神の力
「っ、マーカスさん、それは本当ですか?」
玄関に行くと、クオンの緊張した声が聞こえた。其処にはクオンともう一人、青髪の青年が居た。
二人とも、表情が硬い。何かあったのだろうか?リンネはクオンにそっと話し掛ける。
「・・・クオン?」
「あ、リンネ・・・。今から少し出掛けてくるから、リンネは此処で待っていて」
「・・・・・・何か、あったのか?」
やや焦った様子のクオン。リンネは出来る限りやんわりと問い掛ける。
クオンは少しだけためらいを見せるが、やがておずおずと話し始める。
「・・・・・・近くの村に、オーガの群れが現れたの」
「オーガ?あの頭に二本の角を生やした、巨躯の怪物か?」
「うん、そうだよ」
リンネの問いに、クオンは頷く。リンネの脳裏に、昨日出会った巨鬼の姿が過る。
なるほど、どうやら奴等が近くの村を襲っているらしい。
もしかしたら、リンネが逃げたのを追って村まで来たのかも知れない。
だとすれば、やはり責任は取るべきだろう。
リンネは一瞬で考えを纏めると、マーカスというらしい青年に向き直る。
「俺を、その村へと連れて行って下さい」
「っ、本気か!?」
「リンネ!!?」
マーカスとクオンは同時に驚愕の声を上げた。二人とも、その表情は焦っている。
当然だ。見ず知らずの人間を、オーガが暴れている村に連れていく訳にはいかないだろう。マーカスはリンネに諦めるよう、何とか諫めようとする。
しかし、対するリンネは動じない。真っ直ぐマーカスの瞳を見る。
その真っ直ぐな瞳に、マーカスの方がたじろいだ。
恐らく、リンネは絶対に引かないだろう。それを、即座に理解させられた。
マーカスは溜息を一つ吐く。そして、リンネを真っ直ぐに睨んだ。
「っ、解ったよ。死んでも知らねえぞ!!!」
「っ!?マーカスさん!!!」
クオンは驚きの声を上げる。しかし、リンネはマーカスを連れてさっさと出ていってしまった。
クオンは慌てて二人の後を付いていった。
・・・・・・・・・
村は酷い有り様だった。村の男達が必死に抵抗していたが、それでもオーガの方が優勢だった。
中には、死人も出ていた。それでも女子供に死者が出ていないのは、男達の抵抗のお陰だ。
それも、時間の問題だろう。
その凄惨な光景に、クオンとマーカスは息を呑んだ。
「っ、これは・・・」
「ひでえ・・・・・・」
呟いた言葉は、誰かの断末魔にかき消される。あまりにも酷い光景だった。無残だった。
そんな中、リンネは冷静にオーガの群れを観察していた。オーガを確実に、残らず始末する為だ。
オーガの数、個々の強さ、団結力を確実に把握してゆく。
そんなリンネの様子に、クオンが不審に感じた。その瞬間———
リンネが呟いた。
「行けっ!!!」
刹那、リンネの影が蠢き、村人を襲うオーガの群れへと伸びた。
「「っ!!?」」
その光景に、クオンとマーカスは目を見開いて愕然とした。
リンネの影はたちまち獅子の顎となって、オーガに食らい付いた。
飛び散る鮮血。しかし、他のオーガがそれに反応した時にはもう遅い。
影の獅子は次々とオーガ達に襲い掛かり、疾風の如く駆け抜けてゆく。
・・・数秒後には、もう全てが終わっていた。影の獅子は、再びリンネの影に戻った。