」

妹「およ?」

兄「お、反省したか? なら俺の妹に手を出そうとした罰として土下座して靴を舐めろ」

警官「やめろや」


 警官、兄を頭をはたく。(ハリセンとかあるといいかも)


兄「いてっ!」

妹「あー、暴力だー、いけないんだー」

警官「うるさいっての。……で? もう言うことはないか?」

犯人「ああ」

警官「じゃあ早く行くぞ」


 警官と犯人、上手側へはける。


妹「なんか、嬉しいね」

兄「そうだな。無銭労働のボランティアみたいなものだけど、やりがいはあったな」

妹「ただのお節介だったけど、私たちのしたことで悪人が一人減ったんだよね」

兄「多分な。あの謝罪が嘘だったら別だけど」

妹「それは、気にしなくていいんじゃない?」

兄「だな」

妹「…………ね、兄さん。これからどうする?」

兄「今まで散々危ない橋を渡ってきたけど……図々しいよな」

妹「あの警官さんのことも結構雑に扱ってきたしねー」

兄「頼んで聞いてくれるかどうか」

妹「うん。微妙なところだよね」

兄「……ま、言ってみる価値はあるよな」

妹「あ、あの警官さんバカだから意外とすんなり行けるかもしれないよ?」

兄「そうか? あいつはバカだけど、勘は……よくないけど。警察官としては優秀な奴なんじゃないか? だから」

妹「大丈夫大丈夫。バカだもん!」

兄「……そうだな」


 上手から警官が戻ってくる。


兄「あ、警官さん。犯人は?」

警官「オッケー、無事に受け渡したよ。警察に行ったら早速事情聴取されるだろうな」

兄「そっか」

妹「ね、あの人の罪ってさ、どれくらいの罰になるの?」

警官「それはこれからの捜査次第だな。少なくとも無罪にはならないと思う」

妹「そう……警官さん、あの犯人を捕まえられたのって、私たちのおかげだよね?」

警官「うん? まあ……そうだな」

兄「覚えてるなら話は早い。あのさ、俺たちの就職の話なんだけど」

警官「なんだ? 唐突に」

兄「あれ、延期してくれないか?」

警官「は? お前ら就職したかったんじゃなかったのか?」

兄「そうだけど」

妹「私たち、他にやりたいことができたんだよ」

警官「ふーん。じゃ、俺の協力はもう必要ないってことか?」

兄、妹「そうじゃなくて!」

警官「…………チッ」

妹「私たち、警察官になりたいんだ」

兄「ほら俺たちさ、色々やってきたから戦えるし、法に触れないために少しは法律の勉強したこともあるんだ」

妹「まだまだ人として未熟だと思うけど、世間の厳しさとかは知ってるし……せめて交番勤務でもいいから! だからお願いだよ」

兄「な! 俺たちを警察官にしてくれ!」

警官「……それは、俺に何か口添えしろと?」

兄、妹「(大きく頷く)」

警官「いや、無理だから。俺はただの、一介の警官だから。上に口添えとかできるほど発言権持ってないから!」

兄「……警察は国民の味方じゃなかったのか」

妹「……なのに、助けてくれないんだ」

警官「ぐっ。いや、そんなに見ても無理なものは無理だって」

兄、妹「ケチ」

警官「うるさい! 無理だって言ってるだろ!?」

兄、妹「ぶーぶー」

警官「この、バカ兄妹! 神谷ソルと神谷サリア!」

兄「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

妹「何故に私たちの名前をぉぉぉおお!」

警官「ふ、俺は警察官だぞ。情報収集など基本中の基本。そんな俺がお前らの名前を知らないはずないだろ? な、ソル」

兄「やめろぉぉぉぉぉおおお!

警官「悔しかったらもっと勉強しろ、ソル」

兄「うぁぁあああ! ぐはっ」


 兄、倒れる。


妹「あぁ、兄さん! やめて、兄さんのライフはもうゼロだよ!」

警官「そんなに嫌なのか? 自分の名前が」

妹「嫌だよ! 今時キラキラネームなんて流行んないよ!」

警官「神谷サリア?」

妹「ぐはっ!(倒れる)」

兄「(復活する)くそ、いつまでも調子に乗っていられると思うなよ」

警官「なんだ、やる気か? 神谷ソル」

兄「ぐはっ。(倒れる) ひ、卑怯だぞ、お前。俺たちが警官さんの名前を知らないのをいいことに!」

警官「まだまだ甘いな。情報収集も大事だが、本当のことをペラペラ喋らないようにするのも必須だぞ?」

兄「う……。確かに俺たち、警官だからって理由でお前のこと信用してたな」

妹「(復活して)やっぱり、私たち何もわかってなかったんだね」

警官「そうだな」

妹「うっ!」

警官「でも、君らはまだ17歳と16歳だろ? 大抵その年のやつらは高校生だ。世間の大変さもまだ知らない歳だろう。だから、彼らより君らの方が社会のことは詳しいと思うよ。そこが君らの強みだ。何も劣ってると思う必要はない」

妹「え」

兄「え、何良い雰囲気に持って行こうとしてんの?」

警官「うるさい、黙ってきいてろ。だからな、今は警察官に必要な知識はなくて良い。これから学んでいけば良いんだからな」

兄「え、まさか」

妹「もしかして、学校に通えるの?」

警官「そうだ」

兄「って、普通の?」

警官「いや、警察学校だ」

兄「お、お金は?」

警官「俺が出す。今までバイトで貯めた分があるし、実家にも掛け合ってみる。まあ、全額後で返してもらうけどな」

妹「当然だよ!」

兄「よっしゃぁ! これで無職とはおさらばだ!」

妹「長かった……。たった一年だけど、やっと落ち着けるよ」


 兄、妹、ハイタッチをする。妹、若干涙目。


警官「なんだ、そんなに嬉しいことか?」

妹「嬉しいよ! 今までは本当に辛かったんだから」

兄「ふん、この嬉しさ、お前には一生わからないだろうけど」

警官「言ってろ。妹さん。じゃなくてサリアさんは泣いてるし」

妹「泣いてない」

警官「いや、泣いてるじゃん」

妹「だから、泣いてないって言ってるでしょ!」

警官「おいおい、恩人のになんて口を利いてるんだ」

兄「それとこれとは話が別だ!」

妹「そうだよ。それに今私の名前言をったでしょ!?」

警官「言ったよ。 別に、減るもんじゃないし、いいだろ? ソル、サリア」

兄「このっ、やるぞ、妹よ!」

妹「うん。覚悟__!」

警官「え、ちょまてよ。やめろ、ぎゃぁぁあああ!」


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